15.
地下入口の制御が解除されたらしい。
麗慈の作業時間とやらは、数登が電話から戻ってくるそのタイミングと、同じくらいで終了した。
「前回みたいに、鐘楼の梵鐘が鳴る他に別の音が鳴ったとして、そうしたら一番危ないのは地下だよなあって判断したので」
と麗慈。
「それで制御したんです。でもこっちも、慈満寺の人の許可を取ったわけではない」
「慈満寺の人に許可を取らない理由は、何かある?」
と郁伽は尋ねる。
「特にないですけれど。ただ、珊牙さんの発想が突拍子もないんで、あんまり慈満寺の人には共感してもらえないだろうから。あと、ここの地下で人が死んだ以上、各々関係者を募って何かってのも」
「あなたも関係者じゃないの」
「そ、そら、そうですけれど。ぼくはまあ。どっちかっていうと。割合としては、地下で人が死んだ理由が知りたいだけ、みたいな」
と麗慈。
「そこは、あたしも共感するかな」
「そうですか」
郁伽は笑った。
郁伽が勢いに任せて走らずとも、数登は釆原から電話を受けていたかもしれない。
いずれにしろ、数登の所に三人で向かっているという、連絡だった。
「写真の三人ですね」
と数登。
石段の所へ再び戻って来て言う。
「そうです。杵屋依杏と杝寧唯、それから釆原さん」
「時間も、あと少し」
と麗慈。
郁伽はすっかり時間のことを忘れていた。
「それって、恋愛成就キャンペーンの?」
「そうそう。郁伽さんはそれで、慈満寺に来たんじゃないですか?」
「そうだけれど、すっかり忘れていた」
麗慈が苦笑する番。
郁伽。
「あたしのマニアック加減で言うとですね。いろんな噂の中で特に気になるのが、『見ちゃいけない仏像がある』っていうやつで」
「ああ、確かにありますね」
と麗慈。
「今はどこにあるの?」
「丁度、僕が実験してた部屋に置いてあります」
「恋愛成就キャンペーン前までは、お堂の方に置いてありましたがね」
と数登が補足。
「御開帳のためにも、一旦移動したらしい」
「それ、やっぱり見ちゃいけないんですかね」
「らしいですが、本当かどうかは定かではないですね」
と数登。
「それが、地下で人が死んだ件と関係していると?」
「そういう感じのオカルトが、高校では流行るんですけど」
と郁伽。
「やっぱり違います?」
「さあ」
と数登。
「その部屋に行けば、仏像見られるんですか?」
「見たいの?」
と麗慈。
「いや、興味があるってだけ」
「じゃあ、ついでだから実験二回目なんてどうですか。一緒に部屋に行く感じで」
と麗慈。
「いいんですか?」
と郁伽は数登へ訊く。
「特に問題はないですが」
と数登。
「次に鐘が鳴るのは、恋愛成就キャンペーンの時間中です。僕は少し、寄る所があるので」
*
鐘を撞く音だ。
「時間、だっけ?」
と言ったのは依杏だった。
寧唯も耳をすます様子。
「時間ではない。ただ、鳴っているのは、あたしにも理解出来た」
「理解しなくてもいいけれど、やっぱり時間じゃないよね。なんで?」
「わかんない。イレギュラー発生した?」
「どういうこと」
「恋愛成就キャンペーン前の問題ってこと」
結局話は、行きつく所がなく。
寧唯によれば、こういう梵鐘の鳴り方というのは、前例としてあまりないことだという。
「少なくとも、あんまりいい感じはしないけれど」
と寧唯。
「それは、私も思うかな」
「高校でいろいろ噂、あるもんねえ」
「何の噂?」
と釆原。
寧唯。
「そら、あれですよ。地下で人が死んだっていうのは、釆原さんも御存知でしょう」
「それは知っているけれど。鳴るからどうっての?」
「関連性は知りません。あくまでも噂レベルですからね」
「郁伽先輩、いますかね」
と依杏。
「そうだね。とにかくまずは境内歩きだな」
と寧唯。




