61.
第一条件ではないとすると、第一条件になり得るものって何だろうなあ。
音って一体、何なのだろうか。
私も郁伽先輩ともし一緒に、午後の時間帯。
数登珊牙さんの調査へ、一緒に参加していたら、音がどんな感じだったか分かったと思うけれど。
でも数登さんは音に関しては、何も自分で耳にしていないはずだ。
何かを聴いたという意味で。
数登さんは一時本堂、その裏から離れていたのでもあるから。
杵屋依杏は、ぼんやりとして。
ふと、とりとめもなく考えている。
石段に腰掛け。
上天の月。
月というのは、見たいときに限って満月ではない。
ぼんやりと見上げると、満月だったり。
あるいは、かなり大きい月だったりする。
地球が月に接近しているのか、月が地球に接近しているのか。
何かの軌道の関係か。
今は満月だ。それほど大きくはない。
更に、こんな。とりとめもない考え。
足音。依杏は見上げた。
数登珊牙である。
「あれ」
依杏は言った。
石段へ依杏と同じように、数登も腰掛けた。
依杏は数登へ尋ねる。
「あの。ご遺体は」
数登は一瞬、後ろへ振り向く。
依杏へ再度。
「たった今。見て来ましたが」
「ええと」
と依杏。
「もっと、よく見なくていいんですか。その、ご遺体?」
「どの部分をです」
依杏には分からない。
「例えば外傷、とか」
「それは、これから詳しく。丁寧に観察してくれている方々も、今はいらっしゃいます」
と数登。
「確かに外傷はあまり、ありません。表面上の話に限りますがね。脚の裏に、火傷の痕がありました」
「火傷」
火傷?
煙草の火を踏んだ、とか。
依杏。
「それ以外にはなかったんでしょうか」
「ええ」
数登は言う。
依杏は言った。
「夜になりました」
「ええ」
「数登さんも、慈満寺の会館にお部屋を?」
数登は肯く。
依杏。
「それは、慈満寺への派遣で、泊まり込みの。ということですか」
「ご名答」
数登は尋ねる。
「あなたはどうするんです」
「え」
「失礼。杵屋さんでしたね。電車の時間」
「あ」
依杏は眼を伏せた。
「どうしようか迷っていて。今」
電車も分かるが、先程まで居た部屋に泊まるか否か。
ということについても、依杏は考えている。
考えがまとまらない。
部屋へ無料で泊まるためには、アルバイト必至。
刑事の怒留湯基ノ介から、聴取は必ず受けろとも、云われている。




