学園長の話を聞いていたら学年首位になっていた【短編】
俺の名前はファルス。
日本人の記憶を持った、一般人だ。
今年で12歳、黒髪黒目で身長は145〜150cmとかそこら、ある程度の体力はあるが、この年齢で考えれば中肉中背くらいだろう。
そして、今日から魔法学園に入学する。
「あー、まじでどんな事が学べるんだろ! やっぱ詠唱短縮とかか? いや、回復魔法とか空間魔法もいいよなぁ!」
10歳の誕生日、前世の記憶と思われる物が蘇ってから、ずっと楽しみにしてきた。
昨日は眠れなかったが……まぁ、仕方ないと思う。
因みに、魔法と言うのはゲームやアニメ、漫画なんかで見るあれに似たような物で、地球では出来ないような超常的な事が出来るようになる。
ルーツは魔族で、その昔、人は体術や武器を使って、魔物と呼ばれるやたら凶暴な動物 ——生まれた理由は解明されていない—— や魔族と呼ばれる人型だが角が生えていたりと違う特徴を持った人達と戦っていたらしい。
そんなある日、ある一人の人間が魔族の一人に一目惚れし、魔族に猛アピール、その魔族も了承し、子供を作ったそうだ。
そして、その子供は人でありながら、本来魔物や魔族しか使えないはずの魔法を使う事が出来た。
後はもう当時の国が魔族と和解し、産めよ増やせよでどんどんと魔族の血が広まったらしい。
その結果、今では殆どの人間が魔法を使えるようになり、研究や発展を続けている。
前世の記憶が宿る前は起源なんて興味も殆どなく、魔法も当たり前の物だったけど、魔法がない世界を知ったら気になってしまい、色々調べた結果わかったことだ。
魔法学園はそんな魔法を学びたい人に魔法の何たるかを教え、人材育成をする場所。
(しかしまぁ、よく入れたよな)
思わず、心の中でつぶやく。
魔法学園も、日本の受験よろしく入学するためには試験がいる。
主に実技なのだが、実は、魔法を扱うに至って重要な物の一つ、魔力感知が絶望的なのだ。
魔力総量も高く、魔力も良質らしいのだが、如何せん感知出来ないため自覚できない。
ゲームならデバフと呼ばれるような弱体化魔法をかけられたとしてもわからないし、背中の傷を直して貰ったとしても痛みが引いた事でしか判断できない。
しかし、それでも魔法を諦めきれなかった俺は、師匠……近所のお姉さんなのだが、その人に協力して貰ってなんとか魔法を発動出来るように練習した。
感覚で言えば、目を瞑ったまま、耳栓をして、置いてあるコップに適量水を入れるような感じだろうか。
何度も爆発したし、何度も出力が足りなかったりしたが、何とか今日までに小さいながらも魔法を発動出来るようになっていた。
また、対魔法も慣れておこうと言うことで並行して師匠に魔法をかけてもらい、師匠曰くちょっとやそっとじゃ何ともないレベルにはなった……らしい。
かけられたところでその結果でしか判断出来ないせいで、実感は殆ど湧かないのだ。
既に見慣れた、石畳に煉瓦造りのような見た目の家々に、晴れた青空を移動する人や物。
殆どの人は徒歩で移動しているが、魔法学園の生徒と思われる、俺と似た様な……黒一色の布に白のアクセントが入っていて、動きやすい様にと指定されている半袖半ズボンの服装の人は空を飛んでいる人が多い。恐らく先輩だろう。
日本とは似つかない風景を眺めつつ、魔法学園に向かう。
「あの、貴方も新入生ですか?」
そろそろ学園に着こうかと言う時、後ろから声を掛けられた。小声だが抑揚がついている事から、恐らく少女だろう。
振り返ると、黒髪のおかっぱで小柄な少女がいた。不安そうな表情で、気が弱そうと言う印象を受ける。
「ん? ……あ、はい。貴女も?」
「よかった……一人だと不安で。着く前に同じ境遇の人と出会えて嬉しいです」
そう言いつつ、安心したようにほっと息をつく。
言葉通り、表情には安堵と喜びが浮かんでいる。
「そうか、俺もちょっと不安だったし嬉しいよ。俺はファルス、よろしく」
「あ、すみません。まだ名乗ってませんでした……私はフェンと言います、よろしくお願いしますね」
えへへ……と頬をかくフェンは俺の横に並び、歩幅を合わせる。並ぶと身長差がよくわかる。135~140くらいだろうか。
少し天然……いや、ドジっ娘なのかもしれない。
二人で学園に歩いて行くと、フェンが話しかけてくる。少しでも気を紛らわせたいのかもしれない。それか、友達作りか。
「ファルスさんは、なんで魔法学園に入ろうと思ったんですか?」
「あー、俺は10歳の時に魔法に憧れてな。色々学んで俺も使いたいって思ったんだ。フェンは?」
「いいですね! 私は……あんまり前向きな理由じゃないんです。ただ労働も勉強も向いてなくて……」
