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03.

  

「抽選、当たったの」


「恋愛成就キャンペーンの?」


「そうそう!」


「何回目? 懲りないね」


「三人枠取っちゃった。全部当たった、お願い一緒に来て! 一人で参加は無理」






寧唯(ねい)はたぶん、彼氏と別れたから、キャンペーンに申し込んだのだろうな、と依杏(いあ)は思った。

実を言うと、この時すでに、依杏も空羽馬(くうま)と別れていたのだが。


「恋愛成就って言うけれど、信じているの?」


「学校でもね。慈満寺(じみつじ)で祈祷してもらったら恋が叶った! っていう子多い。まあ、でも人は死んでいるけれどね。(たまり)っていう奴も死んだって、この前新聞記事で見せたでしょう。あの時あたし、キャンペーンで慈満寺にいたんだよね」


どう突っ込めばいいか、依杏には分からず。


「溜は自然死だったらしい。心臓が弱かったんだって。あたしも聴取受けたの」


寧唯は続ける。


「ああ、そんなに大層なのじゃなかった。あたし犯人じゃないし」


「それでも慈満寺の抽選を取ったの?」


「まあね。聴取のほうは、キャンペーン参加者全員に訊いたらしい。溜の死亡推定時刻は午後三時前後だったとか。警察の情報」


「ふうん」


「地下入口の防犯カメラには、午後五時まで誰も映っていなかったんだって」


「それで怪死ってこと?」


「そう」


「寧唯は、それ殺人だと思う?」


「溜以外、人の出入りがなかったのにどうやって殺されるの?」


「そうだよね。確かに」


しばし考え込む二人。寧唯が言った。


「考えるの疲れた」


それはお互い様だった。


「うん」


依杏はタブレットを取った。






「何頼もうか」


「おすすめならパフェかなー」


「ゴールデンチョコとか?」


依杏は『注文』をタップした。そして尋ねる。


「彼氏とすぐ別れた? 溜先生が亡くなった時に寧唯がキャンペーンに、慈満寺に居たと。そしたら彼氏が出来た。でもすぐ別れた。だからキャンペーンにあたしを誘っている、と」


「そうなる」


寧唯はしょげて言った。


「新しい人作ったって、どうもこうもなるわけじゃないんだけれど」


「そのキャンペーン本当なのかなあ」


「気にするな! 参加したら彼氏は出来たもの」


「そうかなあ」






寧唯はバッグを漁り、書類の束を取り出した。すべて、慈満寺のパンフレット。

慈満寺(じみつじ)』という彩墨(さいぼく)の文字。


寧唯は指差した。

数枚めくって出てきた仏像の写真。


「これはご利益があると思うのね」


「いや。怖いけど」


「そう? でもこの方がご利益があるとか、どうとからしいよ。その世界の話でいけばね」


「そんなもんかなあ」







愛で染める、という仏像の名前。

腕が多数。

とても怖い形相。


依杏と寧唯のテーブルには、いつの間にかパンフレットが積み上がっている状態に。

テーブルの近くを通る大学生の凝視。


空羽馬(くうま)も大学生である。







「積み上がってるけど」


「結構キャンペーンに通っているから」


自信満々の寧唯。


「キャンペーンの三人枠ね、埴輪(はにわ)先輩と、それからイアンとあたし」


「え! 許可取ったの?」


「郁伽先輩、染ヶ山(そめがやま)とか慈満寺のマニアだって知ってるよね?」


「それは、知っているけれど」







テーブルにグラスが叩きつけられた。

ゴンッ! 

飛び散る飛沫(しぶき)。チョコと生クリーム。甘い香りが広がる。

『ゴールデンチョコパフェ』。







「埴輪で呼ぶのはやめてくれる」


叩きつけた、否、パフェを運んでくれた。

八重嶌郁伽《やえしまいくか》。ウェイトレス姿。


依杏たち古美術建物研究会の部長。

入屋(いるや)高校の二年生。

声を生かした活動中、歌唱中心。







寧唯。


「おおーおいしそう!」


「何回言ったら埴輪呼びをやめてくれんの? 郁伽だから! お待たせいたしました~。ってあれ。杵屋(きねや)


営業スマイルからの真顔。

その変化が早い郁伽。


ウェイトレスって大変なんだなあ。

と依杏は思う。

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