表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/66

63.

石段での会話にて。

杵屋依杏(きねやいあ)の夏休みの宿題はさておき、慈満寺(じみつじ)に泊まるの、泊らないの云々。

そのあと、八重嶌郁伽(やえしまいくか)の話になった。


現在、郁伽は劒物(けんもつ)大学病院にいる。

本堂の遺体も、一旦はそちらに運ばれることになる。

立ち会うという数登珊牙(すとうさんが)は、郁伽のことも訪ねたいという。


お見舞いか……。

寧唯(ねい)も電話で、そんなことを言っていたような。

と依杏は思う。


いずれにしても、「第一条件にはなり得ない」。

そう発言した、数登。その言葉。

依杏には、もう少し「音」に関する情報が欲しいところだった。


が、ひとまず、本堂に入ってしまった。

この時点で、刑事の怒留湯基ノ介(ぬるゆきのすけ)に。主導権を握られることは間違いなく。


彼は来た。


と同時に、依杏は圧倒された。

大きい。睨まれている。

仏像である。


慈満寺の本尊、写真で。

それもパンフレットの写真で見たものが、今眼の前へある。

ギョロギョロした眼。

それが、見ている。


「おーい」


と怒留湯。


依杏は、ふと気付いた。

地下から運ばれた遺体とも、彼女とあまり距離のないことに。







怒留湯。


「そっちにとりあえず、掛けてくれる?」


「は、はい」


と依杏。


本堂内、ほうぼう並んだ椅子へ腰掛ける二人。

依杏は改めて見回した。


天井から下がった天蓋(てんがい)

天井の格子。格子の中の一つ一つ、絵。

正面には本尊。


「仕切り」みたいなものがある。

大注連縄(おおしめなわ)だろうか。

そこから一歩は入ることは出来ない。とその縄が言っている。


恋愛成就キャンペーンの最中。

その時間帯ではここに、参拝客とそれから、慈満寺関係者がみんなして、詰めていたということになる。







怒留湯は言った。


「何か怪我とかは、していたりするのかな」


「え」


と依杏は言った。


「何か怪我と言いますと」


「いやさ、あれ? さっき寝ていたんでしょう」


「寝ていました」


「だろう。オケから聞いたよ。ここの本堂の前で、気絶したとかでさ。どっか擦りむいたとか。ない?」


「あの、いえ。大丈夫なんですけれど、何か怪我っていうか」


依杏の視線は、先程の遺体のほうへ。


怒留湯も同じ方を見つつ。


「さっき数登さんと、話をしていて」


「今も、ばっちり居るみたいね。彼」


「はい」


「たぶんもう少ししたら、遺体を移動するよ。劒物大学病院にだ。それで?」


「遺体にあんまり外傷が、なかったっていう話です。それを数登さんが云っていて」


「ああ」


怒留湯は帽子ごと、頭を掻いた。


「そうだね確かに。まあ。ええと、杵屋さん、でいいかな」


「はい」


「杵屋さんにも怪我は特になし。で、遺体にも外傷は少なかったし」


「数登さんに聞きました。外傷の件」


怒留湯は苦笑した。


「あんまり話されると困るんだけれどね。まあいいや。ではね。今日。午後三時四十分から五時過ぎの間だ」


メモを取り出して言う怒留湯。

依杏は背筋が伸びる。


怒留湯。


「遺体のことには、君と何も関わりがない。と。杵屋さんは気絶して、あの部屋で寝ていたから」


「そ、そうです。一応証人も居るんですけれど何て言うか」


依杏は苦笑した。


「数登さんも、私と同じ部屋で。仮眠? していて」


「らしいね。ほうぼう、ぐるぐる動き回っていたらしい」


「動き回っていた」


「そう。午後三時四十分から五時過ぎくらいの話。数登さん自身の移動が、多かったらしい」


「移動」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