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前日談

 


 詠の「バンド結成」思い付き失言から、幾数日。

 見事メンバーも見つかり、念願の結成にありついた彼女たちだったが……。

 それはそれは、前途多難。

 花村はゆ、野々宮詠、藤森水月、子川祀――メンバーのうち二人が未経験であることが判明する。言い出しっぺである詠も、まさかの楽器未経験者であった。



 詠「どうしよぅ……! 楽器なんて、全然やったことない……!」

 後にエレキギターを担当することになる高校一年生の女の子、野々宮(ののみや)(よみ)

 楽器未経験。好きなアーティストはサザン。



 は「大丈夫大丈夫。楽器なんか、ちょっと高めのやつ買えば、すぐできるようになるって。責任感で」

 洗練された能天気の彼女は、花村はゆ。バンド結成の立役者である。

 姿勢に見合わずやれば何でもできちゃう天才娘で、できない楽器はこれから無くなる。本人は一応、キーボード担当の体でいる。好きなアーティストはブルッホ。



 水「責任感ってなんだよっ! つーか、いくらすんだよ。百万とか一千万とかするって、あたし聞いたことあんだけど……?」

 声の大きい彼女は、実はボーカルではなくドラム担当の高一不良女子、藤森(ふじもり)水月(みづき)

 女子トイレで人をぶん殴っているところをはゆに見出された。幼い頃に姉とピアノを習っていたが、わずかな期間だったので楽器未経験と言っても過言ではない。

 好きなアーティストはビーズ。



 祀「大丈夫よ~♪ 安いのだと一万円を切るギターもあるし、ウクレレとかなら二千円くらいでも買えちゃうんだぁ。でも、はゆちゃんの言う通り、あんまり安いと音が良くなかったりして長続きしなかったりするの~。かと言って、急に高いの買っても大変だから、いい感じのを選ぼうね~」

 一人だけ制服リボンの色が違うのは、決して子川(ねがわ)(まつり)が留年しているからではない。この圧倒的包容力からもわかるように、彼女は高校二年生なのである。

 ふっくらした体型と物腰の柔らかさから、バンド内外で「まま」と呼ばれている。本人は「まつり」という名前のもじりだと思って認可している。

 家が裕福なこともあって、幼少期より楽器を習っている頼もしい先輩。バイオリンを習っていたのに、それを売却してアップライトを買ってしまう実に頼もしい先輩。

 好きなアーティストはコールドウェル。



 水「いい感じのって言われても……。あたし、そんなのわかんないし」

 祀「ふふふっ。誰でも最初はそうだよね。けど、いいのいいの~♪ 手に取ってみて『いいな』って言うのがあればそれでいいし、見た目とかでも全然いいんだよ~」

 詠「そんなでいいの……?」

 は「うん。いい。けど、大体そうやって選ぶと高いよ」

 祀「ね~」


 なんとなく、詠は羨ましそうな目で先輩を見る。


 水「そんなことよりさ。まず、誰が何やるか決めないとだろ?」

 は「わたしは何でもいいぞ」

 祀「私も色々やってみたいんだけど……。器楽部との両立があるから、ごめんね、私はベースかなぁ……」

 水「いえ、全然……。つってもさ、楽器って何ある?」

 詠「キーボードとギター、ドラム、ベース……、あとは……」

 祀「そうだねぇ。例えばキーボードって言っても、ピアノだけじゃなくて、オルガンとかエレクトリックピアノ、あとはクラビネットなんかにわかれるよ~」

 は「そうだな。ギターは、エレキとアコギ、エレアコもそうかな。あと、こないだ音楽の先生が授業で弾いてたクラシックギターなんかも、一種かな」

 詠「ふぇぇぇ……」

 水「その要領でいくと、ドラムとベースにもあんのか?」

 は「どうだろ。ドラムはドラムだけど、打楽器とかパーカッションとして見れば無数にあるよ。カホン、コンガ、ボンゴ、ジャンベ、シェーカー、クラベス、あと民族楽器とかもだし」

 祀「はゆちゃんの好きな”ラテン”ってジャンルには欠かせない楽器だね~。ちなみにベースはぁ……アップライトとウッド、エレキ……くらいかなぁ。管も合わせると、チューバも一応ベースだね~」

 詠「ふぇぇぇぇぇぇ……」

 は「なんかさっきから、詠から空気が抜けてる」

 祀「あはははっ! はぁぁぁぁぁぁぁ詠ちゃん可愛い……」

 水「まぁ、わかるけどな」

 祀「あっ、ようやく水月ちゃんもわかった!?」

 水「多分、先輩が思ってるのと違ぇ」

 祀「えぇ~? 一緒だよ~。詠ちゃん可愛い~、でしょ?」

 水「やっぱ違っ……くはないけど……、今、あたしそういう話してませんでしたから!」

 祀「水月ちゃんも可愛い~♪」

 水「や、やめてくださいよ……!」

 は「照れてる」

 水「照れてねぇ!」

 詠「…………」

 水「…………」

 は「見つめ合ってる」

 水「合ってねぇ!! はぁ……。疲れた……。まーでも、そうすっと逆に、あたしらがやりたいのを選べばいい感じですかね……」

 祀「そだね~♪ 楽器は後からでも変えられるから、直感で『これかっこいいかも』っていうのを選んだらいいよ~。あっ、そうそう。私、通販のカタログ持ってるから、これ見て選んだら~? 中古のだけどね~」

 詠「ふぉぉぉ……。カタログ、なんかすごい……!」

 水「あ、ドラムって意外と安いんだな。五十万くらいすんのかと……」

 は「あそこ、こんなカタログ作ってたんだ。初知り」

 祀「何か大きいもの買うとついてくるよ~」

 は「大きいものか。なるほど。まぁ、そもそもわたし、通販使わないんだけど」

 水「ちなみに先輩、何買ったんですか?」

 祀「ん~。わかるかな~? エフェクターボードだよぉ」

 は(アップライトなのになぜ?)

