100.綺麗な空
「……ん」
小さな声を漏らし、リレイヌは目を覚ました。重いまぶたをそっと押し上げた彼女が先ず目にしたのは、目の前で眠る睦月の姿だ。
思わずパチリと目を瞬いた彼女は、そのまま無言で停止。したかと思えば、そろりと視線を横にずらし、起き上がろうと手を地につけ力を込める。
「……リレイヌ」
ふと名前を呼ばれて目の前の彼を見れば、うすらと開かれいく紫色の瞳がゆっくりと彼女の姿を映しこんだ。半分起き上がったリレイヌは戸惑ったように彼を見ている。
「……よく眠れたか?」
「え? あ、うん……ねむれた……」
「そっか。そりゃあ、良かったよ」
言って、勢いよく起き上がった睦月。彼は無言のリレイヌを目にすると、やがて不思議そうな彼女を見てへらりと笑う。
「俺さ、考えたんだ。力のない俺が、どうやったらお前のこと守れるか。どうやったら、もう二度とお前のこと泣かさないで済むか。考えたんだ」
「……睦月」
「……考えてさ、思いついた。シンプルだけど、強くなればいいんだって。そしたら、きっと……どんな悪意からも、今度こそリレイヌのこと守れるかもしれない、って……」
そっと、睦月は彼女の小さな手をとった。あたたかな彼の手と冷たい彼女の手が、交わるように繋がれる。
リレイヌは繋がれた手を戸惑いがちに見つめ、それから恐る恐ると睦月を見た。「どうしてそこまで……」、と不安そうな彼女に、彼は──睦月は笑みを消してそっと告げる。
「好きだから」
「へ?」
「リレイヌのことが、好きだから」
ぽん、と赤くなる彼女に笑い、睦月はそっと彼女の滑らかで柔らかな頬を撫でやった。慈しむように、愛しむように、優しい手つきで、撫でやった。
「好きだ、リレイヌ」
「あ、えっ、と……わた、し、その……」
「……返事はいい。俺は俺の想いを伝えただけだし。それに、いつか絶対、お前のこと振り向かせるしな」
言って笑った睦月は、そのまま立ち上がると火が消え暗くなった洞窟の出入口の方へ。寝静まった皆を起こさぬように外へと出ていく。
リレイヌはそんな睦月の後ろ姿を見つめながら、バクバクと鳴る心音を止めるようにそっと胸元に手を当てた。そのまま、赤い顔を隠すように下を向けば、「おい、リレイヌ」と出入口近辺から声。少し潜めたようなそれに慌てて立ち上がり洞窟を出れば、共にキラリと地下の空を流れるなにか。驚き目を見開く彼女の視界、眩いばかりの星空が広がっている。
「ココが生き物の中だって設定、これじゃ忘れちゃうよな」
そう言い、隣で笑う睦月。明るいそれに目を奪われるリレイヌは、ハッとしてブンブンと頭を横に振り、やがてひとつ頷いた。
「どした?」と不思議そうな睦月に、「な、なんでもないよ!」と返して彼女は笑う。
「? まあ、なんでもないならいいけど……あ、またなんか飛んだ」
キラリ キラリ
睦月の声と同じくして、瞬くように落ちていく星々。綺麗なそれをぼんやり見上げながら、リレイヌはキュッと両の手を握り合わせる。
「……きれい」
「だな」
ふたりはそう言い、お互いを見やって笑い合う。
こんな時間が、長く続けばいいのにと、そう、思いながら……。




