45.
ちゃぶ台へ腕を載せ、手を組んだ釆原凰介。
「亡くなった。地下で一名」
「え……」
言ってポカンとしたのは、杵屋依杏。
数登珊牙。
「どういう意味ですか」
「そのままの意味。また死人が出た」
と釆原。
依杏は、さすがに。布団に載せていた頭を起こす。
出たって。
地下で?
そんな、まさか……。
釆原。
「遺体の発見はすぐではなかったらしい。恋愛成就キャンペーンの祈祷が終わって、少し経ってからだったそうだ。地下入口の、扉は破壊されていた」
「扉って、地下の? 今日? IDロック盤とか」
ひとたび、依杏は尋ねる。
釆原。
「その通り。細工か何かしたんだろう、という話だ」
「飲む? それとも、まだ休むか。休んだほうがいいと思うけれど」
釆原は言って、小さいペットボトルを取り出す。
依杏は布団から出た。
「休むけれど、飲めます」
鐘搗麗慈。
「ぼく、お茶持ってきます。要る人は?」
数登が寝ながら手を上げる。
で、ちゃぶ台に甘味飲料と、お茶と。
釆原の話。
午後五時頃。
地下で遺体が発見されたという。
ニット帽にサンダル。
仰向けに倒れていた、その顔には無精髭。
恋愛成就キャンペーンの後、参拝客が捌けて少し経ったあと。
慈満寺に勤める一人の僧侶が、地下へ入って遺体を発見した。
地下の宝物殿、その入口には分厚い扉。
そこまでは狭い通路で、地下全体の通路とつながっている。
地下の防犯カメラ。
映像の乱れはあった。
それ以外には異常なし。
数登は、遺体が発見されたということを知らなかった様子。
依杏から見ると、そう見えた。
数登の表情と眼に、緊張の色が出たのを、依杏は初めて見た。
もっとも、六月以降あまり会ったことのない人物では、あったものの。
依杏にも衝撃だった。
「慈満寺で鐘が鳴ると人が死ぬ」。
また、同じことになった。
そして、自分も倒れている。
何故?
「鉄扉のこと、あたしと釆原さんも見た。麗慈くんたちも、本当に本堂裏へ居たんだなって思った」
本堂裏の話。
八重嶌郁伽はこの場には居ないが、鐘搗麗慈と一緒に居たというのは、話の中でも出たので。
「鉄扉の向こうは見ました?」
と麗慈。
依杏はかぶりを振る。
「そこでぼく、郁伽さんは付いて来たんですけれど。地下入口を見張っていたんだ」
「大方、珊牙の言った通りだな」
と釆原が補足。
麗慈。
「珊牙さんに用事が出来たっていうんで、ぼくと郁伽さんのみでした。で、突然倒れたものだから」
「郁伽先輩が?」
と依杏。
麗慈は少し鼻をすする。
「そうです。大変だった。電波がおかしいおかしいって、何度も言ってたんで。なんかその時に、咄嗟に気付ければ。よかったんでしょうけれど」
「電波がおかしい?」
依杏も、それは思っていたことだった。
郁伽に電話が、繋がらなかったこともあった。
「ぼくにはよく、分かんなかったんですけれど。で、その後……」
郁伽が劒物大学病院へ運ばれた。
その非常手配をした、という報告のような。
「ええ」
数登は肯く。
麗慈。
「うん。それでね、それで……ええと。地下入口の見張り画面。画面が真っ黒になっていたんで」
麗慈はシュンとした。
「さっき釆原さんも、地下入口の扉が破壊されていたって。言っていたでしょう。それで見張りもダメになってました」
「なるほど」
数登は言った。
「その扉の破壊も含めてだ。いま調査中というか、捜査に警察が来ている」
釆原は手で示した。
「俺らが居る、この部屋以外は大体」
「大体って言うと」
依杏は眼をぱちくりして言った。
「刑事さんが、この会館自体に?」
「そう」
「地下入口の扉を破壊した人。見当は?」
数登は尋ねる。
釆原。
「そんなに早く付くわけないだろう」
「あの」
麗慈は言ったが、シュンとなった。
「何です」
と数登。
「IDロック盤はカードリーダーがあるでしょう。読み取らせれば、扉がひらいたときの、多少何かデータは残る。それ、ぼくんとこにも来るんで」
「あのう」
と依杏。
「どうしました」
数登は尋ねる。
「あの、郁伽先輩はいま……」
「安静にしていますから、大丈夫ですよ」
「そうでした。よ、よかった」
依杏は言った。
「そ、それで」
「何」
麗慈は少し呆れたように。
依杏。
「地下の見張りとかデータとか、どうしたの」
「来たデータは一応保存してあるんです。ぼくんとこへ」
で、スマホを操作し始める。
依杏は、その手元を見つめた。




