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第66話 弟子 2


「師匠、師匠、どうして魔力が出ていくの?」


「それはね、『オーラ』というスキルだからだよ」


「師匠、師匠、どうして私は魔法が使えないの?」


「それはね、まだレベルが低いからだよ」


「師匠、師匠、師匠はどうして草を刈ってるの?」


「それはね、魔法の半分が優しさでできているからだよ」


「師匠・・・ちょっと何言ってるのか分からないです」


「・・・」


「・・・」


「だぁ〜!もぉ、うるさ〜い!!

これが俺の仕事なんだよ!?終わったらちゃんと見てやるからちょっと待ってろ」


「ぅ~」


俺が邪険な物言いをすると、少女は口を尖らせた。


「はぁ~。あとなぁ、その『師匠』って呼び方やめないか?

どう見ても『師匠』って柄じゃないだろ?」


「え~、じゃ何て呼べばいいんですか?」


「そうだなぁ・・・」


俺は真面目な顔で考える仕草をした後、今たまたまひらめいたかのように手を打って、さりげなく答えた。


「じゃ、じゃぁ『お兄ちゃん』って呼んでもいいよ?」


「・・・」


「・・・」


「やっぱり、師匠は『師匠』です!」


そう言ってニッコリ笑うのは昨日弟子になったばかりのミリーことカーマイン子爵の二女であるミリエル・カーマインお嬢様だ。


何故だー!?何故『お兄ちゃん』はダメなんだ!!

くっ、ちょっとわざとらしかったか?

でも、仕方ないじゃん!ずっとそう呼ばれることに憧れてたんだから・・・。

だって、一人っ子だもん!


俺は大きく溜め息を吐くと、この野望はまた次の誰かで果たすと胸に誓い、今は俺に纏わり付いて離れないミリーの相手をしてやる。


「わかった、わかった。

じゃ、ちょっと魔力を手に出してみろ」


俺の言葉に素直に従い、ミリーは手首から先を薄い魔力のベールで覆った。


「それで、いま手に纏わせている魔力を、ゆっくりでいいから身体全体を覆えるくらいになるよう練習していろ」


「はーい!」と返事してミリーはようやく俺から離れていった。


ミリーは学校が終わるとすぐに公園にやって来て、魔法のことから俺の私生活のことまで矢継ぎ早に質問してきた。

こっちは草毟りをしている上に、これまでの人生でされたものの合計よりも多い質疑応答で精神的にクタクタだ。

これがこの町にいる限り続くかもしれないと思うと気が遠くなってくる。

けれどその反面、同じ苦労をしている魔法戦士の後輩ができて嬉しくもあったので、なるようになるだろうと先の事を考えるのは放棄した。



今日の分の仕事を終えて戻ってくると、右手の肘下まで魔力を纏わせ額に汗を滲ませて練習しているミリーと、そのすぐそばで静かにはべっている、ミリーの侍女であるカーヤさんがいた。


カーヤさんは俺のことをまったく信用しておらず、俺が近づいていくと鋭い目付きで警戒していた。


あぁ、胃が痛い・・・

だけどここでほっぽり出して逃げでもしたら、不敬罪とかでしょっぴかれるんじゃないかという不安が拭えず、2人の元まで重い足を運び、俺はカーヤさんの目を気にしながら慎重に言葉を選んでミリーに声を掛けた。


「ミ、ミリエルお嬢様、お魔法のお訓練はいかがでしょうか?」


「あ、師匠!それがなかなかうまくいきません・・・。

今まで魔力を抑えることばかりしてたので、無意識に抵抗しちゃってるんだと思います」


ミリーは自分の手を見つめて小さく息を吐いた。


ミリーがしょんぼりするとチクリッと俺の胃袋に痛みが走ったのでカーヤさんを見てみると、怒ったように眉を寄せて俺を睨んでいた。


「だ、大丈夫でごじゃりますよ、お嬢様!

このわたくしいやしい身ではございますが、悪魔に魂を捧げてでも、お嬢様のお力になりたいと思っておりますので!」


そう言ってミリーを励ましながらチラッとカーヤさんを見てみると、うんうんと頷いていたので合格ラインは達していたのだろう・・・


そうしていると、俺の言動がおかしな事に気づいたミリーが俺の視線を追って後ろを振り向き、うんうんと頷いているカーヤさんと目が合った。


「カーヤ!貴方は余計なことはしないで!」


「で、ですがお嬢様!」


「カーヤ・・・私がどれだけ師匠に出会えたことに感謝しているか、昨日話したでしょう?

お願い、私の希望を消さないで?」


ミリーは悲痛な面持ちで哀願あいがんした。

それがミリエルを心配してのことだと知っていても譲れない想いだったから。


「お嬢様・・・か、かしこまりました」


カーヤさんが恭しく頭を下げると、ミリーは今度は俺の方に向き直る。


「カーヤが失礼な事してごめんなさい。だから師匠も変な言葉遣いはもう止めてください」


「わ、わかりました」


今のやり取りを見て、この場で誰が一番エライのかが分かってしまった俺はで敬語を使ってしまった。


「ししょう~!」


「わ、わかった…」


因みに順列は言うまでもなく、ミリー>カーヤ>俺である。

俺、師匠なのにな・・・。



まぁ、それはともかく、今日の仕事は終わったので約束通りミリーが魔法を使えるようになるべくレベリングと行きたいところなのだが・・・


「なぁ、ミリー。剣でも弓でも何でもいいんだが、モンスターを倒せるような武器とかって使えるか?」


しかし俺の質問に答えたのはミリーではなくカーヤさんだった。


「そんな野蛮な物はお嬢様は使いません!

