第6話「母さんと魔法の特訓です」
6歳になった。
神と再会した日から、毎日魔法を使うようになった。
さすがに凡人でも毎日魔法を使えば、それなりに上達する。
1万時間の法則ってものがある。
どんな凡才でも1万時間やればプロフェショナルになれるというものだ。
1日10時間も魔法の練習をし、それを2歳から4年間も続けているのだ。
すでに魔法の練習時間は1万時間を超えている。
そりゃ、魔法の扱いも上手くなるわけだ。
しかし、このあたりで限界を感じていた。
魔法に関する本がなく、教えてくれる教師もいない。
もちろん、インターネットもない。
独学では限界があった。
なら、人に聞くしかない。
ということで両親に聞いてみた。
「おお、ルーク!もう魔法が使えるか。さすが俺の息子だ!」
「ふふふ。そうね」
わっはっはと言って笑ったのは俺の父・マシュー・ウォーカーだ。
そして、隣で優しく笑っているのが、母、カナリア・ウォーカーだ。
「魔法ってのはな! ぎゅーっとしてばばっとすれば、どどどーんと出せるやつだ!」
マシューは体を使って魔法を表現しているようが、全然わからん。
感覚で言われてもな。
「・・・あなた。それでは伝わらないわ。そもそも、ルークは魔法がどんなものか知っている?」
「うーん・・・」
そういえば魔法ってなんだろう。
異世界だから、そういうものもあるんだって受け入れていた。
奇跡の力だと聞いたことがある。
何もないところから水とか火出してたら、奇跡だと思っても仕方ないだろう。
しかし、カナリアが聞いてるのはそういうことではない気がする。
「魔力を形にするのが魔法・・・?」
「すごいわ、ルーク! その通りよ!天才ね」
「そうだな。ルークは天才だ!」
「母さんも父さんも褒めすぎだって」
確かに年の割には賢いだろうが、それはあくまで前世の記憶があるからだ。
大人になる頃には凡人になってるよ。
五つ神童、十で天才、二十歳過ぎればただの人。
「ふふふ。謙虚ね」
カナリアは口に手を当てて、笑った。
彼女は続ける。
「魔法とは、魔力をもとに生成物・・・って言ったら難しいわね。そうね、水や木などがわかりやすいかしら。それらを生み出すものよ」
「うむ! 何言ってるかわからんが、魔法はすごいぞ、ルーク!」
魔法と言えども、無から有を生み出すことはできないということだ。
好きな漫画の中に等価交換という言葉があった。
魔力と生成物は等価交換の関係にあるのだろう。
「詠唱することで魔力を、えっと・・・生成物に変えてるの?」
「うーん、惜しいけどちょっと違うわ。詠唱は魔力から生成物への変換効率を上げるものよ。変換効率って言葉はわかる?」
「ううん、大丈夫! なんとなくだけど、わかるよ! どれだけ無駄が少ないかってことだよね」
「ルークは誰かさんと違って、頭がいいのね・・・」
「うん・・・。無詠唱でも魔法が使えるってことかな」
ここで、誰かが誰なのかは追及しないでおこう。
「その通りよ」
カナリアは「例えば」と前置きをして、右手を手のひら上にして、突き出した。
すると、次の瞬間、水球がぼわっと現れた。
「すごい! 無詠唱だ!」
「見ての通り、『水よ、いでよ』と唱えないでも、水球を出すことができるわ。詠唱は必ずしも必要なわけじゃないの」
カナリアはすっと水を消して、続けた。
「母さん、すごい!簡単に水球を消した!」
カナリアは何気に水を消していたが、これは高度な技術であることを知っている。
「ふふふ。ありがとう」
カナリアは微笑む。
「他にも、詠唱が違っても魔法は使えるわ―――『水よ』」
カナリアの手からさっきと同じくらいの水球が現れた。
「詠唱に決まった型はないの。では、ここで問題です。魔法を使うのには必要なものはなんでしょう?」
「わかったぞ! 気合いだ!」
父さんは自慢げに言っている。
だけど、その答えは絶対間違ってるよ。
「・・・あなた。ちょっと外してくださる? 邪魔なので」
「おっ、おう。・・・すまん」
しょぼんと肩を落とすマシュー。
可哀そうだが、仕方ない。
父さんは理論的に教えるのが下手そうだし。
マシューには申し訳ないけど、魔法に関してはカナリアに教えてもらった方が理解しやすい。
肩を落として去っていくマシューをみながら、そう思った。