第71話 師匠 2 ~ミリーの特訓①~
「師匠、こんにちは!お待たせしてしまいましたか?」
今日も私はいつもの公園に学校が終わるとすぐにやって来ています。
綺麗に刈り整えられた芝の上でティアちゃんとのんびりしながら私を待っくれている師匠を見て、それまでの気持ちも放り捨てて元気に挨拶をします。
「・・・ミリーきた」
「お、来たか?」
ティアちゃんが私に気づいて手を振って迎えてくれ、師匠は欠伸混じりの伸びをしながら起き上がります。
「あれ、カーヤさんは?」
師匠はやや警戒しながら私の近くにカーヤがいないことを確認しています。
師匠はATフ○ールドという対人用マインドバリアを使用しているらしく、特にそれはカーヤに反応しているようなのです。
師匠は私には不要のスキルだと言って教えてくれませんでしたが、これもきっと難しい古代魔法のひとつなのでしょう。
「今日は寮には寄らずに直接来たのでカーヤはまだ来ていません」
「そ、そうなのか?まぁ別になんにもないんだけどな。ちょっと気になって聞いてみただけだし」
特に気にしていた訳でもないのですが、理由をボソボソと述べる師匠に私はとりあえず頷いておきます。
「と、ところでミリー、なんか頭にいっぱいゴミが付いてるぞ。どっから来たんだよ?」
そう言って師匠は私の頭を払おうとしてくれましたが、私はその手を避けて慌てて師匠から離れます。
「な、なんでもありません!ちょっと近道をしてきただけです!」
思わず大きな声が出てしまい師匠を驚かせてしまいましたが、自分で頭や肩を乱暴に叩いて汚れを落とします。
「ほら、もうこれで大丈夫です!
それにどうせ汚れるんですし、はやく修行を始めましょう!」
今度は私から師匠の手をグイグイ引いて広場まで下りて行きました。
*
さっそく特訓開始なのですが、どうやら今日から新しいことをするみたいです。
「魔力を纏ったまま動くのにもだいぶ慣れてきたみたいだし、これからやるのはその発展版だ。
今までやってたのは魔力でコーティングしただけの攻撃で、隙が小さく技の出は早いが威力の小さい攻撃だ。
それに対してこれからやるのは、威力も技の隙もバランス良く行える攻撃だ」
ふむふむと私は心のノートにしっかりと書き込んでいきます。
「あ、師匠。それじゃ更に発展させたものとかもあるんですか?」
師匠の説明から威力だけに長けた技もあるはずだと予想し質問します。
「もちろん、ある。
そしてミリーが考えている通り、それは必殺にも成り得るほど威力は高い・・・が、そのぶん技の隙が大きく、出も遅いから使うには十分注意しなければならない。
しかもバリエーションも多いから自分にあったものを時間を掛けて探していく必要があるんだよ」
私は必殺技と聞いて胸がときめきましたが、すぐには習得できないと言われがっかりします。
「そうなんですかぁ・・・。
それじゃ、例えばどんな技が使えるんですか?」
けれど湧き出す好奇心は抑えられず、いったいどんな必殺技があるのかと期待して尋ねます。
「例えばだな~・・・」
「例えば?」
「手が・・・」
「手が?」
「伸びる!!」
「えぇーー!?」
し、信じられません!手が伸びるだなんて!
立派な魔法戦士になるには人間を辞めなければならないのでしょうか!?
「これを・・・『ヨガ』と言う!」
「えぇーー!?」
あれ?今のは別に驚くところじゃなかったはずですが・・・つい雰囲気で大声を上げてしまいました。
「あの、あの、師匠!他には!?」
私は他の必殺技も早く教えて欲しくて「よし、この技はミサイル・パンチ『ヨガホーク』と名付けよう」などと言っている師匠を無視して催促します。
「他にはそうだな・・・パンチが当たった瞬間、相手を爆砕できる!」
「!?」
私は驚きを通り越して絶句してしまいました。
・・・なに、それ!?魔法より余裕で強いです!!