そもそも魔導師は杖以外の装備は不要です!」


常識だと言わんばかりに鼻をフンスッと鳴らすカーヤさん。

後方で固定砲台としての役割だけをする魔導師はそれで十分とされているのだろう。

ゲーム感覚で考えている俺としてはものすごい暴論だと思ったが、確かに戦場でスナイパーが戦車の横にいても邪魔なだけだ。


「カーヤの言う通り私はそういった物は扱えません。

それに魔物も倒したことがないんです・・・」


学院では座学・実技の他、定期的に実践の授業も取り入れられており、安全を配慮されながらではあるが実際にモンスターと戦う経験を生徒達にさせている。

けれど、やはりミリーは魔法が使えないため見学しているだけの状態だった。


「そっかー。じゃ次の訓練は・・・」


そう言って俺は計画を立てながら考えていると、ミリーはまるでボールを投げて貰うのを待つ子犬のような様子で見つめてくる。


「よし!とりあえず、この公園の広場をランニングかな、10周」


「なっ!?お嬢様になんて事をさせる気ですか!」


カーヤさんは「それのどこが魔法の訓練だと言うのですか!」と顔を真っ赤にして怒り抗議してくるが、俺はそのへん結構シビアだ。

伊達だてにあの巨大樹の森を生き抜いたわけではないし、ソロでやってきた俺にとって即“死”を意味する油断や準備不足はあり得ない。


「あ、あの師匠?私、魔法が使えるようになりたいんですけど・・・」


ミリーも流石にこれは予想外だったのか、かなり困惑しているようだ。

だけど俺の言葉は変わらない。


「うん、知ってる」


「お嬢様!やはりこのような冒険者と関わるなど間違いだったのです!さぁ、もう帰りましょう!」


カーヤさんはミリーの腕を取りグイグイ引っ張って行こうとしている。

けれど少し引っ張られていった所でミリーが足を踏ん張って立ち止まる。


「・・・師匠、私は信じてもいいんでしょうか?」


ミリーは捨てられた子犬のような目をして問いかけてきた。


「信じるか信じないかはミリーの自由だ。

実際俺も本当に魔法が使えるようになるか分からないしね」


ミリーがこれで帰るのなら残念だけど仕方がない。

そもそも見ず知らずの奴を信じる方がおかしいんだ。

漫画やアニメの主人公じゃないんだから、軽率に人を信じたりしたら行き着く先はろくでもない事しか待ってないだろう。


「私は・・・私は!」


ミリーが決意を固め、口を開きかけたとき、俺はさらに一言付け足した。


(ちな)みにその次は腕立てと、腹筋背筋30回ずつな」


「・・・」


「お嬢様・・・」


少女は開きかけていた口を再び閉じた・・・



* * *



「そうですね・・・私が間違っていたようです」


次に口を開いた時、ミリーの雰囲気はガラリと変わっていた。

それまではどこか(すが)るような、よく言えば子供らしい態度だったのが、今は表情が抜け落ちたかのようなものになっている。


「その通りです、お嬢様!

また新しい魔導書を教授に探して貰えばいいのです」


ミリーの変化には気づかず、手を取ってさっさと帰ろうとするカーヤさんだったが、ミリーはそれ以上動かなかった。


「人なんて信じられません・・・そんなこと、私が一番知ってるはずなのに」


「お、お嬢様?」


「私が、これまで頑張ったのは・・・」


ミリーはカーヤさんの困惑を無視して言葉を続ける。


「嫌なことばっかりだけど、それでも諦めなかったのは・・・」


ミリーは強い意志の籠った目を俺に向けて、あるいは自分に向けて言い放つ。


「私自身を信じてきたからです!

それはこれからも変わりません!絶対に!!」


そう言うと、ちょっと生意気そうな顔になったミリーは芝生を駆け下り広場の周りを走り始めた。


しばらく呆気にとられていたカーヤさんだったが、スカートの端を両手で摘まむと「お嬢さま~」と叫んでミリーを追いかけて行った。



どうやらミリーは俺の修行を受け入れてくれたみたいだ。

だけど、いま走ってる様子を見る限りしばらくは身体作りがメインになりそうだった。


と言うのも、ミリーが魔法を習得するためにはレベルを上げないといけない訳だが、ゲームの時とは違い、パーティーを組んでいるだけでは、いくら仲間がモンスターを倒しても経験値が入らない。

これはティアが未だ低レベルな理由なのだが、実際に自分で戦わない限りレベルアップはできないからだ。


モンスターを倒したこともない小さな女の子を、いきなり戦わせるような楽観的な性格を俺はしていない。


(むし)ろ、めちゃくちゃ用心深い。

いつ世界が滅んでもちゃんと心構えができるよう、1日に3度くらいは自分から世界の爆発を願うくらい用心深い性格だ。


まぁ、そういうわけで、俺とミリーの修行の日々はこうして始まったのだった。


ストック全弾放出してしまいました…

更新は毎日じゃなくなるかもですorz

他の作者さんが1話3時間くらいの執筆ペースと書いている記事を見て驚愕していますww

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