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6話 魔道具屋の娘、武器屋に行く

「お待たせ~。いくつか候補を持ってきたよ」


 エフィンさんが、抱えていた箱からナイフを取り出してカウンターに並べていく。全部で5本あった。


「まず、このナイフは人工ミスリル……を目指して作られた金属で出来てるんだ。ミスリルの最大の特徴の、魔法との相性に関しては最悪なんだけど、軽いって点だけは本物にも引けを取らないよ」


 エフィンさんがフェンに渡したのは、1番端に置かれていた銀色のナイフだ。


「……確かにすごく軽いですね。ただ、ここまで軽いと投げる時に狙いが外れるかもしれません」


「投げる場合は少し慣れが必要かもしれないね。ただ、君達はそんな悠長なこと言ってられないか」


「ちょっと見せて」


 レンドが興味を持ったらしい。フェンからナイフを受け取って、しげしげと眺め始めた。


 次にエフィンさんが手に取ったのは、鉛色のゴツいナイフだ。


「昔から冒険者に一定の人気があるナイフだ。丈夫で滅多に欠けないし、手入れもせずに使い続けても何の問題もない」


「これは重くて使い辛いですね」


 フェンはばっさりと切って捨てた。


「それじゃあ、こっちはどうかな。重さも含めてごく普通のナイフなんだけど、刃に工夫がしてあるんだ」


 刃が金色の金属で作られているようだ。金……じゃないよね。何を使ってるんだろう?


「オリハルコンって聞いたことあるかな。超一流の冒険者だとオリハルコン製の武器を使ってたりす――」


「えっ、これオリハルコン!?」


 思わず大声で叫んでしまった。


 オリハルコンなんて、金やミスリルとは比べ物にならない値段なはず。

 武器全体ではないにしても、このナイフみたいに贅沢に使ったら途方もない額になるのは間違いない。


「いや、これはオリハルコンゴーレムっていう魔物から作られた金属で、性質は似ているけど別物だよ」


 ああ、その話知ってる。


 どこかのダンジョンで金ピカのゴーレムが討伐されてギルドに持ち込まれた。金メッキのアイアンゴーレムではなかったし、発見例の少ない金でできたゴーレムでもなかった。


 ギルドの職員が調べた所、なんとオリハルコン。


 ゴーレム1体分のオリハルコンなんて買い取れないから保留になったんだけど、話を聞いた他の冒険者がオリハルコンゴーレムを狙ってダンジョンに殺到した。

 ゴーレムはガンガン出現してガンガン討伐された。


 しかし、専門の研究所で調べた所、性質は良く似ているけれど全くの別物であることが判明した。しかもオリハルコンの凄い所だけは似ていないという残念っぷり。

 オリハルコンゴーレムはピタッと現れなくなり、冒険者達は使えない金属の塊を泣く泣く二束三文で売る羽目になった。


 今では「オリハルコン(ゴーレムの金属)製」のような詐欺みたいな武器にしか使われない。


「武器の素材としては鉄とそう大差ないんだけどね。見た目はオリハルコンだからかっこいいでしょ」


 なんじゃそりゃ……。と思ったが、レンドもフェンも目をキラキラさせてナイフを見つめていた。


「それから、こっちはソードタイガーっていう魔物の牙で作ったんだ。ソードタイガーの特性を受け継いでいて、魔物相手だと切れ味が良くなる」


「『魔喰い』か……」


 白っぽいナイフで、模様のようなものが刻まれている。

 偽ハルコンはともかく、こちらは普通の武器屋でもたまに見かけることがある。


「最後はこれ。ただのナイフだけど良く切れる魔法を込めてある。普通は魔道具店で魔法陣を刻んで貰うけど、自分でやってみたんだ」


「どんな魔法陣か見てみてもいい?」


「どうぞ。多分ドーフさんの……リズの家で使ってるのと同じだけどね」


 切れ味を良くするのは基本の魔法陣だし、私も父さんに教わって刻んだことがある。


「彼の者の意思を表せ――【キルトス】」


 ナイフに触れて呪文を唱えると、空中に魔法陣が浮かび上がった。

 魔法陣を刻むとは言うけれど、複雑な魔法陣を小さな武器に刻んでなんていられないので、私が今使ったのと似た魔法を使って魔法陣を描くのだ。


 見てみると、父さんに教わったものと少しだけ違う。魔法が武器全体にかかっているせいで、消費する魔力が1.5倍くらいになっているようだ。


「ここ、父さんは刃にだけかかるようにしてた」


「んー、確かに魔力消費の軽減にはなるだろうけど、その分魔法陣が大きくなって結局変わらないと思うよ」


「そうじゃなくて、魔法陣を刻む場所をこの辺にすることで――」


 ポンポン、と私とエフィンさんの肩が叩かれる。


「早くナイフ選びたいので、また今度にしてください」


 相変わらずの無表情のままフェンは言った。

 ちなみに、レンドは「あーあ、また始まった」って顔で既に諦めモードだった。


「あーごめん。じゃあ、裏庭で試し斬りしよっか」


 エフィンさんはカウンターの中にある扉を開ける。5本のナイフを持って私も裏庭に出た。

 裏庭はそこそこの広さがあって、人型の巻き藁が何本か立てられていた。


 フェンにナイフを順番に渡していくと、1番の遠くの巻き藁に向かって投げたり、近くの巻き藁を連続で斬りつけたりと楽しそうに試していく。

 ちなみに、投げたナイフはどれも頭のど真ん中か左胸の位置に突き刺さっていた。凄いを通り越してちょっと怖い。


「あっ、エフィンさん、私が魔法陣を刻んだナイフ持ってきたんですけど、ついでに試してもいいですか?」


「いいよー。ドーフさんの娘がどんな武器を作るのか気になるし」


 少しプレッシャーをかけられている気がする……。もちろん、私のナイフが父さんの娘として恥ずかしい出来だとは思わないけど。


「フェン! このナイフも使ってみて」


 鞄の中から取りだした2本のナイフをフェンに渡す。1つは紫がかった黒で、もう1つが赤みのある黒だ。赤い方が元々練習として作ったやつで、昨日フェンに渡すために作ったのが紫の方だ。

