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幼馴染の行動がストーカーみたく少し……怖いです。


「あの、雄くん。ありがとうございました」

「どういたしまして」


 日が真上にまで上り詰めるころには公園に子供たちがやってきて私もようやく落ち着きを取り戻します。

 なんだか素面では絶対にできないことをやっていた気がします。あれは恐らく深夜テンションですね。

 そうです。絶対そうです。出ないと私があんなに泣き虫になるわけがありません。

 「ふぅ」と一息つくと今の私の格好がおかしいことを思い出します。

 泥まみれの制服に慣れていたことに驚きますがわきだす感情は別のものです。


(そういえば、お風呂に入りたいな)


 全力で走ったりや寝汗なんかで少し汗臭いような気がします。

 ですが、ここでお風呂に入るという子とは雄くんと別れなければなりません。


(……ここで別れるのは少し寂しいけど次からまた会えますし、大丈夫ですね)


 そう思うとお風呂に入りたい欲が湧いてきて一刻も早く帰りたくなりました。


「雄くん。そろそろ私、帰りますね」

「そうだね。日も暮れてきたし帰ろうか」


 雄くんはベンチに座っている私に手を伸ばします。

 私はその手を受け取り、立ち上がりますが――――。


「……雄くん? どうして手を繋ぐんですか?」

「えっ? 帰るんでしょ?」

「はい。そうですけど……あ、駅までですか。大丈夫ですさっきのお釣りも借りているので十分帰れますよ」

「一緒に帰るんでしょ?」


 素の顔で雄くんは言います。そこで、「あっ」と思い出します。

 そういえば、元気な時は一緒に帰るのが普通でした。

 夕暮れのチャイムを聞いて同じ帰り道を帰っていたのが懐かしいです。

 ですが、今は昔とは違います。


「雄くん。すみませんが一緒には帰れません」

「どうして?」

「私、共学の学校に通ってますが女子寮に住んでいるんです」

「うん。知っているよ」

「男子禁制です」

「そうだね」

「雄くんは男です」

「僕は男だ」


 …………どうしてここまで言っても手を放さないのでしょう。もとい、なにも察しないのでしょうか。

 鈍感にもほどがある。というか、気づいていないふりをしているだけなのでは? と勘ぐってしまいます。

 私のお風呂入りたい欲はだいぶ強くなってきているので、このままだと拉致らちがあかないのではっきりと口にします。


「はっきり言います。ついてこないでください」

「っ!?」


 雄くんがまるで捨てられた子犬のような顔で泣きそうです。

 その顔にすごくきゅんと来るものがありますがここは我慢の時です。


「そもそも、雄くんには帰るところがあるでしょう。そこに帰ってください」

「うん。だから、一緒に帰るんでしょ?」


 ……? 雄くんの言っていることがよくわからなくなります。

 「だから、一緒に帰る」? それはまるで一緒に住むような口ぶりで……。


「待ってください。雄くんは今までどこで生活をしてたんですか? 前の家とかじゃないのですか」

「えっ? 前の家なら別の人が住んでるよ」

「へっ?」

「生活しているっていうなら――――それならこの公園かな。寝るスペースがあるなんて都会は最高だね」

「いや、それはベンチで……いや、いいです。雄くんに常識を求めるのはやめます」


 頭の中で整理します。恐らくあれです。ライトノベルとかの展開でよくある野宿ってやつです。都会で野宿とは雄くんもだいぶは^ドボイルドになっています。

 仮に野宿をしていたと仮定しましょう。そう……仮定して……んん? やっぱり一緒に帰るって話につながらないですね。

 頭を回転させるには甘いものが足りないのか。思考が安定しません。

 ここは私の方が折れてちょっと譲歩することにしましょう。


「わかりました。途中まではいいですけど、部屋には入れませんよ? 寮母さんに怒られてしまいます」

「夫婦なのに?」


 さらりととんでもないこと言われますがいい加減感覚がマヒしてきました。

 

「まだ結婚していません。基本的に寮は男子厳禁です。ですので、雄くんは入れません」

「……そうなんだ。それは困ったなぁ」


 顎に手を当てて悩む人のまねをしてます。その仕草は本当に当時の雄くんですね。子供頃にはよく真似してました。


「まあ、学校が終われば毎日会ってもいいですからそれで」

「いや、それだと間に合わないから学校には転入手続きしているよ」

「へっ?」


 まるで未来予知でもしているかのように機先きせんに動いています。


 そういえば、ふと気になることがあります。

 私は昨日、寮への帰り道はいつもと違う道で帰りました。

 そこで殺人鬼がいて、雄くんが助けてくれました。

 どうして……雄くんは私の場所がわかったでしょうか?

 「優奈ちゃん、守りに来たよ」の言葉は単なる偶然の産物でしょうか?

 ぞくりっと背筋に冷や汗が流れます。何かその先を考えてはいけないような気がしてきました。

 私は少し、ほんの少しだけ疑いの目で雄くんを見てしまいます。


「一応、週明けから同じクラスだよ」

「て、手回しがいいですね。じゃ、それで」


 この場から離れないといけないと本能が叫んでいるような気がします。

 これは考えてはいけない事でした。あれだけ手放しで雄くんが生きていたことを祝っていたのに今はその感情がみじんも湧きません。

 でも……


「でも、寮が1人っきりっていうのが心配だね」

「へっ?」


 雄くんは私の心配をしてくれます。

 心がざわつきます。さっき雄くんのことを信じると決めたはずなのに、今は信じきれません。 


「ちょっと交渉しに行ってくるよ」

「へっ、あっ! どこに!?」

「先に寮に行ってて~~!」


 そういって手を振ってどこかに雄くんは走っていきました。

 止める言葉を発する前に姿が見えなくなって私は置き去りになります。


「……帰りましょうか」


 誰かに言い訳をするわけでもなく私1人、ポツリッとつぶやき帰路につきました。


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