48.
「分かりました」
と数登珊牙。
杝寧唯は続ける。電話の向こう。
「予想だけれど、一つか二つか三つ。一応研究会で共有したりしようと思っていた。で、今の想像と予想を言う前に、いくつか質問させて」
と杵屋依杏に振る。
「質問?」
「そう。難しくもないし、大袈裟なもんじゃないから。イアンはとりあえず、今はどこにいるわけ?」
「ええと」
慈満寺会館の、とある和室に居るよということを遡って話す。
自分が、梵鐘が鳴っている最中に、気絶したということも。
「気絶した……」
「そ、そう。一番驚いているのは自分だけど。ついでに寧唯も、いなくなっちゃうんだもん」
「ごめん。でも今、話しているからさ。釆原さんから数登さんに、ファイルを渡す件は成功したんだよね? 麗慈くんは?」
「います」
と鐘搗麗慈。
「じゃ、郁伽先輩は?」
依杏。
「それは」
地下で亡くなった人が出たという話は今、寧唯にしていない。無理をさせたくなかった。
今後もする予定はない。
今はまだ。
依杏は、数登と釆原の顔を交互に見た。麗慈も。お互いに。
「あのね。郁伽先輩も倒れたんだ。あたしとは少し状況が違うけれど」
それから八重嶌郁伽が、今は劒物大学病院へ居るという件を。
寧唯へ伝える。
如実に驚いた様子。
いろいろ言ってきた。
体調は、今は安定していたりする、ということを伝える。
「そっか……」
と寧唯。
「じゃあ、ええとね。ちょっと情報を整理してみる。郁伽先輩とイアンらは、梵鐘が鳴っている時に? 地上にいて倒れたっていうことになる。そんな感じでいい?」
「うん」
と依杏。
寧唯は続ける。
「となればさ、複雑かな。亡くなった過去二人っていうのは地下で。地面の上でしょう。今回は話が複雑だと思う」
「今回も、人が亡くなったのは地下だよ」
「地上で倒れたイアンと郁伽先輩が居る」
「……」
沈黙。
そういえば、人が亡くなったというのはあったけれど。
気絶したっていう件。情報が出たのは、今回が初めてのような気が、依杏にもした。
寧唯。
「ちょっと、ちょっと待って! 考えてみる。考える」
「大丈夫? 無理しないで」
「そっちこそだよ。先に郁伽先輩のお見舞いへ行って来る。ひとまず済ませたい用事、何件かあるし。慈満寺にも、また行くからさ」
「お見舞い行きたいな」
「イアンは今日、どうすんの。そのまま慈満寺に居るとか?」
「あ」
考えていなかった。
そう、こんなことになるとは。
倒れるだなんて、思ってみないことだった。
依杏はただ、慈満寺へ来るだけの。そんな微妙な予定でいたのに。
依杏としては、寧唯に「恋愛成就キャンペーンへ一緒に来て」と言われたことが、とても大きい。
八重嶌郁伽の、個人的な調査に同行したり。
鳴る梵鐘を聴く。
少し考えを巡らせる。
慈満寺本堂内を歩き回る。
それらしい謎への見解を三人でまとめる。
梵鐘が鳴り止んで、帰宅する。
現状で、全く。無理にでもやりたくない夏休みの宿題に、手をつけるだろうな。
大方、そんな一日の予定でいた。
「どうしよう。考えていなかった」
依杏は言った。
寧唯が笑っている。
依杏。
「たぶん、もうちょっとこっちでも考えをまとめる、とか」
「とりあえずの予定だな」
「で、いかがでしたか」
と数登。
「え」
依杏は眼をぱちくり。
「何も訊き出せませんでしたね」
「今の場合、そういうことになりますね」
と依杏。
数登は微笑んだ。
何か掴んでいるような、寧唯からはそんな印象を受けたが。
依杏は、何も掴んでいない。
まず、自分が気絶したということだけで、もう頭がてんてこ舞いなのだ。
寧唯は、慈満寺にまた顔を出すと云っていた。
一旦帰ってしまった寧唯。
郁伽が常に携帯していたピルケース。
依杏がピンと来たことと言ったら、そのくらいである。
本当は、あれは。「喉の通りをよくするタブレット」なんかでは、なかったのだろう。




