第5話「体中が痛いです」
4歳になった。
最近の悩みは魔法の練習に飽きてきたことだ。
初めは楽しかった魔法も、毎日やるのはきつい。
Web小説で、異世界転生した人が幼いころから魔法を極めていたら、大成しましたって話をみかける。
前世では何もなかった一般人が異世界では英雄扱いされる。
そんな話をたくさん見てきたし、俺もそういうサクセスストーリーは割と好きだった。
だが、自分が転生してわかったことがある。
現代社会で何も為せなかった人が異世界行ったところで何も変わらないということに。
ていうか、毎日欠かさず魔法の練習するとか普通に無理だから。
例えば、スポーツだ。
遊びとしてやるのは楽しいが、スポーツ選手になるための練習はきついだろう。
魔法も遊びとしては楽しいが、魔法を極めるには、それ相応の努力が強いられる。
正直に言おう。
魔法の練習を毎日欠かさずやるのは無理だ。
たまにはサボりたくなるし、一日寝たい日だってある。
そもそも、前世でもすぐに飽きるような性格だったし、適当に生きていきたい。
ということで、ここ数日魔法の練習をさぼっている。
別に誰かに強制されているわけじゃないし。
自分の人生だ。
自由に生きよう。
そう決めてから、頭がズキっと痛むようになった。
風邪だろうか。
少し休めば治るよな。
■ ■ ■
ここ数日、頭の痛みが引かない。
休めば休むほど痛みは増していった。
頭だけではなく、体中が痛くなってきた。
母さんがつきっきりで看病してくれるが、一向に良くなる気配がない。
21世紀の日本と違って、この世界は医療が発達していない。
多少の怪我なら魔法でなんとかなるらしいが、病気は治せないらしい。
病気のときと言えば、カル〇スだよな。
普段も美味しいけど、風邪のときはあの味がより上手く感じるんだよな。
カル〇ス欲しいな。
それより、本当に体中痛いな。
インフルエンザで40度超えたときにもこんなにしんどくなかった。
■ ■ ■
「やあ」
頭が痛いせいか、幻聴が聞こえてくる。
「幻聴じゃないよ。僕だよ」
誰だよ。
どこかで聞いたことある声だ。
頭痛すぎて、目もおかしくなったのだろうか。
モザイクが見える。
「ようやく起きたみたいだね」
中性的な声と、モザイクかかった変なやつと言えば、―――神しかいない。
ということは、ここは死後の世界だろうか。
「安心しなよ。君はまだ死んではいない。ただ、このままだと死ぬから、アドバイスしに来たのさ」
アドバイス?
「そう。最近体中が痛いだろ。それは、君の体がこの世界に適してないからさ」
どういうことだ。
「君の体は体内に魔力をため込む性質がある。魔力は少量なら問題ないけど、量が増えすぎると体に悪影響を及ぼすのさ。普通は、適度に魔力を放出することで調整しているんだけどね」
まじかよ。
「まじだよ。でも対処法は簡単だ。毎日魔力を放出させればいい。そうすれば体に魔力が溜まらないからね」
毎日って・・・これから一生ってことか?
「そうだね。君の魔力は今後も増えていくことだし、魔力の放出を怠れば命に関わるね。まあ、魔法の訓練を毎日すれば問題ない」
お前、不良物件に転生させやがったな。
「そんなことないさ。これ以上ないくらい良い物件だよ。魔力をため込む体質ってのは、言い換えれば、他の人よりも魔力がたくさん保有できるってこと。それは間違いなく君の武器になる」
あんまり嬉しくない体質だな。
リスクなしでチートが手に入る方が良かった。
「ローリスクハイリターンなんて甘い話はないよ」
それならローリスクローリターンで問題なかったんだけど。
「それだと、困るのさ。君には世界を救ってもらわなきゃいけないしね」
転生前にも言ったが、俺は世界を救う気なんかない。
「どうせ死んだ身なんだ。世界のために働いたって罰は当たらないさ」
定年退職した人に、「どうせ暇してるんだろ。だったら社会のために働け」と同じだからな。
「君、死んだの29歳だよね。まだまだ働き盛りじゃないか」
ブラック企業も真っ青な労働環境だ。
超過酷な肉体労働で報酬はなし。
さらに24時間の監視付きときた。
俺は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を主張する。
「神の世界に人権はない」
横暴だ。
「僕は神だからね。多少のことなら許される。大丈夫。毎日ちょっと頑張るだけさ」
神はそれだけ言うと、消えていった。
なんて自分勝手な神なんだ。