第7話 桃太郎
「むか〜し、むかし。ある所に、お祖父さんとお婆さんが住んでいました。」
俺はティアに昔話をしてあげていた。
「…お祖父さんってなに?」
…いきなり躓いた。
俺はティアに合わせて話を進めていく。
「えっと…今のなし。
むか〜し、むかしある所に、オークとゴブリンが住んでいました。
オークは森に、ゴブリンは川に行きました。
すると、川から大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れて来ました。」
「…ももってなに?」
「今のもなし。
川から大きな卵がどんぶらこどんぶらこと流れて来ました。
ゴブリンは卵を家に持って帰りました。
すると卵から可愛い子供が生まれて来ました。」
「…ティア?」
「えっと…。ティアみたいな女の子かな〜。
女の子はオークとゴブリンに育てられ…」
「…ティア、ゴブリン嫌い。」
「そうだよね〜、俺も嫌いだな〜。
だ、だから、女の子は生まれるとすぐにオークとゴブリンを倒しました。」
…どうしよう、爺さん婆さん倒したら話が進まないじゃないか!?
「え〜っと、お、女の子は倒したオークとゴブリンを池に捨てました。
す、すると池から綺麗な女の人が出てきて女の子に尋ねます。
(あなたの落としたのは金のゴブリンですか?それとも銀のゴブリンですか?)」
「…金ってなに?」
「ちょっと間違えた。
金じゃなくて、え〜っと、なんか小綺麗なゴブリンですか?それとも小汚いゴブリンですか?
お、女の子は小汚いゴブリンですと答えると、
綺麗な女の人は、(正直な子は偉いですね)と言って、
女の子が捨てたゴブリンの死体と、小綺麗なゴブリンを出しました。」
…収拾がつかないよ!!
偉いですね♡とか言いながら嫌がらせしてるみたいじゃねーか!?
…ほら〜、ティアも嫌そうな顔してるし!
「お、女の子が小綺麗なゴブリンも倒すと、ゴブリンは7つの泥団子を落としました。
そして泥団子が光ると中からワイバーンが現れて女の子に話しかけました。」
「…ワイバーンしゃべるの?」
「え〜っと、喋らないよ?
ワ、ワイバーンの死体を担いだ俺が話しかけたんだよ?」
…どうしよう。
なんか死体ばっかり出てくるお話になっちゃった!
「そ、それでワイバーンの死体を担いだ俺が、女の子に
(正直で偉い子なので、お願いをなんでもひとつ聞いてあげましょう)と言いました。」
…なんだこれ?
この殺伐とした女の子は何が欲しいんだ?
どうしよう?
「え、え〜っと、ティアだったら何がいい?」
「…なんでも?」
「うん、なんでも」
「…ナデナデ」
俺はなんだかホッとした気持ちでティアの頭を撫でながら「おしまい」と言った。
…なんとか正直者はいい子みたいな感じでまとまったかな?まとまったよね?
◇◆◇◆◇
俺はバーゲストの時の失敗を教訓に慎重に森を進んだ。
そしてある日、俺が樹に登り周囲を確認すると、森の縁が見えた。
最近、魔物の数が少なくなり、弱いモンスターしか現れなかったので、もしかしたらとは思っていた。
ようやくこの森から抜けられそうだ。
樹から下り休憩しているティアを見る。
俺はともかく、ティアは生まれて森しか知らない。
このまま森を出ても大丈夫かな?と思う。
まぁ…大丈夫かな。
俺だってこの世界のことをよくわかっていないんだし、似たり寄ったりだろうと思い直す。
ホントによくわからないのだ。
俺はこの世界に来た時、「ブレイド×ファンタジア」の世界に入り込んだと思っていた。
目にするモンスターもモンスターが使う魔法やスキルもゲームと同じだったからだ。
でも森を彷徨っているうちに、ゲームにはなかったものがいくつもあることに気付いていった。
まず最初にこの森。
こんな森知らない。
そして森に住むモンスターの分布もおかしい。
俺はこんなにも広大で、強い魔物から弱い魔物まで同じエリアに混在するステージを知らない。
次に魔法やスキルの柔軟性。
いい例は、ライトの魔法。ゲームの時は単なる低級の光属性の攻撃魔法だった。しかしこの世界では足元を照らすなど、使用方法によって幅広く応用できた。
バーゲストの使ったハウルなどのように未知の効果のあるものも存在する。
そして魔物だ。
ほとんどは知っていたけど、何種類か知らないモンスターがいた。
それとモンスターに個体差があること。
同じゴブリンでも他に比べて大きかったり、攻撃的だったり、足が速かったり、ゴツイ顔だったり様々だ。
俺は「ブレイド×ファンタジア」をかなりやり込んでいた。
はっきり言ってオタクだった。
俺はこのゲームについて知らないことはほとんどないと言いきれる。
なのにこんなにも分からないことがある。
この世界はホントに何なんだろう?
考えないといけないことがたくさんだ。
この世界のこと。
俺のこと。
ティアのこと。
魔物のこと。
他にもいろいろあるけれど、とりあえず最初はこれからティアに話す 「金太郎」のことにしようかな…