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第75話 師匠 4 ~ミリーの実践①~


私、カーヤ、師匠、ティアちゃん、それとコレットの4人と1匹は今、冒険者ギルドへとやって来ています。


最後の訓練をクリアすることができた私は、いよいよ明日から町の外に出て、実際にモンスターと戦うことになったのです。

そのことをカーヤに話すと、当然のように「では、私もご一緒いたします」と言うのですが、カーヤは普通の侍女です。戦闘能力など持ち合わせてはいません。

つまり、私にカーヤが付いてきてしまうと、守らなければならない対象が増えて師匠の負担が大きくなるばかりか、非常事態に陥ったときにそれを回避するのが難しくなってしまうのです。


それを説明するとカーヤは理解はしてくれましたが、納得はできないようでした。

そこでカーヤが言い出したのが、護衛の依頼として冒険者ギルドを通すことでした。

こうしておけば師匠は私の護衛に仕事としての責任が生じるため、いくらか安心できるだろうというのがカーヤの考えです。


私としてはあまり気持ちのいいものではありませんでしたが、カーヤの立場もあるので反対はできません。


「それでは、こちらを指名依頼として受理させて頂きます。記載事項にお間違いはございませんか?」


「えぇ、問題ありません。それでお願いします」


「えぇ!?ちょっ、ちょっと、カーヤさん、報酬額が間違ってませんか?

桁が1つ多いように見えるんですけど・・・」


師匠が依頼書を確認して驚きの声を上げました。


「いいえ、これで合っています。

お嬢様の身の安全の対価としてはまだ少ないくらいです」


そうやって刺々しい態度で返していましたが、報酬の中にはそれ以外の気持ち(もの)も含まれているのだと思います。カーヤはああ見えて恥ずかしがり屋なのです。


「それでは師匠、明日はよろしくお願い致しますね」


手続きを終えてギルドから出た私達は、いくつかの確認事項をするとお別れの時間になっていました。


「分かった。ミリーも今日は早く寝るんだぞ?」


明日は週末で学校も休みなので、朝から師匠と出掛けることになっています。

私が「はーい!」と返事をすると師匠はティアちゃんと手を繋いで帰っていきました。


それを見送ると私達も寮のあるパレスに向かって歩き出します。

しかし歩き出してすぐのこと、カーヤが私の隣に並んで懇願するように口を開きました。


「お嬢様、やはり私に護衛を付けてご一緒することはできないでしょうか?」


心配してくれているのは分かりますが、それでも許可することはできません。


「それはさっきも説明したでしょう?

人数が多くなれば邪魔にしかならないわ」


「ですが・・・」


それでも言い募ろうとするカーヤに、私はやや強い口調で言い放ちます。


「それに師匠は冒険者よ。無闇に手の内を他の人に見せるのはよくないはずです。

まして私達の都合で師匠に不利益を与えるなんて絶対にダメです!」


「・・・分かりました。

それではお嬢様、明日はくれぐれもお気をつけ下さいませ」


「えぇ、分かったわ」


それだけ聞くと、カーヤはまた1歩下がって付いてくるのでした。



* * *



「弁当持ったか?」


「・・・もった!」


「水筒持ったか?」


「・・・もった!」


「ハンカチ持ったか?」


「・・・わすれた!」


「ちり紙持ったか?」


「・・・わすれた!」


「お前、飲み食いする物以外持ってくる気ないだろ!?

分かってるとは思うが、おやつは500円までだからな?」


2人が楽しそうにやり取りしていますが、おやつなど当然持ってきていない私は話に付いていくことができません。

けれど、その会話の中に聞きなれない言葉が出てきたので尋ねてみました。


「師匠、500『円』ってなんですか?」


すると、師匠とティアちゃんは顔を見合わせたかと思うと、一緒になってやれやれと首を横に振りました。


「まったく、ミリーはしょうがないなぁ~。

ティア、500円分のおやつをミリーに見せてやれ」


ティアちゃんが師匠にそう言われると、嬉しそうに色々な食べ物を鞄の中から出してくれました。


「ふむ、妥当なラインナップだな。

少し予算オーバーな気もするが、酢昆布のチョイスに免じて許してやろう」


師匠がOKを出すと、ティアちゃんはまるで料理を褒められたシェフのように胸を張ります。


「分かったか?これが500円分のおやつだ!

