99.人狼は思う
「──遅かったな」
戻ってきた睦月たちに、リックは一言そう言った。
あれから、体感的に15分ほど。
なるはやで洞窟に戻った睦月とアジェラは、ひとり座り込むリックを見て目を瞬いた。そうして無言で周囲を見回す彼ら。アガラがその姿に笑いながら、小声で「奥だよ」と告げている。
「「奥?」」
「ああ。あの子なら奥で眠ってる。ここからだと積荷でよく見えないが……」
言われて軽く移動すれば、確かに洞窟の奥の方に小さな彼女の姿があった。敷かれた布の上で丸まり眠る彼女は、どうやら随分と泣いた様子だ。閉ざされた目元が微かに赤らんでいる。
「随分と無理をしていたみたいだ。つい先程まで泣いていた」
「……リレイヌ様」
しょもんと落ち込むアジェラをよそ、睦月は水の入ったバケツをその場に置くと、そっと眠るリレイヌの傍へ。その傍らで膝を折り、戸惑いがちに手を伸ばして静かに彼女の頬に触れる。
「おい」
リックが眉を寄せた。そうして不満を表す彼を背後、睦月は黙って目を細める。
「……しんどいよな」
出会ってから今まで、知ってるのは彼女があまりにも辛い目にあってきた事。その事実。
自分が代わってやれたらどんなにいいだろうと、軽く目を伏せ彼は彼女の隣で横になる。
「おい、何してる」
苛立ったようなリックの声に「俺も寝る」、とだけ返し、睦月はそのまま目を閉じた。耳に聞こえる不満気な文句は敢えて無視だ。
(辛くないわけない)
(悲しくないわけない)
(コイツはずっと苦しんでる)
(ずっとずっと、苦しみ続けてる)
せめてその苦しみを取り払えてやれたらどんなにいい事だろうかと、睦月は考える。考えて、しかしなにも浮かばぬ頭に嫌気を覚えながら、睦月は鼻から小さく息を吐き出した。
救いたい。救えない。
もどかしい思いが、胸の内に燻っていく。
「……さて、晩ご飯の支度でもしようかな〜」
「手伝います」
「お、いい子だねアジェラは。じゃあお言葉に甘えて手伝ってもらおうかな。ちなみにリックも強制参加ね」
「……それは、構いませんが……」
「よし、じゃあ鍋と材料を用意して──」
聞こえる三人の会話を耳に、睦月は意識を闇の中へ。深く深く落としながら、ゆっくりと眠りについていく。
(しあわせな未来を)
(コイツが、リレイヌが笑える明日を作らないと)
(そうでないと俺は)
(俺は──)
くう、と寝息があがる。
それに目を向けたアガラは沈黙。そっと、困ったような笑みを浮かべていた。




