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7話 緑髪の魔術師

「――で、そのベファナさんの孫って人が冒険者で、ちょうどこの町に来るから、私達のパーティーに入ってくれるんだって」


 武器屋に行く途中でレンドにした話を、ベファナさんの逸話を交えてフェンにも伝える。行きは武器屋が楽しみで聞いていなかったらしい。


 もっとも、今もナイフをずっと見つめていて急に「そういえば孫がどうとか話してましたが、何のことですか?」と話しかけてきたのだが。


「フレア(ねぇ)ー! 今度こそポーション買いに来たよー」


 冒険者ギルドのドアを開けると、受付に立っていたフレア姉がひらひらと手を振った。

 どうやら、先ほど何かをまくし立てていた人はさすがにいなくな――あ、いた。


 緑色の髪の女性が端っこのテーブルに座って分厚い本を読んでいた。すっごい真剣な顔だ。

 さっきフレア姉と話していた時とは違って、お淑やかというか、可愛いなーっていう印象がある。


「フレア姉、ポーション2種類を1人2本ずつと非常食セットもよろしく」


「新人冒険者向けの安くて丈夫な鞄はいかがですか? このように水筒や地図、ナイフを収納する場所がございまして、さらに今は3人以上同時にお買い上げいただくと無料で水筒が付いてくるんです!」


「結構です」


「銅貨で135枚になりまーす」


 ちなみに、昨日のゴブリン8体の稼ぎも全て武器屋に消えたため、今は私が代わりに支払っている。もちろん、稼いだら私の財布に戻すつもりだし、2人にも確認済みだ。


「ね、パーティーメンバーを増やすつもりはない?」


「うーん、他に1人当てがあるからなー」


「良かった、場合によっては入れるってことね。サリーナさん、来て下さい!」


 私の言葉を極限まで都合良く解釈したフレア姉が、テーブルに座っていた緑髪の女性に声をかけた。

 もしかして、さっき受付で話していた内容ってこれ? 「私を絶対にどこかのパーティーに入れてください! でないと私! 私……」みたいな感じで迫られていたのだろうか。


 女性は読んでいた本を畳んで胸の前に抱えると、こちらをじっと見つめながら歩いてきた。

 ……あの本、結構難しい魔術書だ。うちの本棚にあったから読んだことがあるけど、内容の7割くらいしか理解できた気がしない。


「こちら、Eランクの新人パーティー『希望の星』です。そしてこちら、Dランク冒険者のサリーナさんです」


 Dランク! 私達の1個上だ。


 ランクはA~Eまであるから、全体的に見れば下の方ということに変わりは無い。けれど、次のランクまで上がった人は尊敬するべき先輩だと思う。

 特に、自分たちのダンジョンに入ってそれなりに危険な目に遭ってからはそう感じる。


「……あのさぁ、受付さん。私は魔術師を探しているDかCのパーティーはないのかって訊いたんだけど。何であなたの友達のお守りをしなきゃいけないわけ?」


 先輩サリーナさん、一言目からかなりキツい言い方だった。


 とはいえ、内容は当然のものだ。DかCのパーティーを探してて格下のEランクパーティーを紹介されたら、そりゃ文句の1つは言いたくなる。


「いえ、その……DランクにもCランクにも魔術師を探すよう頼まれているパーティーはありません、と申し上げましたし、急成長しているパーティーくらいあるでしょう、そこに紹介して、とおっしゃったじゃないですか」