そう言って、少し俯く。
流石に最初から呼び捨ては怒られるかと思ったが、普通にスルーされた。やったぜ。
「長所を伸ばすのはいい事だと思うぞ? 何でもかんでも一人で出来るわけじゃないからな」
「……そう、ですか?」
空を眺めつつ、日本を思い出して励ましてみると、目を丸くしてこちらを見上げる。
この世界は基本的に、なんでもある程度出来る人間が求められるのだ。男なら運動・知識・計算・芸術。
俺の場合は記憶を取り戻す前は普通にやんちゃ少年だったからか運動もそこそこ出来るし、知識は魔法を調べる影響で一緒に調べた。計算は日本の義務教育の小学高学年程度が出来れば問題ない為、楽だったのだが、問題は芸術だ。
日本人の価値観と、この世界の人の価値観が全然違った。デフォルメは受け入れられないし、星形やハート形もだめだった。写実的な物の評価が高く、価値観で表現された物はあまり評価されない。
因みに、転生前の俺は運動は出来ないし勉強は平均くらい。
知識はまぁネットをよく使っていたおかげでちょくちょくあるが、いざ使う機会などないものばっかりだ。
絵は「小学生のよりはまぁ……。中学生の落書きレベル?」くらいで、手先が器用な訳でもなく手芸も駄目と、あまり褒められた人間ではなかった。
「俺、センス全然なくてなぁ。ちょっと絵を描いてみたらなんだこの気持ち悪い絵は! って捨てられたりしたもんだよ」
「そうなんですね」
そう言うと、フェンは優しげな微笑みを浮かべる。
(……まぁ、ここで言っても嘘だと思われるか)
励ますための優しい嘘……ではなく、事実だ。
実際に、捨てられた。父親にその場で破かれ、焼却された。ショックで喧嘩したりもしたが、まぁ価値観の違いは仕方ない。
そうして軽く話していると、魔法学園に到着した。
多くの生徒と思われる同年代の少年少女が入って行くのをみて、思い出したように体が緊張と興奮に包まれる。
「新入生は教職員の誘導に従って進め!」
叫ぶような大声を出し続けている、30代くらいに見える男性教員の指示に従って進んでいくと、それこそ体育館のような、とても広い部屋に辿り着いた。
あの男性の喉がどうなっているのか少し気になるが、今はいいだろう。
部屋の中には既に人が沢山いて、入り口部分では女性の職員が座る席の割り振りが書かれた紙を配っている。
人が多いせいで熱気が凄く、ワイワイガヤガヤと煩い。子供が集まればうるさくなるのは、どこでも変わらないのだろう。
「あ、隣ですね」
「本当だ。偶然だな」
紙を見ると、クラスと名前で分けられているようで、ファとフェで近いお陰で隣の席になったようだ。
あってまだ間も無いが、話した事がある人と無い人では全然違う。
1-Bと書かれた椅子群の後ろ右端に座り、待機する。
左隣にフェンが座り、にこりと笑いかけてくれる。可愛い。
周囲を見渡すと、疎らに席が埋まり始めており、始まる時間が迫っていることを実感し、興奮が高まっていく。
もらった紙に時間と予定も書かれている。それによると、後7分で日本の学校でいう入学式が始まるようだ。まずは学園長の挨拶で、学園の説明、学園長の話、教員紹介、学園長と卒業生の話、これからの予定の説明、学園長の話、序列発表、閉会と言った感じらしい。序列発表だけ聞き慣れない。卒業生は卒業して職員、もしくは研究員としてこの学園で働く人と書いてあった。
(学園長の話、4回もあるのか……)
一度に纏まらなかったのだろうか。纏まらなかったんだろうな。
プログラムを見ながら苦笑していると、部屋が急に静かになった。慌てて壇上を見ると、逞しい初老の男性が立っていた。学園長だ。
「……これから、学園歓迎式を始める」
厳かで低い声が部屋中に響き、威圧感を与えてくる。
歓迎式、と付いてはいるが、歓迎する雰囲気にはまるで見えない。
「まず、私から一言。入学おめでとう。君たちはこれから、ここで魔法を学んでいく。説明をよく聞き、よく学び、よく研究し、素晴らしい生活を送ってくれ。これで、学園長の挨拶を終了する」
なんと、かなり簡単なものだった。
これなら、思ったより早く終わりそうだ———
「まず、クラスは実力で分けられている訳ではない—— ここでは研究や勉強に不自由ない環境が揃っている—— それぞれの部屋の配置は—— 優秀な成績を収めた者には特典が—— 」
——そんなことは無かった。
「学ぶこと、学べることは素晴らしく、ありがたいことだ。それだけの環境があるのだから、是非、色々なものを見て、感じて、調べて、学んで欲しい。私が魔法に出会った時は、人に学べる環境を得ることは難しい事でした。しかし、魔法にはとても大きな可能性が——」
