プロローグ「29歳童貞で死にました」
なんてことない人生だった。
俺は、鈴木雄太。29歳。童貞。
悲しいことに彼女いない歴=年齢だ。
彼女なんてのは幻の存在だ。
29年間生きてきて見たことがないのだから、断言できる。
俺の場合、彼女どころか友人すらほとんどいないがな。
コミュニケーション能力に難があるわけではないが、積極的に人と関わりたいとも思わない。
普通の人と同じように会社に就職したが、肌に合わず、すぐに退職した。
その後はフリーランスとして生活してきた。
大学時代に株で儲けた資金とプログラミングスキルがあったため、生きていくのに困らないだけの余裕はあった。
もともと物欲がないのも幸いしたのだろう。
裕福でなくとも、こんな人生も悪くないと考えていた。
好きなときに仕事して、余った時間はひたすらアニメや漫画を読んだり、ゲームしたりする。
5年間、そんな生活を続けた。
そして、29歳の春。
ちょうど桜が咲いている時期だ。
昼飯を買いに、徒歩でスーパーに向かってるときだった。
信号が青になり、歩き始めた瞬間、
―――ドンッ
車にはねられた。
「ガハッ・・・」
体が吹き飛ばされ、宙に浮く。
時がゆっくりと過ぎていくように感じた。
不思議と痛みはないが、「・・・やべぇな。俺、死ぬんだ」と悟った。
せめて、童貞だけでも捨てたかった。
そして、体が地面に叩きつけらると同時に、俺は意識を手放した。