13.
しんみりして、思ったことだが。
建物倒壊と「美野川嵐道を偲ぶ会」だかなんだか。
あの美野川だから、当然。
アイドルだった黒田零乃は一枚噛んでいただろう、というのは郁伽にも予想出来た。
でも、ただの予想だ。今はあまり連絡も取っていないから、余計に予想の色が濃い。
しかし、その零乃に関しての話は、数登を前にして出すべきか。
結局、出さなかった。
出した所で、今の「鳴った・鳴らなかった」には関係がない。
今は「鳴」が、主な話題になっているのだ。
「一応、釆原さんにも連絡入れときますね」
「いずれにしろ、受け取るほうが良いでしょうからね」
「そうですよ。数登さんのために渡すものだった。とかいうはずでしたからね」
と郁伽は、スマホに打ち込み始めた。
「でもさ」
「なに?」
と麗慈。
「鳴ったじゃない」
「うん」
「鳴らなかったって、どういうこと?」
「というか、なんでそんなに。鐘のこと気にしてるんですか?」
「確かに。説明もしていなかったね」
数登が割り込む。
「レストランの時から、なんとなくですが。慈満寺に関して詳しく調べていたようで」
「ええっと。まあ。そんな所ですかね。あの時は、慈満寺のパンフレット沢山でしたから。見てました?」
「ええ。テーブルに沢山ね」
「よし。釆原さんに連絡しておきました。で。一応、うちの高校。というか『古美術建物研究会』って所なんですけれど。そこで話題になっていて。慈満寺で人が死んだってことと、それから鐘のこと」
「じゃあ、言ってもいいかなあ。仕方ない」
と麗慈。
「仕事で聴きたかったの音は別の、音なんですよ」
郁伽。
「別?」
「そう。でもそっちが鳴らなかった。さっき、珊牙さんが鐘を鳴らしている間。そこの扉の向こう」
座っている小さい石段。
そこの先、小さな扉のほうを、麗慈は指差した。
「続き部屋があるんです。そこで別の音が鳴るか鳴らないかっていう、実験みたいなことをしていた。それが仕事」
「鐘の音の他に。何かあったっていうこと」
「それを確かめるのが、今回の仕事だったの! ねえ珊牙さん」
「ええ」
と数登。
「慈満寺にある鐘が、鳴るからでは?」
というのは、あながち。
入屋高校の噂レベルの話では、なかったのかもしれない。
郁伽。
「恋愛成就キャンペーンと、慈満寺で人が死んだ件。結構同時。というかタイミングが重なる事例、多いですよね」
「そこまで調べているなんて。かなりマニアックだな」
と麗慈は言って苦笑した。
「確かにそう。事例が多いのは事実ですね。それも珊牙さんと話していたことで。だから、今回みたいな実験内容が出来た」
「マニアックって関係者に言われちゃあ、おしまいだけれど。そうね、私も自身で慈満寺のマニアだってのは。自負しているかな」
郁伽も苦笑。
たぶん、「古美術建物研究会」の部員の中でも、そういうマニアックなメンバーは割と少なかったりする。
とか郁伽は思っている。