「次は教員紹介です。まず、学年主任のアーダルテン師。身体能力強化をメインに研究している男性で、魔物と戦った事もある方です」
その紹介で前に出てきたのは、校門前で大声を出していた男性教師だった。
彼が学年主任らしい。
「Aクラスの師は—— Bクラスの師は、イツァルズ師です。回復魔法の研究を主にしていますが、楽器や絵等の技術と魔法の関係も研究していたりと、かなり器用な方です」
そう言って出てきたのは、妙齢の女性で、スレンダーだが胸はそこそこあり、顔も整っている美人だが、表情は気怠そうでやる気を感じない。生徒にも興味がなさそうな印象を受ける。
その後、他クラスの教師や寮の寮母さんなんかの人も紹介され、卒業生と学園長の話を聞き、これからの説明……教室の下見や、寮入りする生徒はへの移動の説明なんかをすることを教えられ、やっと最後の学園長の話になった。
「さて、今日私が話すのはこれで最後になる。心して聞くように」
学園長がそう言った瞬間、部屋を重苦しい空気が包み込む。
隣から息を呑む音が聞こえ、雰囲気が変わった事がわかる。
「ここまで多くの事を言ってきたが、特に大事なのは意志だ。何をするにも、意志が必要になってくる。君たちも、これまで人生を歩んでくる中で、多くの意志を持ったと思う。ここに入学するのだって、魔法を学ぼうとするのだって意志だ。戦場でも、家でも、学園でも。どこでだって意志は必要だ。自分を強く持て。感情を受け入れて制御するのにも、力を制御するのにも、何をするにも意志を持たなければ始まらない。意志を持てば、後はその意志を持ち続け進むだけだ。私のいた戦場では、意志の弱いものはすぐに死んだ。恐怖に打ち勝てないからだ。戦うと言う意志がないからだ。気持ちや感情なんて馬鹿らしいと思う者もいるかもしれない。だが、その思いは自分の原動力に、力になる。以上だ。…………これから、序列発表をする。全員、起立!!」
(…………あ)
話を聞き入っていたせいで、立つのが遅れた。
急いで立ち上がる。
(……?)
しかし、他に誰も立っていなかった。
(なんだ? 起立って言ってたよな? え、どうすれば……)
焦りつつ、周囲を見渡す。
すると、震えつつ立ちあがっている最中の生徒が数人いた。
隣を見ると、フェンが苦悶の表情を浮かべながらもなんとか立ち上がろうとしている。
「大丈夫か? フェン」
小声でそう声をかけつつ、左手を差し出す。
フェンは目を見開くと、俺を見てから少しの躊躇いの後、「ありがとうございます」と小さくいって手を取った。
ぷるぷる震えつつ、フェンも立つ。
足でも痺れたのだろうか。
そのまま待っていると、10人程が立った所で学園長が口を開いた。
「ふむ。それでは発表する! 新入生第一位、学年首位は……Bクラスのファルス!」
「……え?」
(なんでだ?)
理解が出来ず、呆けた声を出してしまう。
正直な所、合格ラインギリギリだと思っていたのだ。
明らかに首位になる要素がない。
「第二位、トゥーラ! 第三位、アルディア! 第四位、レスト!」
トゥーラというのは反応からして俺の少し後に立っていた女性で、淡い茶色の髪の三つ編みと優しそうな表情が印象的だ。ちなみにDクラスの椅子群にいる事から、Dクラスの生徒だと思う。
アルディアは黒髪の勝気そうな少年で、プライドが高そう、というのが第一印象。立ったのはトゥーラとほぼ同時だったと思う。Aクラス。
レストは白髪で、気弱そうな印象を受ける猫背の少年だ。Cクラスの生徒だろう。
「第五位、ミラ! 第六位、アラシア! 第七位、フェン!」
ミラは桃色髪の少女で、どこかのお嬢様なのではないかと思う程綺麗な動きをしていた。Cクラス。
アラシアは黒髪の大人しそうな少年で、アルディアをチラチラと見ている事から兄弟なのかもしれない。Eクラスの生徒だ。
そして、フェンが七位だった。
入学式を終え、寮案内等のやらなくてなはならない事を全て終わらせた後、学園長を捕まえた。
どうしても、序列が気になったのだ。
「すみません、学園長。序列に関して質問があるのですが」
そういうと、学園長は慣れたように口を開く。
「あぁ、ファルス君か。序列の質問は何で決まってるのか、だろう?」
「はい」
「あれはね、最後の私の話の後、起立するまでの時間だよ」
なんともなしに、軽い調子でそう言った。
「……は?」
続きも一応考えたけど病み上がりで力尽きました。
コメディっぽく振り切れなかったのが改善点かな……
因みにちょっとわかりにくくなった可能性があるので説明すると、学園長が最後の話の時に威圧を使っていたので生徒が動けなくなったけど、主人公は感知出来ずに影響もなかったので理解出来てない、と言うことです。
気が向いたら修正するかも