ついでに大事なことも教えておいてやろう。ティア、バナナは?」


「・・・やさい!」


「イチゴも?」


「・・・やさい!」


「どうだ、理解したか?」


「・・・」


正直、私の聞きたかった事とは全然違ったのですが、2人の自信満々な様子を見ていると、頷くほかありませんでした。


師匠達と話していると、時々自分がひどく物分かりの悪い子に思えてくるときがあり、自信をくしそうになります。自慢ではありませんが、これでも学園ではそこそこ優秀な方なのですが・・・


とりあえず、私ももう一度自分の荷物を確認し、不備がないことを確かめると「大丈夫です」と言って師匠に頷いた。


「それではお嬢様、私はまた()()()()に心配になってきましたが、お嬢様が無事に帰って来られますようお祈りしてお待ちしております」


「えぇ、私も不安になってきてしまったけど、カーヤがお祈りしてくれるのなら心強いわ」


気を張って今日という日に臨んだ割りに、あまりにも弛い雰囲気に肩透かしを食ったような感じがしていたのは私だけではなかったようです。


私とカーヤの話も終わり、邪魔になりそうな荷物を師匠に預けると、いよいよ出発することになりました。

「それじゃ『いってきま~す』」と師匠とティアちゃんが元気に挨拶をします。


「くれぐれもお嬢様をお願いしましたよ!」


カーヤは私達が見えなくなるまで心配そうに見送ってくれました。





「あぁ、どうしましょう師匠。

私、すごく緊張してきてしまいました・・・」


町を出てモンスターが出る森へと歩きながら私は不安を紛らわすために師匠に話し掛けました。


「大丈夫、大丈夫。練習の時と同じようにすればいいだけなんだから」


「そ、そうですよね・・・。師匠もいるんだし大丈夫ですよね」


今から私達が相手にしようとしているのは、この辺りでは最弱とされ、初等部の実践演習の対象としても選ばれているモンスター、“コボルト”です。


「そうそう。それに動きも遅いし防御力も低いからミリーの攻撃でも十分通用するよ。

・・・まぁ、だけどパニックだけにはなるなよ?

それで、もしオーラで守ってない所に噛みつかれたら、ちょっとヤバイかもしれないからな」


噛みつかれた場合でも適切な対処の仕方は練習していたので、それさえ間違わなければ酷いことにはならないのですが、それができない時のことを師匠は心配しているのでしょう。


「だからどんなことが起きたとしても常に冷静にな!

いいか?大事なことは“自分を助けられるのは自分だけ”だからな」


師匠はすごく実感の籠った目付きをしてそう言いました。


「期待はするな!現状のことだけで判断して動け!

もし助けが来ても、まずは疑え!例えそれが俺だとしてもだ」


「え、師匠でも疑う必要があるんですか!?」


「それくらいの心構えが必要だってことだな。

どんなに仲のいい人だとしても、何の備えもなしに信用するのはよくない。それはただの怠慢だからな」


「なるほど、肝に銘じておきます!」


いつになく真剣に話してくれる師匠に、私はこれが師匠の強さの秘訣なのではないかと感じ、深く心に刻みます。

師匠は「純情を何度弄ばれたと思ってる!あのネカマ共絶対許さん」とボソボソ言いながら爪を噛んで悔しそうにしているので、相当ひどい経験をされたのでしょう・・・


「あっ、でもやり過ぎるのもダメだからな。俺と同じ病気になっちゃうから・・・」


「えぇ!?師匠はご病気だったんですか!?」


ここにきての爆弾発言です!!

まったくそのようには見えなかったのですが、いったいどういう病気なのでしょうか!?


「うん、まぁ、ちょっとね・・・。けど安心して?感染うつらないから」


「そんなことを心配しているんじゃありません!

私にできることでしたら協力は惜しみませんので詳しく教えてください!!」


素っ頓狂なことを言う師匠に苛立ちを覚えて語気を荒げて詰め寄りましたが、


「いや・・・えっと、これは呪いみたいもので治らないし、A○フィールドも常に全開だからあんまり気にしないでね?

そ、それに、ほら!目的の場所にも到着したから!」


師匠は強引に話を終わらせてしまいます。

不治の病と聞いてさらに衝撃を受けてしまいましたが、確かに私達は目的の場所に到着しておりました。


そこは・・・私と師匠が初めて出会った、森の中のひらけた一角いっかくでした。


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