 父さんが合格だと言って店に並べてくれた、私の自信作である。


 ……まあ、誰も買わなかったからまだ私の手元にあるんだけど。


 フェンが先ほどと同じように巻き藁の頭部に向かって投げたり、両手に持って振り回す。

 見てる限りだと他のナイフの時と全く変わらないように思えるけど、どうだろうか。


「リズ! このナイフ凄いです!」


 相変わらず無表情だが、興奮しているのが声から少し伝わってきた。


「見せて……彼の者の意思を表せ――【キルトス】」


 エフィンさんがナイフに刻まれた魔法陣を出現させる。その量はエフィンさんのナイフの3倍はある。


「赤みがかってる方は黒魔石で、刻んであるのは敵から魔力を吸い取る魔法陣。それをナイフの刀身に貯めて、使用者の魔力を使わずに切れ味が良くなる魔法と、自動修復の魔法を発動させてる」


 黒魔石は魔力を溜め込みやすいのでそれを利用した。

 通常は、使わない時に自分の魔力を貯めておいていざという時に強大な魔法を使う、という風に使うのだが、それを敵の魔力でやってみた。

 敵の体に触れるのはほんの一瞬なので、本来は僅かな魔力しか吸い取れない。ただ、ダンジョンの中は魔力で満ちているので、空気中からも吸い取れないかいろいろと試してみた。


 魔力を吸い取る魔法陣が大きくなりすぎたせいで、吸い取った魔力の大半を吸い取ることに使ってしまうのだが、これは秘密にしておこう。


「……魔道具ってこんなに複雑な魔法陣を刻むんだね。なかなか真似できそうにないな」


「リズ、こんなこともできるのに何で魔法科目の成績が悪かったんだ?」


「魔法陣の時だけは満点取ってたでしょ。他が散々だっただけで」


 魔法陣を刻むだけなら小さい頃からやってるから得意なんだけど、杖を使って魔法を使うのは全然上達しないのだ。浮遊呪文と投擲呪文くらいしかまともに使えない。


「それで、もう1本の方はどういう効果があるんですか?」


「こっちは北部の大ダンジョンで採れた黒紫魔石(ピピュラ)。自動修復に加えて、風魔法を刻んであるよ。と言っても風の刃が飛び出すようなものじゃなくて、刃を風で覆って切れ味を上げているくらいだけどね」


 敵に当たる瞬間に発動するように魔法陣を描いたので、普通の魔法を込めた時に比べて魔力の消費を抑えることができる。

 こちらもそのせいで魔法陣が大きくなってしまったけど、それ以上に節約できた魔力が大きかった。


「うーん、さすがだね……。魔道具に関してはリズに敵わないな、今は」


 っしゃっあっ!


 今、エフィンさんは確かに言った。

「魔道具ではリズに敵わない」と。


 やっと、やっと4年前の雪辱を果たすことができた。


 ……エフィン、王都からやって来た腕の良い武器職人で、女性冒険者に人気のハンサムな男だ。

 しかしその裏の顔は、4年前の歓迎会に参加したメンバーしか知らない。


 この男、酔っ払うと女性のお尻を片っ端から揉み始めるという悪癖があるのだ。


 ……お尻を触られて魔道具で勝つって、仕返しになってるのか自分でも良く分からないけど、すっきりしたからいいや。


「フェン、気に入ったならそれ使ってもいいよ。あげる」


「本当ですか! ありがとうございます」


「エフィンさん、ナイフ見に来たのにごめんね」


 私が謝ると、エフィンさんは全然気にしてない、というように笑ってみせた。

 ……お酒さえ飲まなければすごく良い人なんだよな。


――


「ところで、フェンはナイフが2、3本欲しいっていう話だったけど、その2本だけで大丈夫?」


「確かに……この2本を手に持つとすると、投げる用にもう1本くらい欲しいですね」


 ん?


「じゃあ、その2本と同じランク帯のナイフが必要かな? このナイフはワイバーンの骨で出来てるんだけど……」


「金貨……いや、そんな高いものは無理ですね」


「さっき見せたナイフなんかはどう? オリハルコンのとか、ソードタイガーのとか」


 んん?


「あっ、それから、良いナイフには良い手入れ道具を使わないとね。せっかくリズが作ってくれたナイフだし、大事にしないと」


「今の手入れ方法じゃダメなんですかね?」


「もちろん、ダメってことはないよ。ただ、自動修復があるとはいえ、魔石製の武器は手入れを怠ると劣化が早いからね」


 あれー?


「リズの素晴らしい魔法陣を見せて貰えたし、この手入れ道具とセットなら特別にナイフを半額にしようと思うんだけど」


「ソードタイガーのナイフでお願いします」


 お会計、銅貨52枚。


 残高、銅貨マイナス6枚。


本日の更新はここまでです。

明日からは朝8時頃に更新する予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔道具の説明が詳しく書かれているので良いと思いました! ゴブリン戦が面白かったです。 [一言] 期待しています!
2022/03/01 08:36 退会済み
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