第八十二話 西の大陸
西へ移動を続けて10日が経過すると、新大陸が見えてきた。だが険しい山脈があるんで、内陸まで行けないんだよな。
「よし、上昇開始!」
「了解!」
俺の指示にアキナが応える。
空飛ぶ家は高く登っていく。まるでエレベーターに乗ってるみたいだと思ったが、こっちの世界の人間に言っても分からないだろう。
「これ以上、登れません!」
アキナが悔しそうに言った。
「分かった。高さは維持できるか?」
「できますね」
「よし、頼む」
俺は甲板に出てみた。
目の眩むような高さで足が竦む。
ここは世界樹と同じくらいの高さかな。正確には分からない。何しろ高度計が無いんだから。
世界樹くらいの高さだとして、元の世界では富士山より低い。高さ3000mくらい?
世界樹にいた時にチラッと思ったんだ。あれだけ高い場所で高山病とか、空気が薄くなるとか、寒くなるとか、一切無かったんだよな。
俺より前に来た奴は、どう思ったんだろ?
まぁ魔法のある世界だし、俺の能力がデタラメだし構わないんだけどね。注意すべきは俺が持つ常識になるだろう。
無意識に向こうの常識に囚われて出来ないとか、決めつけてしまいそうだ。
「恐いくらい高いですわね」
「サァベルか」
「あの雲より高い場所にも行けるのかしら?」
この大陸の山脈は、それこそヒマラヤの山脈に匹敵するくらい高いのではないか。その遥か彼方のたかみには、分厚い雲が覆っていて山頂近辺が見えない。
「そう遠くないうちに行ってみせる。もちろん、その時はサァベルも一緒だぞ。いつまでも一緒に来てくれるよな?」
「勿論ですわ」
さて、この大陸で間違いないとするならば、浮遊石が含まれてるはずだ。サァベルにベティを呼んでくるように頼むと、笑顔で引き受けてくれた。
「なんじゃ!? 気持ちよく眠っておったというのに!」
「この大陸がレヴィの言う天の陸地が落ちたところだと思うんだが、浮遊石が含まれてるか見てくれないか?」
「任せるがいい」
山脈に両手を向けて、ベティは目を瞑る。やがて目の前に、ボーリングの球よりデカイ塊が現れた。
「フェイロンよ。この大陸で間違いないのじゃ。今、ワシが採取できる範囲にあったのは、こんなもんじゃな」
ベティも興奮している。
何しろ、長い生涯の中で集めたのが、指くらいのサイズだったのに、今は僅かな時間で比較にならない量の浮遊石を獲得したのだから。
「フェイロン。ワシの力を使えば、この山に道を作る事は雑作もない。真っ直ぐに大陸中心を目指すかの?」
俺は首を振った。
「この山脈に沿って進もう。ベティは道中で採取に励んで欲しい」
沿岸には、もしかしたら町もあるかもしれないし、何か情報が得られるかもしれない。もしかしたら仲間を得られるかもしれないからな。
勿論、仲間ってのは美少女限定だけどな。
山脈沿いに移動を続けて、ベティが採取を行うのを何回も繰り返したおかげで、塊の数は五個になった。
「これだと全長500メートル、幅が100メートルで高さは50メートルくらいの空飛ぶ家が作れるんじゃないかな?」
「それだけ大きいと木材で家を作るのは、非現実的かも?」
操縦室勤務のナツミとフユミが、新しい空飛ぶ家の話で盛り上がっている。まぁ気持ちは分かるけどね。
「山脈が低くなってきてる。内陸に入れるかもしれない」
操縦してるハルナから報告が入った。
見れば確かに低くなっている。
頂上は遥か雲の上だったのが、今は頂きが見えているからだ。
三日ほど移動すると山脈は消えて、平地のようになった。チラホラと村や町も見えてくる。
そこで高度を100メートルまで落として飛行を続けていると、驚くべき物に出会ったのだ。
それは木造の飛行船だった。
飛行船は全長50メートルはある大型船で、そこから無数の小さな何かが、飛び出してきた。
「どうしますか?」
「上昇しつつ右へ行け」
「了解、急速上昇、面舵いっぱーい!」
ハルナが操船をする傍らで、アキナは木造船の行動を監視している。
「こちらについてきます」
木造船から飛び出した無数の何かが至近距離まで来たので、はっきりと視認できる。柵のついた円盤に人間が3〜5人乗っている。
手には武器を持ってるので、こちらを襲うつもりのようだ。
「全飛行部隊に連絡。出撃して飛んでくる奴を撃墜しろ」
「わかりました!」
伝令の蜂っ子が飛び出していく。
初めての空中戦か。




