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第69話 レイナの旅立ち


朝日の光に照らされたアーリアの東門。

まだ太陽が出たばかりの時間のため人の姿はまばらなその場所に、2人の少女の姿があった。


「それじゃ、ユーリ。いってきます・・・!」


いかにも冒険者といった格好で邪魔にならない程度の大きさの荷物を担いだ少女が、地味目な普段着を身に着けたユーリという少女にお別れの挨拶をしていた。


「うん、いってらっしゃい!気を付けてね」


2人はどちらからともなく距離を詰めると、お互いをギュッと抱き締めた。

しばらくそうしていた2人だったが、冒険者風の少女は滲んでくる涙がこぼれる前に身体を離すと、無理矢理作った笑顔を浮かべて見せる。


「それじゃ、今度はホントにいってきます・・・!」


冒険者風の少女は小さく手を振ると、ユーリに背を向けて東の門を潜って町を出た。





冒険者風の少女が町を出てほんの数分後・・・


「・・・」


「・・・」


「ねぇ、ユーリ。どうして付いて来ているの・・・?」


振り返った少女は、最高の笑顔(“寝てる子も飛び起きて泣き出す”と密かに言われているのだが)でお別れした手前感じる恥ずかしさ半分と怪訝さ半分といった様子ですぐ後ろを付いて来ていたユーリに問いかけた。


「そりゃあ、レイナと一緒に行くために決まってんじゃん!」


飄々(ひょうひょう)と答えるユーリだったが、一方のレイナと呼ばれた少女は・・・真夜中に絶叫しながら血の涙を流す恐怖の肖像画のような妖気を放って険しい表情をしていた。


「まぁまぁ、そんなに混乱することないって!『旅は道連れ』って言うでしょ?」


しかしユーリは、その魑魅魍魎ちみもうりょうも怯えて逃げ出す気配を“混乱”の一言で片付けると、悪戯いたずらに成功した悪ガキのようにクククと笑う。


「そんなの初めて聞いたわ・・・。それに孤児院はどうしたのよ・・・?」


「え?ちゃんと言って出てきたよ。『心配な子がいるから面倒見てきます』って」


「それ私のこと言ってるの・・・!?

言っとくけど、私はCランクの冒険者なのよ・・・!」


そう言ってレイナはやや小ぶりな胸を反らせて見せるが、ユーリは「はい、はい」と適当に相づちを打ち、レイナを追い抜いてさっさと先へと進んで行った。


「・・・。

付いて来るんだったらあんなお別れする必要なかったじゃない・・・」


「なに言ってんのよ、親友が愛を求めて旅立つって時に盛り上げないなんて女がすたるってもんでしょ!」


「あ、あ、ああ、あああ、あ、あ、“愛”・・・!?

そ、そ、そそそそそんなんじゃないんだってばぁ~・・・」


「まったく、しょうがないわねー。

そんなだと、ぽっと出の宿屋の小娘にられちゃうわよ!」


「何で宿屋なのよ・・・。

そんなことより、荷物とかはどうするのよ?日帰り旅行じゃないのよ?

それに町の外は危ないし・・・」


「大丈夫、大丈夫。自分の身は自分で守るから!

それに必要な物はちゃんとこの中に入ってるしね」


そう言ってユーリは肩に掛けた小さな鞄を叩いた。

その鞄は入れた物の質量と体積を小さくできる不思議な鞄だ。


「え!なんでユーリもそれ持ってるの・・・!?」


「うふふ、持つべき者は持つべき物を持っているものよ」


ふぁさぁ~と髪をかき上げて自慢気に言いながら、今度はユーリが大きな胸を反らした。


持たざる者だったレイナは、その()()()のものを忌々(いまいま)し気に睨みつつも、ユーリが本当に同行してくれるのだと分かり嬉しそうに微笑んだ。


「ありがと、ユーリ・・・」


「な、何よ、いきなり!?」


「なんでもない。だけどユーリは私が守ってあげる・・・」


「大丈夫って言ってるでしょ!」


しかしレイナはユーリの言葉を無視し、「ユーリは私が守る!」と言って聞かない。


「はぁ、分かったわよ。

その代わり、私がレイナに恋のイロハを教えてあげるわ。

どうせ、そのセイって人と会ってもろくに話もできないでしょうから」


「そ、そんなことないよ・・・」と言いながらもレイナの目は泳いでおり、話を逸らせるための話題を懸命に探すのだったーー



そうしてレイナの旅は、1人ではなく2人になってかしましく始まったのでした。


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