 祀「あ、ねぇねぇ。はゆちゃんはいつもどこで買ってるの?」

 は「わからない」

 水「はっ?」

 祀「誰かに譲ってもらうとかかなぁ?」

 は「んー。それも違う」

 詠「じゃ、じゃあどうやって……」

 は「杏と添い寝すると、探して来てくれるんだよ」

 水「そっ」

 祀「添い寝っ? あん……?」

 詠「だ、だれ……?」

 は「杏は、スタジオのオーナーだよ?」

 水「スタジオっ!? お、おいっ! お前、それ、大丈夫なのかよっ!? なんか怪しいやつじゃねえのかっ!?」

 は「別に怪しくはないけど……」

 詠「けど……?」

 は「ちょっとだけ、恥ずかしいのかもしれない」

 祀「ぽっ……♡」

 水「いや、照れてる場合じゃねぇって! てか、やっぱりやばいやつじゃねぇかっ!! 興味本位で首突っ込んだけど、いつのまにか辞めたくても辞められない状況になってたとかそういうことじゃねぇの? お前、そういうのすぐ一人で抱え込むから」

 は「んー、まぁ、確かに辞めたくても辞められないけど」

 詠「けど……??」

 は「欲しい楽器買ってくれるし」

 水「お、お前なぁ……! もっと自分を……た、大切にしろよっ!! あたしが言えた義理じゃないけど。さすがに、エンコーはやべぇだろ……」

 祀「水月ちゃん優しい……」

 は「エンコーってなんだ? 親と添い寝することをそうゆうのか?」

 水「違ぇよ! エンコーってのはだなっ、その、なんだ……って、親っ? 添い寝って、親と……?」

 祀「あらあらまあまあ~。可愛い~」

 水「可愛いとか、そういうんじゃねぇけど、一先ずはよかったか……。父親とだったらそれはそれでやべぇけど」

 詠「お母さん?」

 は「んー、お母さんっていうか(あん)だけど」

 祀「あ、それって、もしかして宇佐美さん?」

 は「そうそう……えっ、なんで知ってるの?」

 祀「器楽部の顧問の先生がよく話してるんだ~」

 は「あー。結乃(ゆいの)先生か。たまに密会してるって言ってたね」

 詠(はゆが知ってたら密会じゃないんじゃ……)

 祀「ね~。御影池先生、いっつも『あんあん』言ってるから、変に詳しくなっちゃった~」

 水(御影池(みのっち)先生、変な噂流されてるぞ……)

 祀「今は確かレコスタ『Love it』のオーナーさんなんだよね? 私も会ってみたいなぁ。レコスタ見学とかしてみたい!」

 は「いいよ。なんなら添い寝してあげて。杏は常に温もりを求めてるから。女子なら誰でもいいって言ってたし」

 水「なるほどな。それで楽器買って貰ったりな……って、アホかっ!! 人ん()の母親と添い寝ってどういう状況だよっ!! ていうか、女子なら誰でもいいとか、普通にやばい人じゃん!」

 は「けど、楽器なら探して来てくれるよ。アンプとかならスタジオに置いといてもいいらしいし。なんか安く仕入れられる伝手があるんだってさ。その代わり、新品はないけどね」

 水「ふーん……。一応、筋は通ってんな。バカっぽいけど……」

 祀「水月ちゃん、なんだか興味ありそうね~。添い寝~」

 水「ちょっとだけドラムに……って、添い寝かよっ! 添い寝は興味ねぇわ!」

 詠「添い寝って、何時間……?」

 祀「詠ちゃんの方が興味あった~」

 は「杏が満足いくまで。仕事無い時は長かったりする」

 詠「ギャンブル……」

 水「待て待て待て。添い寝って言ってっけど、まさか、特にその先はないんだろ?」

 祀(やっぱり水月ちゃんも興味津々~♪)

 は「その先って?」

 詠「……?」

 祀(はゆちゃんの天然~可愛い~♪)

 水「そんなの決まってんだろ!? 添い寝したらその後は……せっ……、せ……、せっ」

 は「せ?」

 詠「せー……」

 祀「あら~」

 水「せっ、接触! 接触とかするだろ!」

 祀(水月ちゃんの顔が真っ赤~! 可愛い~♪)

 は「あー。まぁ、確かに時々触られるけど、杏も寝てるから故意じゃないし、別にいいんじゃない? 杏が元気になるんだったら、それで」

 詠「はゆ……」

 水「そこ、しんみりするとこじゃなくね……?」

 祀「そうだ! 今日はスタジオ開いてるの?」

 は「開いてないけど、見学ならいつでもできるよ」

 水「ふーん……」

 祀「ねぇねぇ。今日の放課後、みんなで行ってみない?」

 詠「行きたいっ」

 祀「よぉし。あとは……水月ちゃん~」

 水「わ、わかってるってば。あたしも行くっ……、行きますよ!」

 は「じゃあ、行ってみるか」

 祀(はゆちゃんがなんか嬉しそう~)

 水「ところで、なんでそんなに詳しいんだよ。ラビット……だっけ? スタジオなんて、そう出入りする場所でもねぇだろ……? つーか、どういう経緯があったらオーナーとそんな深い関係性に……」

 は「んー。よくわかんないけど、わたし、そこでバイトしてるから」

 三人「「「えっ」」」

 祀「この学校バイト禁止だよ~!」

 水「そこじゃねぇ!!」



 

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