「うっ……まさか急成長しているEランクパーティーを紹介されるとはね」


 あー分かった。サリーナさんがしつこく激しくパーティーに紹介しろと言うものだから、条件に合わなくても適当なパーティーに紹介することにしたのだろう。


 と、サリーナさんがクルッとこちらを向いた。


「あなた、基本四活用はどのくらい使える? 応用十種はいくつ習得してる?」


 どちらも冒険者の間での魔法の分類だ。

 最初に基礎六種という炎の球を飛ばしたり岩の壁を作ったりする魔法があって、ここが冒険者の魔術師としても最低限と言われる。

 その次が基本四活用で、炎の球を増やしたり大きくしたり壁にしたりという、ちょっとした応用技だ。Dランクになっても数種類しか身につけていないとバカにされるらしい。

 応用十種はそのさらに上、探知もここに含まれる。Cランク冒険者がこれをいくつ習得しているかで争っているのを見たことがある。


 どれもこれも、纏められているだけあって「覚えておきたい割と簡単な魔法リスト」でしかない。

 ……私のことをバカにするにしても、程度ってものを考えてほしい。


「基本四活用も応用十種も、そもそも基礎六種も満足に使えませんが」


「基礎六種すら? まともに使って貰えないんじゃ、杖が泣くわよ」


 サリーナが私の杖を触ろうとしてきたので、スッと後ろにずらす。サリーナの手は空を切った。


 フレア姉はサリーナの横で「はぁーめんどくせ」って顔してるし、多分レンドも後ろで同じ顔をしているだろう。


「あのね、私、あなたみたいに装備で楽をしようとする人が大嫌いなの! 魔法の腕はEランクにも満たないくせに、この杖Cランク並みじゃないの!」


「それは……」


 冒険者になると決まった時に、父さんがそれなりに良い杖を持たせてくれたからだ。「お前の安全が最優先だ、ついでに宣伝してくれれば元は取れるさ」と言って。


「冒険者やめろ、とか、冒険者失格だ、みたいなことは言わないわ。冒険者っていうのはそこまで引っくるめての『自由』であるべきだから。でもね、」


 少し高い位置から私を見下ろすサリーナさんの目は、軽蔑ではない何かに染まっていた。


「あなたみたいな人に、同じ魔術師を名乗られたくない」


 そこまで言うと、座っていた席に戻ってしまった。こちらを一切気にせずに魔術書を読み始める。


「じゃ、私達は帰ろうか」


 フレア姉にまたねー、と手を振ってギルドを出る。


「リズ、よく我慢したな……。絶対手出すと思ってた」


「なんなんですかあの人! 人の装備にケチつける必要ないでしょう!」


 ドアが閉まった瞬間、レンドとフェンが話し始めた。

 言われている私が黙って聞いていたから2人も何も言わないでいてくれたらしい。


「魔法かけて石みたいに吹き飛ばしてやりたかったけどね、さすがに我慢した」


 フレア姉もレンドも幼馴染みだけあって、私が売られた喧嘩は全部買う性格なのは知っている。だから、2人からしたら私が何も言い返さないのは意外だったと思う。

 私だって成長するのだ。


 ……それに、サリーナさんの目に浮かんでいた表情とか、読んでいる魔術書のページがさっきと明らかに違うのとかが気になったのもある。


「じゃ、私これから魔道具作りするから、またね!」


 手を振って走り出す。

 今すぐは無理だろうけど、難しい魔法を魔道具に込めてあの人に見せつけてやりたい。


――


「あっ、それ見学してもいいですか?」


「いいけど」


「じゃあ俺も」


「いいけど」


 というわけで、フェンとレンドが見学することになった。

 別に大したことやるわけじゃないんだけどな。


 フェンは魔道具工房が珍しいようで、キョロキョロとあちこちを見回している。特に魔術書がびっしり詰まった本棚と怪しい色の液体が入った大鍋が気になるらしい。


「……フェン、ここ別にリズの部屋じゃないからな?」


 レンドが呟く。まさかそんな勘違いするわけないだろう。

 父さんが自室での魔道具作成を禁止しているから、私の部屋は普通の女の子らしい部屋だ。


「言っとくけど、今は父さんが見てないから、何も凄い物作れないからね」


 素材の組み合わせによっては、失敗はもちろん成功した時でもちょっと危険なのだ。

 対処を間違えれば、父さんが帰ってきた時に家が全焼していたり、娘の死体が倒れていたりすることになる。


「さて、用意したのは木の枝、魔石、その他細かい素材がいろいろ。何を作るでしょう」


「杖?」


「残念、見れば正解は分かるよ」


 机に置かれた魔道具のスイッチを入れると、素材が全て宙に浮かび上がる。

 本来は重い素材の時に使うんだけど、ほら、少しでも「魔道具すげー」って思われたいし。


 空中に浮かんだ素材同士を結んだり挟んだり巻き付けたりしてくっ付けていく。


「えっ、早っ!」


 フェンが驚いてくれている。

 何十回と繰り返した作業だからね。慣れれば早くなる。


 3分ほどで全てが組み上がった。形だけを見れば杖としか言いようがないだろう。

 通常、魔道具作成はここからの工程に時間をかける。残念ながら、今日はそんな複雑なものは作らないのでこっちもすぐに終わる。


「我の前に跪きて意思を伝えよ――【レクス】  これで魔道具に直接刻まなくても魔法陣が描けるんだよ」


 レンドの「あれ一般的には探知とかより難しいって言われてる呪文な」という声を聞きつつ、魔法陣を描くためのペンを手に取る。……やっぱ止めた。


「我が意思を表せ――【マギア】 いつもは魔道具のペンで描くんだけど、中身は便利ペン魔法だから杖でも描けるよ」


 学校でも最初の方に習う呪文で、空中にでも書ける便利さから「便利ペン魔法」って呼ばれている。

 よく運動の時間に空中に魔法陣を落書きして怒られたものだ。


「魔法陣自体は仕組みを知ってれば簡単だよ。ここをこーしてここをこーするでしょ……はい完成」


 今日の魔法陣は初歩的なやつなのですぐに書き終わる。直径30cmくらいの小さいやつだ。

 フェンのナイフを作った時なんか、先に魔法陣を考えておいたのにミスがあって1時間くらいかかった。


「この複雑な魔法陣、全部覚えてるんですか?」


「仕組みを覚えてるだけだって。学校でも習うやつの延長線上だよ」


 学校だと魔法陣の基礎をじっくりやった後に作ったのが直径10cmくらいの魔法陣だったから、私はあまり面白くなかった。確か上に置いた羽毛が浮かび上がる魔法陣だったと思う。


「さて、これは何でしょう」


「どう見ても杖だろ、これ」


「残念、杖は杖でも魔法杖でした」


 杖、と呼ばれるのは魔術師が魔法を使うために用いるもの。

 魔法杖は魔法陣が刻まれていて、魔力を流すだけで使える魔道具だ。


 杖を使うのが魔術師で、魔法杖を使う人が魔法使いだ。

 魔法杖が杖そっくりの見た目であることからも分かる通り、魔術師は魔法使いを下に見ているから間違えると凄い怒る。


「これは何の魔法杖なんですか?」


 魔法杖は総じて値段が高い。

 多くの場合、魔術師が使う魔法が一通り使えるようになっているためだ。複数の魔法陣を刻もうとすると互いに影響し合うので難しい。


 その点、これは1つの魔法、それも小規模な魔法陣だから楽だった。


「炎の球がたくさん出るやつだよ。基本四活用の1つの」


 基本四活用の話をしたので、その中から1番攻撃力が高そうなのを選んでみた。


次回からはやっとダンジョンです。

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