42.
慈満寺。
鳴る梵鐘。
地下入口、そこから離れて行く二人。
数登珊牙は、杝寧唯に歩調を合わせて。
行く。
午後の鐘は続く。
人々の間へ、段々と。
*
地下入口に用事がなかったとすれば、あれは?
一体何を投げつけたのだろう?
女性もののポシェット。
手渡された。それは関係ない。
先客二人?
と一人思う、降旗一輔。
地下入口に居た先客。
石の影。
その場所で、その先客二人の様子を伺っていた降旗。
離れて行く。
入らなかった。
地下へ。さて、何故だ?
降旗は石の後ろから、移動を開始。まず一歩。
先客二人は、地下入口へ来たものの、地下へは入らなかった。
素通りか?
あの地下で過去、二名死人が出た。
俺には、その原因は分からない。
「慈満寺で鐘が鳴ると人が死ぬ」。
その微妙な噂。
この鳴る状態を作っている、恋愛成就キャンペーン。
キャンペーン自体を止めてみる。
止めたら人は死なないんじゃないだろうか?
あまりにも安直か。
慈満寺への参拝客が少ないという問題が、かつてあった。
その頃から、俺は関与している身で。
慈満寺の資金繰りについては、俺と他の奴らで頭を使いつつ。
恋愛成就キャンペーンの話を出したのは、鐘搗自身。
そして結果、参拝客の少ない状態は解消され、慈満寺は俺の手を離れている状態。
それはいい。
だが鐘搗紺慈は、俺たちへ隠してしまった物がある。
以降。鐘搗はどんな交渉においても、首を縦に振らないし。
降旗は更に移動。
ニット帽で、脚にはサンダルをつっかける。
少々刈り込んでいるかもしれない、顎に拡がる無精髭。
これまでで何回、梵鐘は鳴った?
降旗には判然とせず。
地下入口。
更に一歩、近づく。
先客の一人が、何か上へ向かって投げていたのは見ていたが。
と降旗は思った。
根元、支柱のずれた監視カメラ。
上方に。
辿り着いて、降旗は少し身構える。
地下入口という、この場所。
何も変化はないように見える。
IDロック盤にも、大きな変化は伺えない。
正規のIDを読み取らせなければ、エラーが起きる仕組み、技術。
それは理解している。
事前に、まあ調査済み。
エラーが起きたとて、エラーの微々たる情報が職員側へ行く。
ただそれだけ。
何もない。
まあ、何か表面上に変化がある、ということではない。
だが降旗は気になった。
地下の宝物殿の扉は、鐘搗によって開かない状態に敢えて、されている。
俺にとってはパンドラの箱を、開けている状態になる。
扉を開け、「箱」のそれは閉じる。
だから俺はここへ来た。
場所。何か変だ。
一旦引くか?
様子を伺うにとどめ、そして再び鐘搗へ伺うことにしようか。
既に二人の先客も、地下入口へ立った。
俺は今、同じ位置に立っている。
しかし、どうして先客は地下入口を開けなかった?
あるいは、地下へ入らなかったのだろう。
上の監視カメラは機能を停止している。
ちぎれているコードが、物語っている。
先客の一人がカメラへ向かって、何か投げたのを。
既に俺は見た。
IDロック盤に何かしたかどうかは、分からない。
さて、何かしただろうか?
鳴る梵鐘。
拭えない違和感。
だがおかしいと言えば、俺が地下の宝物殿の扉へ干渉すること自体が。
まあ慈満寺側から見れば、不正の類だろう。とか。
上から下へスライドさせれば、地下入口の扉は開く。
降旗は、実際にそうした。
本当に、上から下へ。
飛び散る火花。
音もして、半ば傾きをつける扉。
ああ、今の火花で扉はダメになったね。
と彼は思う。
穏便に、交渉を済ませる。
そして死人が出なくなる。
そうなれば、どれだけ鐘搗にとっても良いだろう。
降旗は一人、扉に手を掛けて開けた。
地下へ脚を踏み入れる降旗。
まず一歩。
脚を止める。
再度一歩。
場所。強くなった。
なんだろう。
一歩。
脚も階段へ掛かる。
結構、急。
そのまま下る。
違和感。
なんだ。
なんなのだろう。
脚。手。頭。中空。
そして階段と。
行く。
しかし……。




