16.
境内歩き、ということで。
境内でまず目立つ常香炉を過ぎ、御朱印目当ての人々も通り過ぎて、歩く三人。
寧唯のスマホに、連絡が来ていたらしい。
郁伽からだ。
「やっぱり郁伽先輩、あれだなー。数登さんの人相分からないらしい」
「そりゃあ、だって自分でも人の顔憶えるの苦手だって」
言っていたし。
と思う依杏。
「連絡来ていたの?」
「そう。どうしようか。例えば数登さんの、写真なんかあったら送ってっていう連絡。ないね」
と寧唯。
「ないな」
と依杏。
鐘の音は結構続いている様子。
「誰が鳴らしているんですか? あの鐘って」
と依杏は釆原に尋ねた。
「大抵は僧侶だと思うけれど」
「そう、大抵はね。でも今のは、どうかねえ」
と寧唯。
「恋愛成就キャンペーン以外の時間に鳴るっていうのは。僧侶がそれ以外の時間に鳴らすって言うのは、あたしが慈満寺でキャンペーンとか過去来たことある感じから見ても、ないかもね。釆原さんはどうですか?」
「あんまり回数は来たことないけれど」
「でも、そのファイル」
と釆原の手元を指す寧唯。
「結構いろいろ情報あるんじゃないですか?」
「まあ、一応珊牙用に持って来たやつなんでね」
「特注品ってわけですね」
「大げさ」
と依杏は言う。
数登珊牙と、八重嶌郁伽の姿はまだ見えない。
山門から境内を少しずつ歩いてきて、中間地点までやって来たようだ。
と依杏は思っていた。
境内自体が結構開けているので、遮るものが少ない。
ほぼ石畳。というか石が様々敷かれた参道という感じだろうか。
それが縦にも横にも、長く悠々と続いている。
時々ポツポツある、参拝用の絵馬掛け、古い札回収のための専用の場所。
その他、お稲荷さんなどの小さい祠。
中間地点には手水舎があった。
少し離れてベンチ。
参道に、数登と郁伽の姿は見えない代わりに、何人かの巫女装束姿の女性は眼に入る。
「寺で巫女っていうのも珍しいんじゃない?」
と依杏。
「あんまりそういう区別がない宗派とか、なんとかってね」
と寧唯。
「そういうのは神道のほうがむしろ厳しいんじゃないかな。とか。一応ピンポイントで、前提知識入れてますんで」
「そこのベンチ。座る?」
と釆原。
「こっちのファイルのほうも、気になったりするの」
「します、します!」
として二人して言い、そのまま三人、ベンチで休憩。
「やっぱり、慈満寺内の人の情報を……」
「さっきの子の情報は載っていないですね」
依杏と寧唯は興味深々。
子供の情報というのは、確かに載っていない。
覗き込んだ先は、釆原の持って来たファイルである。
「今、鐘を鳴らしている人は。この中だったらどの人だと思う?」
「少なくとも、僧侶は除外されるんじゃないか?」
と釆原。
「だとすれば、西梅枝とか」
西梅枝宗次郎。
と名前がある。
そこに、顔写真付き。
「本っ格的に、調査ファイルって感じですね」
と寧唯。
依杏から見ても、そんな感じだった。
調査ということは、調査らしい。
ファイルの現物を見ても分かるが、数登という人物は慈満寺に派遣に来ているというよりも。
慈満寺で死んだ人に興味があって、来ているだけなんじゃないか? とか。
依杏は思って。
釆原の視線は、スマホへ向かうようで。