「あ、あのホントにそんなことが・・・?」
「え~っと、ヨガホークはともかく、これは試したことないから何とも・・・
あれ?でも、なんかできるんじゃね?できる気がしてきたわ〜」
師匠は「ちょ、ちょっと待ってね」と言って辺りを見渡し、拳大の手頃な石を見つけて屈みます。
それからそ〜っと人差し指を石に近づけ、ちょこんと軽くつつきます。
・・・が、特に何も起きません。
私は、少し離れた所から見ていたのですが、その哀愁漂う隙だらけの背中に切なさを感じ、励ますための一歩を踏み出したのですが、その時もう一度師匠が石をちょこんとつつきます。
すると今度は小さく甲高い音と共に破片が四方5−6m程に飛び散り、拳大の石が粉々になったのです!
「・・・!」驚きのあまり言葉が出ません。
師匠はといえば、ヒィィと悲鳴をあげ「なにこれ怖ッ!?」と言ってガタガタ震えています。
私は、顔を青くして怯える師匠を落ち着かせ、どういうことか説明してもらいます。
「つ、つまりだな。今からミリーがやる発展版の攻撃は、当たる瞬間に魔力を手に集中させることで威力をあげるわけなんだけど、さっきのやつも基本的には同じことで、まずたくさんの魔力を圧縮しながら手に集中させる。で、それを相手に当てて解放すると・・・」
「・・・爆砕、しますね」
「しちゃうんだよ・・・しちゃったんだよ・・・」
もはやそれ以上の言葉が見つかりません・・・
ひょっとすると魔法戦士というのは、忘れ去られるべくして忘れ去られた職だったのかもしれません。
なんだかもう、1人で王都に攻め入って陥落させ、国家転覆もできるんじゃないかとさえ思えてきます。
「ま、まぁ、簡単にできる技でもないし気にしないことにしよう、うん・・・。
それより修行だ修行!やり方はさっき言った通り、パンチが当たる瞬間に多めに魔力を込めるようにするだけだ」
「そ、そうですね。やってみましょう、やりましょう!」
さっき見た光景、すぐには処理しきれないものは無理矢理脇に押しやって、できることから始めます。
そうしてまず魔力を手に多く集める訓練から始まり、それを素早くできるように練習をしていきました。
それができるようになると、今度はティアちゃんと一緒に腕を交互に突き出すパンチの型の練習です。
「・・・たぁ~」「たぁ!」
「・・・たぁ~」「たぁ!」
・
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しばらくやっていると、ティアちゃんは飽きてしまったのか私の手に合わせて指の形を変えて遊び始めました。
“じゃんけん”という遊びだそうです。
パーを出して嬉しそうにニコリと笑うティアちゃんはとても可愛らしいのですが・・・
「おい、ティア。ミリーの邪魔しちゃダメだぞ。
っていうか何でチョキを出して負けてるんだよ?」
「・・・だって、ミリーがさっきパー出した」
「おい!」
・・・イタズラ心がくすぐられ、ついやってしまいましたw
*
私は時間がある時はずっと魔力の出し入れの練習をしていたおかげで、数日経った頃には師匠に褒めてもらえました。
「今のミリーなら、薄い板くらいなら割れるんじゃないか?」
そう言って師匠は私の成長を評価してくれます。
それがとても誇らしく、胸の奥にじんわりとした達成感が広がっていきます。
師匠が言うには、とりあえずこれで戦うための最低限の準備が整ったのです。
きっとこのまま鍛えていけば、いつか私の目指していた最強のファイターに・・・って違う!!
違う、違う!まだ全然魔法を使えてなかったです!?
危うく達成感に流されてファイターになるところでした!
私が邪念を追い出すために頭をブンブン振っていると
「なんだミリー、不満なのか?
まぁ、その気持ちは分からなくはない。やっぱり素手で地面にクレーターを作るくらいはやりたいよな~。アレはまさにロマンだからな!
だが、千里の道も一歩からという言葉があってーー」
師匠はまた変な勘違いをして、明後日の方向に話が進んでいきます。
・・・師匠のこういうところはきっと美点なんでしょう。
相手を思いやっているからこそ理解しようとしてくれているのですから。
ですが、何故かその着地点が予想の斜め上を行くため残念な感じになってしまうのが心苦しいです。
ミリーはそんなことを考えながらロマンについて熱く語るセイの話が終わるまで黙って頷いてあげるのだった。




