49.
杵屋依杏に話を振るのをやめて、数登珊牙は、鐘搗麗慈に。
「そちらは」
と振る。
「音の話?」
「ええ」
「それは収穫があったよ」
「ほう」
「変な音、鳴った。そっちの収穫があったんで、ちゃんと録音しときました。自動でね。だからあんまり精度は高くないです。郁伽ちゃんは病院へ行ったし、あたふた、したから」
「なるほど」
「音ってなんだ?」
釆原凰介が尋ねる。
「音です。その名の通り、変な音」
「じゃなくて、それと今の話に何か、関係があるのかってことを聞きたいっていう意味」
「ええと」
麗慈は考えこんだ。
「一応の慈満寺関係者なんで。ぼく。発見したことが一つありまして」
「どんな」
「珊牙さんには繰り返しになるけれど、他の人は初めてでしたね」
と麗慈。
「一応、関係者として本堂裏への出入りなんかがあるんです。ぼく」
「ああ、さっきの小さい扉の場所ね」
と釆原。
麗慈。
「そうです。今回は合流出来なかったけれど、ぼくだけだったら何回か。あの本堂裏へ行っています。前の時も、恋愛成就キャンペーンだったんですよ」
「前の時?」
「そうです。掃除だったり秘仏だったり、色々出入りしてまして。もちろん、ぼくは正規職員ではないんで、他の人も一緒ですけどね。置いておいて、とにかくキャンペーン中に鐘が鳴るでしょう」
「うん」
「鐘と一緒に、別の音が鳴るのを聴いたんですよ」
依杏が横から。
「キャンペーン中なら、祈祷の音とかじゃない?」
「いろんな妙な音が大きいですからね。祈祷の音だって思えば、一括りには出来ると思います。よく知ってますね」
「一応、キャンペーンに参加に来てるから……」
と依杏。
「ぼくだってまあ、聞き逃そうと思えば、出来たかもしれないです。あれは祈祷の音じゃないです。ただ、何の音かは分からないんです。現時点ではね」
「今日もその音を聴いた?」
「近い音を聴きました」
「ええと。聴こえたの?」
「聴きました。せっかくの機会、ぼくだけですけれどね」
「梵鐘を勝手に鳴らしたっていう妙な話は……」
と依杏。
麗慈。
「珊牙さんです」
「何か、こう関係が」
「ないとは言い切れないから、珊牙さんは周辺調査しているということです。大勢を目の前に、勝手に梵鐘を鳴らすのは。大方、普通はどうかと思うけれど」
と麗慈。
依杏。
「梵鐘が鳴ると、別の音が聴こえた?」
「そうとも限りません」
と麗慈。
依杏。
「じゃあ」
再び畳へ寝ころんで、ゴロゴロし始めた数登へ振る。
「数登さんは梵鐘を鳴らしてみて、何か分かったことはありましたか?」
「分かったこと」
「いえその、何か収穫っていうから」
数登は釆原凰介へ尋ねる。
「取調は」
釆原は苦笑。
「訊きこみは必要だろう。取調って、俺たち犯人じゃないんだから」
「しかし、何かは訊かれるのでしょう」
「そりゃあね。結局、俺たちの所にもまわってくる。無理なら、受けなくていい」
と、釆原は依杏に。
「ああ、えっと。大丈夫だと思います」
数登は、依杏へ言う。
「せっかくですがね。梵鐘だけでは、足りないようです」
「は?」
と依杏。
何が何だか分からない。意味も。
足りない?
数登。
「第一条件にはなり得ない」
「なり得ない」
ちんぷんかんぷん。
「俺の方が。慈満寺の正規職員とやらへ、いろいろ訊きたい立場だがな」
釆原は、ぼんやり言った。
「記者ですからね」
と寝ながら、数登。
釆原。
「また別の話だと言いたいところだが。まあな」




