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04.

仕事をしている姿勢は、素敵だと依杏(いあ)は思う。


郁伽の肌は、自然な色だが地黒。

そして、瞳の色が菫色に近い。

寧唯(ねい)がよくやるコスプレのカラーコンタクトレンズのそれではない。


地黒ではない依杏と寧唯は、郁伽の小柄な体格と瞳と肌に惹きつけられる。

確か、郁伽に彼氏は今いないということだった。


誰と別れただの(なん)だのぶうぶう言っている私と、寧唯より何倍も素敵だ。

なんて依杏は思ったりする。


郁伽はそのまま、銀のトレーを脇へ置いた。

慈満寺(じみつじ)のパンフレットを(めく)り始める。

あくまで仕事中である。







「寧唯が、今度の抽選の三人枠。あたしと郁伽先輩も含めて取ったそうなんです」


「恋愛成就キャンペーンか」


郁伽はパンフレットを閉じた。


「行ってやってもいい。ただ、あたしは杝とは違うからね。調査のために行くのよ。あと仏像を見に行く。慈満寺って言ったら、今や立派な曰く付きスポットだし」


要するに、古美術建物研究会には打ってつけの場所。

そして、ついでに人が死んだことの調査をすると。


何某かの得るものがあれば、研究会の名声も高まるというわけ。

十五畳の更に細かく区切ったスペースではなく、もっと広い部屋に部室を移す計画もある。







郁伽は蘊蓄(うんちく)が多い。


「こんなに大量にパンフレットあるけれど。(もくめ)、ちゃんと調べたの?」


郁伽が寧唯に言った。


「調べてますよ! だってね、ほら、仏像に宝物殿に、お布施」


「お布施より。歴史に目を向けないと。どうして。何故。宝物殿のある地下でばかり人が死ぬのか。そこを考えなさい。古美術建物研究会の名が廃る」


「廃るのは嫌ですね」


依杏が言った。


「とりあえずあんたたち、客なんだからパフェ食べなさい。その間はあたしが喋る」







「慈満寺の建っている染ヶ山。土偶や埴輪、貴金属が出土していて、慈満寺の宝物殿にそういうのが保管されている。遺跡って言うのは、正しい情報かは分からないけれど。染ヶ山には古墳があったらしい。慈満寺はそれを潰して建てたんじゃないかっていう噂もある。一九四三年建立」


そう言われて、依杏の頭には研究会で飛び交った『特攻隊』という言葉が浮かぶ。

食べているのはパフェだ。だが遡ってしまっていて話題に合わない。


寧唯。


「歴史って、そういうことですか」


「要するに、墓荒らしは昔からいろいろとマズいってことよ」


依杏と寧唯は頷いた。


「例えば、ピラミッドとか、そういう話ですか? 慈満寺も? 曰く付きとか?」


依杏が訊いた。


「そうそう。墓荒らしと探検家の死」


「うわあ、それってまさか、慈満寺で人が死ぬっていうのもその(たぐい)って言う」


寧唯はパフェを食べるのをやめて言った。

郁伽が寧唯の手からスプーンを取り、パフェをつつく。


「噂だけれど、キャンペーンは経営難対策なんじゃないかって。慈満寺マニアの間ではね。曰くつきに経営難。さて、今言った情報までは、もちろん知っているのよね」


寧唯は何も言わない。

依杏はかぶりを振った。







「あの、美野川って人のなんちゃら会でお経を読んだっていう。鐘搗紺慈(かねつきこんじ)は知っていますよ」


「そっちは逆に知らなかったな」


郁伽はパフェの中間部分を一口(すく)った。スプーンで。


「あたし、名前憶えるの苦手だからな」


「ここ、載っているのでは」


依杏は言って写真を指差す。

何名かの僧侶と、あと巫女さんのような姿も。

写真は祈祷時のもののよう。







「キャンペーンは週三回。あたしたちのは七月の回。あとは隔月(かくげつ)(たまり)が死んじゃった時は当然そのあと、取りやめになったみたいですけれど。キャンペーン」


「そうでしょう。でも、なんだか、随分(いか)つい坊さまね」


「テレビで見たときは、もうちょっと細く見えた感じで」


依杏が言った。


「テレビって太って見えるんでしょう? 鍛えたのかもね」


寧唯が言った。


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