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どうも幼馴染が帰ってから涙腺が緩んでしまう。


「……あれ?」

「おはよう。優奈ちゃん。よく眠れた?」

「ゆう……くん?」


 目を覚ますと雄くんの顔が見えます。

 いや、これは私がベンチで寝ていて雄くんが膝枕をしてくれているからですね。

 と、自己完結して二度寝しようとしたその瞬間、頭がフル回転します。


「あれ!? なんで雄くんが生きているの!?」

「またそこからなの?」

「えっ!? いや、だって……あ」

「思い出した?」


 思い出しました。

 昨日、殺人鬼の現場を目撃し、口封じのために殺されそうになったのを雄くんに助けてもらったんでした。

 あれ? でもそれって、確か雄くんが死体だったような……んん?


「雄くん、聞きたいことがあるのですが」

「それよりも何か食べない? お腹空いてきちゃった」


 そういう雄くんのお腹がぐぅ~と音を鳴らします。

 かくいう私もだいぶ空腹です。このままだと雄くんの音に負けずになってしまいそうです。

 ですが……。


「いや、それよりも服をどうにかしましょう。このままだと通報されます」


 都会のど真ん中で2人血まみれと泥まみれの服装。しかも片方は制服です。

 どうあっても事案確定な服装をどうにかしない限り動くことができないですね。


「あ、それだったらこれでも羽織る?」

「それは……え、布団?」

「違うよ。フードだよ」


 それは人一人を軽々包み込むような大きい茶色い布を渡されます。

 雄くんはフードと言いますが手を通す部分などなく形は布団に酷似してます。

 ……それで姿を隠してコンビニに行くか。移動して警察のお世話になるか。

 仕方、ないですね。お腹が優先です。

 体をすっぽりと隠すと雄くんももう一枚取り出して血まみれの服を隠します。


「そう、ですね。とりあえずコンビニに行きますか」

「コン? ビニ?」


 雄くんがなんだそれ聞いたことないぞと言わんばかりの顔でこちらをいぶかし気に見つめます。

 その反応に私は戸惑いを隠せません。


「……え、雄くん。コンビニぐらい知ってますよね」

「あ、うん。うん、知ってるよ。あれだよね、全部が100円でできてる……」

「それは100均……というかその説明だと建物が100円に聞こえますよ」

「あ~そうだね。ごめん、知らない」


 ペコリと頭を下げられます。そういえば、雄くんはなんでも知ったかぶりをしたがる癖がありました。

 懐かしいなと思いつつもとにかくお腹がすきました。


「今時、珍しいですね。案内しますよ」

「お願いします」


 雄くんの手を握りしめて私は適当に歩いてコンビニに向かいます。

 そういえば、この辺はどこでしょうか。スマホも落としたので寮に連絡できませんし、不便です。

 道路に出ればある程度までわかるでしょう。

 周囲を見回しつつ、コンビニを発見しました。


「いらっしゃいませー!」


 コンビニ店員の元気な声が聞こえます。

 ちらりと雄くんの顔を除くと遊園地に来たかのように目を輝かせています。


「ここがコンビニ……すごい」


 手を握りしめてなければ走り出していたでしょう。実際、強く引っ張られました。


「恥ずかしいのでその反応はやめてください。とりあえずパンを買いますよ」

「あっ、ちょっと待って」


 ちょうどよく朝に補充されたばかりかパンは選び放題でした。

 私はイチゴとバナナ味のパンを買い、雄くんはアンパンを二つ選びます。

 ついでに飲み物とジュースと牛乳を買い、レジに並びます。


「あっ、そういえば私お金が……」

「大丈夫。僕が持っているよ」


 「はい」と渡されたのは10万円……10万円!?


「ちょ、ちょっと! 雄くん、しまってください!!」

「えっ? でも……」

「一枚でいいですから! はい、これ!」


 慌てて10万円の中から1万円を取り出して店員に渡します。

 幸いにも店員は優しくコントでもしているのかと思ってくれたのかツッコミは無しでした。

 私は顔を真っ赤っかにしてその場を後にし、朝起きた公園に向かいます。


「大丈夫? 優奈ちゃん」

「誰のせいだと……!」


 雄くんは心配そうに顔を覗かせます。

 本当に悪気はないようです。

 一つ、深呼吸をして落ち着きます。ここで雄くんを攻めても意味はなさそうです。

 私はコンビニ袋から勝ったパンを取り出してかじります。


「それにしても……コンビニを知らないなんて。ずっと病院にいたんですか? それとも異世界?」


 冗談半分に今までどこにいたのか気になったので質問タイムです。

 ここまで現代の知識がないと雄くんは異世界に行っていた可能性がわずかにあります。


「異世界?」


 首をかしげて意味が分かっていないみたいです。

 どうやら違うみたいですね。

 そうそうにライトノベルで起きるような異世界転生なんてありは――――。


「異世界がなんなのか知らないけど僕はずっとこの世界にいなかったから最近ことは知らないんだ」

「………………」


 「あっ、最近じゃなくて昔も病院にいたから知らないや」なんて笑いますが……それよりも大変なことを言っています。


(それは異世界にいたということでは?)


