表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/84

第65話 弟子 1


「それって、もしかしてこんなのか?」


そう言って、俺は突き出した腕に無属性の魔力を纏わせた。


「にょわぁ~~~!?!?!」


その途端、それを見た少女はにじんでいた涙と一緒に目もこぼれてくるんじゃないかと思うほど大きく見開き、言葉にならない声を上げた。


「にゃに!?にゃにが!?にゃんスコ~~~!!!」


いきなり奇声を上げて叫び出すなんて変な子だなぁ~。


おかしな声を上げた後は手をわきわきさせて、ホントに舐めるんじゃないかと思うほど食い入るように俺の腕を見てくる少女・・・正直ちょっとキモチ悪い。


「ちょ、ちょっと離れてくれるか?なんか鳥肌立ってきたから・・・」


「あぅぅ~」


俺が無理矢理押し退けると、残念そうにしながらも詰め寄って来るのを止めてくれた。

それで少し冷静になったようで、ようやくわかる言葉で話してくれるようになった。


「あ、あの!!それのこと知ってるんですか!?」


「え、ただの魔力だけど?」


「い、いえ違うんです!いや、そうなんですけど違うんです!!」


なんかまたよく分からないことを言い出した少女は、今度は頭を抱えてうぅ~、うぅ~と唸り出す・・・本当に変な子だなぁ。


「あの!私、それのせいで魔法が使えなくて!

だからそれについて何か知ってたら教えて欲しいんです!お願いします!!」


ちょっとした混乱から立ち直った少女は、ピシッと姿勢を正すと勢いよく頭を下げてきた。


「あぁ、やっぱりそういうことだったんだな。

まぁ結論から言っちゃうと、魔法使えるよ?」


「ほ、本当ですか!?」


「う、うん。すぐにって訳にはいかないけどね・・・」


物凄く目をキラキラさせて期待している少女にビビってしまい、念を押すようなことを言っておく。


「それでもっ!ほんとに、ほんとに、ほんとに、ほんと~に魔法使えるんですか!?」


「え、あぁ。一応・・・おそらく・・・たぶん、使えると思う気がするよ・・・」


そう言って俺は小さな水の球(ウォーターボール)の魔法を使って見せた。

念を押されると途端に自信がなくなってきたので、『君はどうか分からないけど、俺はできる』というセコイ保険を掛けたわけでは断じてない・・・。


「あのっ!どうか私に教えてください!

私、お姉ちゃんみたいな魔法使いになりたいんです!」


「教えるのは別にいいんだけど、魔法使いにはなれないよ?」


「え?・・・魔法が使えるのに魔法使いになれないんですか?」


「うん。俺や、たぶん君もだけど・・・なれるジョブは魔法戦士だ!」



少女が魔法を使えない理由、それは彼女が魔法戦士だからだ。


魔法戦士は名前とは裏腹に初期の頃は魔法が使えない。

ゲームでは、魔法戦士が最初に覚えるのは『オーラ』というスキルで、<MPを消費して攻撃力と防御力を上昇させる>という技だ。

さっき俺がやって見せたように魔力を身体に纏わせたのがそれだった。

それ以上のスキルや魔法を覚えるには、モンスターを倒してレベルアップする他に方法はない。


つまり、魔法戦士はただの魔力を宿したパンチやキックでの殴り合いから始まるジョブなのだ!



「魔法、戦士・・・ですか?そんなの聞いたこともありませんが・・・」


少女は怪訝そうに眉を寄せて聞き返す。

その表情といったら、俺の弁当にイナゴが入ってるのを見たクラスメイトのものとそっくりだ!


魔法戦士をバッタ扱いされては沽券に関わる。

少しでも魔法戦士のイメージをよくするために、俺は敢えて尊大な態度をとりながら説明してやる。


もありなん!これは今は忘れ去られしものだからな!」


言うや否や、俺は剣を引き抜きそれに炎を纏わせ、かのフランスの大英勇・ナポレオンのようなポーズをして見せた。


「す、すごい・・・そんな魔法見たことありません!」


ふっふっふっ

少女は狙い通りに驚いてくれている。

その表情といったら、ナポレオンがタイツを穿いているのを目にした小学生のものとそっくりだ!


「まぁ、こんな感じで魔力を変化させて闘うのが魔法戦士だ!」


俺は満足して演出のためだけに取り出した剣を再びしまう。


「あ、あの!私、魔法が使えるようになるんだったら何だってやります!

だから!だから、私を弟子にして下さい!!」


また変なこと言い出したーー!!

ちょっと説明したらおうちに帰る流れに持ち込みたかったのに、弟子入りの話を持ち込んで来よったぞ!?


「待て、待て!ちょっと冷静になろう、な?

いいか?落ち着いて、ふんわり考えてみるんだ。なんかダメじゃないか?ダメそうに思えて来ないか?」


「そんな事はありません!私は真剣なんです!」


「えぇ〜…、あ、あのな。そういうことは勝手に決めたらダメだろ?親御さんとよく相談しないといけないだろうし。

それに親御さんが俺に会いたいとか言ってきたら全力で逃げるからな!?俺の持てる全てを使って逃げるからな!?」


「大丈夫です!私の親は王都にいますし、私が何をしようとうるさく言う人はいませんから!」


「で、でもほら、俺は冒険者で、用が済んだらこの町からいなくなるから無理じゃないかな?」


「お願いします!この町にいる間だけでもいいので、お願いします!!」


少女は地に膝をつき、土下座にも似た格好で必死に懇願してくる。


その様子に俺があたふたしていると、今度は別の声が飛び込んできた!


「お嬢様!何をなさっておられるのですか!?」


すごい剣幕でやって来た若い女性は、少女を抱き起こすと鋭い目付きで俺を睨んで距離をとる。


「貴方!お嬢様に何をしたのです!?場合によっては命はありませんよ!」


ひぃぃ!何なのこれ!?俺はただ迷子を保護しただけなのに!

俺が理不尽さに打ちひしがれていると、救いの手はその原因である少女によって差しのべられた。


「やめて、カーヤ!この方は私の魔法の師匠なんです!」


師匠になった覚えはないのだが、とりあえずカーヤと呼ばれた女性の追求が止まったことにホッと胸を撫で下ろす。

その間に少女と女性が話し込んでおり、俺のことを説明している様なそぶりを見せているので、俺は口を挟まずにじっとしていた。

実は、女性に睨まれた効果が未だ俺の精神をさいなみ、身動きが取れなかったと白状しても笑うコミュ症はいないだろう。


俺が3桁の円周率を永遠にそらんじ、心の平穏を取り戻していると、険のある声が俺の平穏をまたもやぶち壊した。


「貴方、お名前は?」


「は、はい!セイと申します!」


「それではセイさん、お嬢様の指導は許可致しますが、もしもの事があれば許しませんからね!」


「はい!誠心誠意、まごころを込めてやらせて頂きます!」


「よろしい!お嬢様、よかったですね」


「え?あ、うん」


いるじゃん!“煩くいう人”超いるじゃん!?

そんな泣き言を心のなかで叫びながら、俺は少女の師匠となったのだ・・・。



なんだかよくわからないが、とりあえずこれだけは教えて欲しい・・・『にゃんスコ』って何ですか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