第二十三話 ユニコーン
森を抜けると美しい湖があった。水辺では小さく穏やかに、波が寄せては返っていく。
透明度は非常に高い。舟で湖に出たら、少々大袈裟な言い方になるかもしれないが、空中に浮いてるように見えるかもしれない。
そんな湖を見て感動してる俺の隣で、サァベルがそわそわしてて、大変に鬱陶しい。
「フェイロン、魚、魚ですわ」
尻尾はピンと立ち、先端が小刻みに揺れている。これだからネコ科は困る。いや、可愛いんだけどね。
尻尾をギュッと握ると、毛の生えたウナギのような感じがする。滑らず掴めて、ビクビクと動く様が似てるように思える。
「ふあぁぁ・・・尻尾はダメと何度も・・・」
あまり長く握るとサァベルも嫌がるので、しつこくやってはいけない。これはサァベルの俺に対する信頼の証でもあるのだ。
信頼してるから掴ませてくれるし怒らない。これが他の人間ならば掴ませない。
「魚は後で。今はユニコーンが先だよ」
「はぁーい」
水辺を歩き続けて対岸と思われる場所に到着すると、ユニコーンが10頭ほどいた。俺達を見ても逃げたりせず、落ち着いている。
そのうちの一頭が近寄ってきて俺を見た。いや、俺じゃなくてペンダントか?
「お前達は初めて見る。だが、それを持っているのなら、信頼できる者だろう」
「警戒心の強いユニコーンが・・・」
ユニコーンの言葉にエルフィンが絶句している。やはり異常な事なんだろう。
「我らの為に処女を連れてきたのか?」
分かってた。分かっていたけど、ショックを受けたよ。元の世界でファンタジー小説やゲームに登場してるの見たよ、読んだよ。
でも、こうして初めて見たら、荘厳な感じがしたんだよ。高名な画家が描いた絵のような、そんな場面だったのに処女かよ。
そのユニコーンはミリーシャを見た。まぁ美少女だもんな。エリックの彼女だから、あまり変な目で見ないと決めてたけどさ。
客観的に見れば、顔は可愛いし、わりと巨乳だし、ウエストは細いし、尻は大きいし。
なんかエリックを殴りたくなってきたな。
ミリーシャを見ていたユニコーンは、プイッと横を向いた。まるでもう、興味は無いと言わんばかりに。
「その女はダメだ。臭い。悪臭がして鼻が曲がりそうだ。貴様らは処女か否かの区別も出来ないのか。この無能が!」
ミリーシャはもう、真っ赤になっている。その理由が羞恥か、それとも怒りによるものかは分からないが。
「もう、ヤってたのか」
と、オルソンが呟く。ときどき二人でいなくなるのは、それが原因か。と納得してた。
「今さら? 二人の声なんて、ハッキリ聞こえてたじゃない」
と、エルフィン。顔が赤い。
「えッ!?」
「き、聞こえてた!?」
エリックとミリーシャが慌てふためく。
「私はエルフよ。聞きたく無いのに聞こえたわよ。むしろ、私に聞かせたいのかと思ったわ」
ミリーシャは背後から乱暴にされるのが好きらしいと、エルフィンが暴露する。そんなミリーシャの性癖に、まったく興味が無いのかユニコーンはエルフィンの前にいく。
「うむ。年代物のわりに芳醇な香りがする。お前は処女だな?」
ユニコーンが断言した。
いや、ワインじゃないんだからさぁ。
「だが惜しい。この草原の大地の如き、起伏の無い身体。エルフ族に生まれたが故の不幸か」
エルフィンが攻撃魔法でユニコーンを攻撃したが、まったく効かなかった。今のエルフィンからは殺意の波動が吹き出していて、近寄れないのだがユニコーンはお構いなしだ。
つーか、これでよく嫌われる生物No.1に輝かないな。
突然俺の服が、腰のあたりが肉ごと掴まれた。
「あッ! いッ、痛いッ!! いってぇぇ!」
「フェイロン。貴方もユニコーンと同じ意見なのかしら?」
音速に迫る勢いで首を横に振る。尊敬してるし、大切な仲間だし好きだと告げると、服と肉を握るのをやめてくれた。
「そう、それなら良いけれどね」
機嫌が治って良かった。だがユニコーンはマリアのところへ移動していた。
オルソンがマリアの前に立ち、守る構えを見せたが、ユニコーンは鼻面で器用にオルソンを吹き飛ばした。
「おおっ!! これは逸材だ!! 我がパートナーに相応しいぞ!! あと二年もすれば背に乗せて草原を走ろうではないか!!」
おー、選ばれたのか?
「では服を脱げ。あちらの棒のようなエルフと比べ、服の上からでも十分と思えるが、やはり直接見なければ。乳首の色も重要だろう」
ブチッ!
と何かが切れた音が聞こえた。
幻聴だと分かってるんだけど、目の前のエルフが怒りに身を震わせている。俺は背後から魔法を阻止しようと抱きついた。
「静まれ! 静まりたまえ! 森の守護者たるエルフが・・・」
叫んでる途中でエルフィンの胸を激しく揉んじゃってた事に気がついた。先に俺が殺されるかも、と思ったが逆に落ち着いた、らしい。
少し、俺を睨みつけてるけど、攻撃するまではいかないようだ。
「ごめんなさい。わざとじゃなくて。とりあえず馬を止めてくるから」
もうユニコーンなんて呼ばない。馬で十分だろうよ。
馬はマリアの服を噛んで、脱がそうと左右に振っている。もう遠慮はいらないな。
「サァベル! 相手は女の敵だ! やれ!」
「はい、ですわ!」
サァベルは一瞬で間合いを詰めると、馬の顔面を殴り飛ばした。馬体がよろけてるので、相当に効いたようだ。
「お、お前、何者だ? しかし身体は良いな。その胸の大きさは最高だ。しかし、何やら独特の臭みがあるな。慣れればクセに グハッ!?」
イノシシの肉を食ってるんじゃねえんだから。何だよ、独特の臭みって。親指を下にしたのをサァベルが見て、さらに強烈な一撃を叩き込む。
スケベ馬が倒れた。
これだけ体重差があるのに、ダウンさせるなんてサァベル凄い!
興奮のあまりサァベルをハグすると、サァベルも久しぶりにネコ科の本性をだして懐いてきた。
たまには、こういうのも良いかなぁ
その時、何か空間が軋むような音がした。
「いかん! 結界が!!」
倒れてたスケベユニコーンが立ち上がった。




