44.
鐘搗麗慈は、ドタラッと胡坐をかき。
大の字に近い雑魚寝しているのは、数登珊牙。
畳の上。
ちゃぶ台。
釆原凰介は、その前に腰掛けている。
窓から、日の光。
郁伽先輩と麗慈くんは一緒に居るって、数登さん。言っていなかったっけ。
あ。
「い、郁伽先輩は!?」
杵屋依杏は周りを再度、見渡して。
目一杯、言った。
「わ、そうだ、ファイル! ファイルは?」
麗慈はポカンとなる。
「ファイル?」
「渡してある」
と釆原凰介。
顎で数登を示す。
「渡してある。ええと、数登さんにですか? 本当?」
「そう。珊牙に」
「渡した」
合流だけでなく、ファイルも渡すことも出来た。
たぶん、全員が全員不本意という状況ではあろう。
なにせ、私、気絶したし。
とか依杏は、自分だけで補足。
慈満寺会館。
その一室ということで。
更に、依杏が尋ねたところにより。
依杏が倒れたというか気絶したあと、ここへ運ばれた。
病院ではなく。
「郁伽先輩は、寧唯もどこですか?」
依杏は釆原へ尋ねる。
「郁伽ちゃんは、ですけれど」
それに麗慈が答えた。
「今は病院にいるんだそうです」
依杏は眼をぱちくり。
「あなたと同じように気絶した。という感じでしたね」
「私と同じに?」
「杝さんは、僕が駅まで見送りました」
依杏は見事にびっくりした。
声は釆原ではなく、数登だった。
起きている。
雑魚寝も、しながら。
寧唯を送った?
どういうこと?
と依杏。
「郁伽さんは、いま劒物大学病院へ」
「え、えっと寧唯も倒れたんですか!?」
数登は言う。
「違います。杝さんは僕が、駅まで。そのあとで麗慈から、郁伽さんが倒れたと聞きました」
「郁伽先輩が気絶……寧唯は無事?」
「そうです」
依杏は、へなへなした。
姿勢が見事に崩れる。
安心でもないけれど。
郁伽先輩、何故倒れた?
とにかく、依杏は布団に顔を埋める。
座った状態で。
「寧唯は家、ですよね。恐らく」
「恐らくね」
と数登。
「か、確認しておきます……」
参拝とは結局、本当の意味で名ばかりになった。
慈満寺のパンフレットまで見ていた、依杏。寧唯、郁伽。
三人が三人、恋愛成就キャンペーンへ結局、「参加していない」。
「慈満寺で鐘が鳴ると人が死ぬ」。
それは一種の謎である。
死人が過去一人、二人と出た。
その死因はどれも自然死として、処理されていた。とか。
数登さんは葬儀屋という。
慈満寺とのつながり、なんだかんだあって。
調査に乗り出したのは、彼としても必然。
やっぱり、今回も人が。
自分が、か。
倒れている。
数登は微笑みつつ、言う。
「頼んでおいたファイルの件」
釆原。
「ああ」
「見ました。ありがとう」
いまの和室で、ようやく、本当に受け渡し完了。
といったところか。
と依杏は思った。
釆原。
「ということは、珊牙はまだ知らない?」
数登。
「何をです」
「寝ていた理由はあれだろう、わざわざ。移動が多かったからだ。違う?」
と釆原。
「それで、依杏ちゃんが倒れたとか聞いて、ここへ来たついで。移動分、体力温存のために寝ていたと」
「大体、合っています」
と数登は微笑しながら。
畳へ寝ながら。




