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第76話 師匠 5 〜ミリーの実践②〜


「ほら、目的地に着いたぞ」


師匠がそう言って辿り着いた場所は、私達が初めて出会った場所でした。

あの時、勘違いをして突然現れた変な青年が、今は私の師匠になっているなんて世の中は本当に奇妙なものだと実感します。


「ミリーの出発点はやっぱりここからだろう!」


師匠は私を見ながら片頬を上げてニッと笑います。

師匠ったら、とっても気障きざです・・・

基本的に小心者のくせに、まれにこういう事をするのが師匠クオリティなのです。


ですが、私もやっぱり始めるならここからだという気持ちは同じでした。

教授に連れて来てもらったあの時は、危機的な状況になれば、もしかすると魔法が使えるかもしれないという藁にもすがる気持ちでしたが、結局は何も変わらないまま終わってしまっていたのです。

だから私も師匠の言葉に強く頷くことで返します。


「じゃ、ここからはモンスターが出てくるから気を引き締めろよ。

それで、どうだティア?」


「・・・いる。あっちとあっち」


師匠に尋ねられたティアちゃんは、耳をピクピクさせた後に奥の方を指差しました。


「オッケー。それじゃ、ティアとミリーはここで待機だ。

俺が先に行って、コボルトだったらここまで誘導するから準備しておいてくれ」


私には魔物の気配など微塵も感じませんが、師匠はティアちゃんの言葉をまったく疑うこともせず行動を開始しました。

教授と来た時は魔物を見つけるのに多少苦労したので、こうもあっさりと位置が分かったことに驚きましたが、すぐに戦闘が始まるようなので、いったん疑問は後回しです。


「わ、分かりました!」


師匠は私の返事に頷くと、草木を分けて森の奥の方へと進んでいきました。



師匠が行ってしまうと、私は黙って森の奥を睨み付けます。


「・・・」


不安と緊張から手に汗がひどく滲んでくるのが分かりました。


「・・・」


けれど、そんな私とは対照的に、私の回りをチョロチョロと動き回り楽しそうにしているのはティアちゃんです・・・。

なんの警戒もなしに藪をつつき、どこからともなく手頃な木の枝を採ってくると地面にお絵描きを始め、しまいには木に登りだし大きな虫を捕まえようと腕を伸ばしているのです。


私には修行であっても、ティアちゃんにとっては遠足みたいなものだというのは分かりますが、あまりにもあんまりなので私はティアちゃんに声を掛けます。


「ティアちゃん・・・今からモンスターが来るかもしれないし、危ないので私と静かに待っていましょうね?」


「・・・うん」


ティアちゃんは素直に頷いてくれると、人形のコレットを抱いて私の側まで来てくれました。

それから、程よくフワフワの芝を見つけると、そのままゴロンと気持ち良さそうに寝転がりました。


「・・・」


魔物がいつ飛び出して来るか分からないこの状況で、こんなにも大胆な振る舞いができる幼女は、魔法の叡知が集結したこのラーズナルでもこの子だけなのではないでしょうか・・・。


そんなことを考えながらしばらく待っていると、ティアちゃんが突然頭を上げました。


「・・・きた」


「え?」


ティアちゃんが目を向けている先を見てみますが、私には何も分かりません。


「ほんと?」


「・・・うん」


ティアちゃんの言うことが正しいのかどうか分かりませんが、さっきまでの()()()()とした雰囲気は既に消えていたので、私は少しでも何かを掴もうと目と耳に意識を集中させました。