 ぐるぐると頭を回転させます。異世界の定義は広いです。一般的にはファンタジーの世界を抗議されますがそれこそエイリアンなどが出る近未来でもここからすれば異世界です。

 単純に今いる世界から別の世界に行っていた。うん。雄くんに自覚はないですけど異世界から帰ってきてますね。

 

「病院で優奈ちゃんが帰った後、起きたら知らないところにお父さんとお母さんが連れて行ってくれてね」

「おじさんとおばさんも!?」

「うん、それ本人には絶対に言わないでね。それでそこだと空気がよくてどんどん体がよくなったんだ」

「そうなんですね」

「でも、やっぱり優奈ちゃんと結婚するから帰ってきちゃった」


 恥ずかしげもなく笑いかけてきます。

 そこでの生活はどんなだったとか、ドラゴンやモンスターはいたとか、もっと質問があるのにその言葉で霧散しました。



「優奈ちゃん……結婚しよ?」



「んぐっ!??」

「優奈ちゃん!?」


 突然の告白に食べていたパンがのどに詰まります。

 急いで買ったジュースを開けて飲み流します。


「大丈夫!? 急にどうしたの?」

(こ、この男は……)


 事もなさげに心配してきます。原因は雄くんなのですが気づいていませんね。

 いきなり結婚宣言させられて驚かない女性はいないというのに……! 


「いや、ちょ、ちょっと待ってください! 結婚は――――」

「いや?」

「嫌じゃないです! でも、ほら、その……年齢が!!」

「年齢……ああ、歳のことか。問題あるの?」

「あ、あります! おおいにあります!! 日本の法律では成人するまで結婚できないのです!!」


 嘘をつきました。本当は未成年でも結婚することはあります。

 だけど、そのことを言うと押し切られる気がして嘘をつきました。


「そうなんだ……仕方ないか。じゃあそれまではずっと傍にいるね」

「……ずっと!?」

「うん、ずっと傍にいるよ。だって約束したでしょ。『死んでも守るよ』って」

「それは……」


 昔、病院でした最後の約束。

 雄くんが集中治療室に入り、意識を失った前の最後の話した時でした。

 雄くんは自分が辛い状況なのに毎日来る私を心配していってくれた言葉です。


「『優奈ちゃんが辛いときは呼んでね!? 死んでも守るよ!!』」


 あの時、私は病気じゃないです。何度も説明しました。だけど、雄くんは私の言葉を聞かずにその言葉を言ってました。

 本当に辛いのは雄くんなのに……。

 そうです。思い出しました。だからこそ、私は雄くんに言わなければいけない言葉があります。

 

「雄くん。お願いがあります」

「なに?」

「これから……絶対に『死んでも』なんて言わないでください」


 私は雄くんの手を握って、目を見て言います。

 雄くんが死んだ後、ずっと私はその言葉を思い出さないようにしてました。

 人は死んだらお終いです。それは絶対に変わらない事です。

 今回の件は雄くんは実は死んでなく異世界に行っていただけで済みました。

 だけど、私の心の中では雄くんは死んでいました。その間、ずっとずっと失った苦しみを味わって、辛い思いをしてきました。

 そして、その辛さから逃げるようにその言葉を忘れてました。死んだら助けになんてこれないくせに……。

 念を押すためにもう一度、手を強く握りしめて言います。


「いいですね? 絶対に『死んでも』なんて言わないでください」

「……うん。わかったよ」


 これで雄くんがわかったかどうかは私にはわかりません。ですが、私の気持ちは伝わったはずです。


「優奈ちゃん」

「なんですか?」



「ありがとうね」



「――――っ!!」


 卑怯です。いじわるです。最低です。

 そんな、そんな言葉を今使われると……。


「うっ。ひっぐ!」

「ありがとう。優奈ちゃん。僕のことを大切に思っていてくれて」


 もう、出会ってから何度目になるかわからないほど雄くんの胸に抱かれます。

 私は本来こんなに涙もろくはないです。普通の普通の学生さんです。

 だから、死んだと思っていた雄くんが実は死んでなくて異世界に行っていただけなんて事実は受け止めきれないです。

 もっと、もっと、いいたいことがあるのに涙が止まりません。

 

 それからまた私は泣きじゃくっていました。

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