それから間もなく、私にも地面を蹴って走る複数の足音が聞こえてきました。

その音が次第に大きくなり、視界を遮っていた木々が大きく揺れたかと思うと、師匠が私達のいる場所に飛び出してきて、すぐに指示を出しました。


「ミリー、“オーラ”だ!」


私はいつでも戦えるように準備していたので、瞬時に魔力を出して“オーラ”のスキルを発動します。


それとほぼ同時に師匠を追いかけてきたモンスターが2匹、草叢くさむらを掻き分けて私達の前に姿を現しました。


「コボルト2匹だ!チュートリアルには最適だろ」


2匹のうちの1匹が走ってきた勢いそのままに、牙を剥いて師匠に飛び掛かろうとしているのですが、師匠は余裕の態度で宣言通りにチュートリアルを開始しました。


「いいか?焦らず練習通りにやれば問題ない。・・・こんなふうにな!!」


飛び掛かってきた1匹のコボルトに、師匠は脳天へゲンコツを叩き込みました。

すると、たった1発のその攻撃を受けたコボルトは脳震盪でも起こしたようにフラフラと目を回したようになってしまいます。


「ほら、ミリー。まずはそいつにトドメをさしてみろ!」


「は、はい!」


私はフラフラして立っているのがやっとの状態のコボルトの身体の中心めがけて正拳突きを放ちます。

勿論、当たる瞬間に魔力をさらに込める事も忘れません。


「必殺!マジカル☆パンチ!!」


『このパンチは、繰り出すたびに己の魂を揺さぶり、忘れ去られし“魔”の力を呼び起こす怒りの鉄拳なのです!』

・・・つまり、要はただの脳筋パンチなのですが、あくまでも自分は“魔法使い”だと主張するために考え出した必殺技です!


そんな想いの籠った私の必殺技を避けることができなかったコボルトは、3メートルほど宙を舞うと、地面にぶつかりゴロゴロと転がって動かなくなりました・・・。


仲間が軽々と殴り飛ばされたのを見ていたもう1匹のコボルトは、驚いたように目を丸くしています。

そして同じように目を丸くしていたのが・・・何を隠そう、この私です。


『なんじゃこりゃ~!?』です!

コボルトを吹っ飛ばしてしまいましたよ!しかも片手で!?


これまでこのパンチは師匠以外に向けたことがなかったので、こんなにも威力が出るなんて知りませんでしたよ!!


初めて魔物を倒せた喜びよりも、戸惑いの方に感情が振り切れてしまってますよ!?


「よし、まずは1匹だ!

力は要らない。避けて、当てるだけで十分だからな!」


「は、はい!」


乙女心の機微に疎いどころか、その存在自体を知らなそうな師匠は、私の動揺などお構いなしに次の指示を出しました。

ですが、確かにこれなら当てるだけで十分なのも納得です。


「じゃ、こいつはミリーひとりでやってみろ」


師匠は目を丸くしている方のコボルトに親指を向けながらそう言いました。


「分かりました!」


私はちょっとだけ親近感を持ってしまったコボルトに目を向けると、倒すべき相手だと認識を改め、戦闘の構えをとります。


残ったコボルトは、仲間が簡単に殺されたのを見て形勢が不利なのを理解したのか、後ずさって逃げようと試みています。

けれど、それは師匠が許しません。コボルトの背後に回り、逃げ道を塞ぎます。

そしてコボルトの左右には、いつの間にかティアちゃんとコレットが立ち塞がっており完全にコボルトを包囲していました。


コボルトは背後への逃げ道は早々に諦め、私と左右のティアちゃんとコレットに首を巡らします。

コボルトに目を向けられたティアちゃんは、両手を持ち上げて「・・・ガォ~」と言って威嚇のポーズをしています。

コレットも同じように両手を上げて威嚇のポーズをしていますが、指がないためバンザイをしているだけにしか見えません。


そんな可愛いらしい2人に挟まれているコボルトは、しかし活路を見出だしたのは私が立っている方でした。

そして牙を剥いて飛び掛かって来たのです!


私はやや慌ててしまいましたが、コボルトは人の子供のような身体をしており、俊敏さというものがありません。近づいて噛みつこうとしてくる頃には冷静に対処することができ、噛み付きをさばいたところにコボルトの死角から顎を蹴り上げました。

そしてって隙ができた相手に、先程と同じように必殺技を放ちます。


私のマジカル・パンチを食らったコボルトは再び宙を舞い地面に叩きつけられると動かなくなりました。


「いいぞ!よくやった!」


師匠は足元に転がったコボルトを見て、満足そうに親指を立てて褒めてくれました。


「どうだ?ちょっとは自信が付いただろ?」


「え、えぇ。そうですね・・・」


しかし、私は引きった笑顔で答えるのがやっとでした。


師匠は“ちょっとの自信”と言いましたが、私の気持ち的には、もしも路頭に迷っても解体業の仕事に就けるのではないかと思うくらいの自信が付いたように思うのでした・・・。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  ほのぼの系でも在りつつ感動させたりギャグも込めつつも、無意味なハーレム展開にしない所が素晴らしいですね(^^) [気になる点]  GAMEをある意味極めてた設定なら戦闘関係をもっと有って…
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