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第60話 貴族の依頼


「ティアはスゴいよな~」


俺は今、図書館に向かう途中にある公園の草むらに体操座りをして草をブチブチ引き抜きながら弱音を吐いていた。


「保育園に行ったらいきなりリア充してるもんな~」


隣でニコニコしながら同じように体操座りしているティアの頭を撫でる。


「普通、異世界に来たら何もかもうまくやれて、ハーレル作って無双できると思うだろ?」


俺は自分で自分の言葉を鼻で嗤った。


「それがどうだ?俺を見てみろよ?これがリアルだ・・・

ハーレムを作るどころかコミュ症すら治らないんだぜ」


自分で言ったんだけど、口に出すと思いの外ダメージを負ってしまった。


「おまけにマイさんにあんな顔をさせてしまうような最低野郎だ」


ハァ・・・


一応あの後、なんとか取り繕ってマイさんの料理の練習に協力するっていうことで落ち着いたけど、絹豆腐並みのやわらかメンタルな俺の気持ちは全然落ち着かない。


この落ち着かなさは、神経質そうな隣の女子に消しゴム貸してってお願いしたら、新品の消しゴムを渡された時と同じくらい落ち着かないものだ。まだ千切った食パンを投げ渡された方が全然マシだ。


「まぁ、できるだけ頑張って練習に付き合うしかないかな〜」


うんうんと頷いているティアに励まされ、俺たちは図書館へと向かうのだった。



◇◆◇◆◇



「じゃ、夕方前には迎えに来るからな。皆と仲良くするんだぞ?」


「・・・うん。・・・ばいばい」


俺は保育園にティアを預けると仕事場へと向かった。

これまでは午前中に3件、多いときで5件のお宅に訪問して仕事をしていたのだが、今日から1週間程は午後からやることになっていた。


と言うのも、先日、町内会長さんに話があるから来て欲しいと言われ伺ってみると、上質で高価そうな服を着た男性を紹介された。

その人は、さるお貴族様の執事らしく、俺の噂を耳にし、その貴族が管理しているという大きな公園での仕事を依頼しに来ていたのだ。


最初は、公園みたいな広い所だと切った草の処理が大変だからと断ったのだが、それなら処理をする人手はこちらで用意するし、草を刈るだけでいいからと言われたので、俺は好きなようにさせてくれるよう幾つか条件を出してから引き受けた。

作業を始める時間だけは向こうの都合もあり午後からになった訳だ。



「じゃ、今日からよろしくお願いします。夕方には帰りたいと思うんで~」


「あぁ、聞いてるよ。俺らも適当にやっから、そっちも好きにやってくれ」


俺は作業してくれる人達に挨拶をすると、いつものように剣を2本取り出し仕事にかかった。


「ほぉ~!気持ちイイくらい簡単に切ってるな!」


「しっかし、あんな魔法見たことないぜ。どうなってんだ?」


魔法戦士は『ブレイド×ファンタジア』でも確かにマイナーだったが、この世界では魔法戦士というジョブ自体が知られていないようなので、物珍しそうにこちらを見ていた。


あれかな?マイナー過ぎて自然消滅しちゃったとかかも・・・悲しすぎる orz


「なぁ、なぁ!兄ちゃん!

それ、どうやってんだ?よかったら教えてくれないか?」


なんと!?いつでも、どこでも塩対応されている魔法戦士に、今ちょっとスポットライトが当てられている!!

ここは我が愛すべき魔法戦士をアピールしたい所!・・・ではあるが

残念ながら、自分すらプロデュースできない俺には魔法戦士を武道館に連れてってやることができなかった。許せ・・・


「どうと言われましても、魔力を剣に流して属性を付与してるだけですよ?」


その上で魔力の量や向きを微調整しているのだけど、まぁ簡単に言うとそういうことだ。


「いやいや、魔力を剣に流すってどういうことだよ!?

そんなことできるなんて聞いたことないぞ!」


「そう言われましても、それ以上は説明のしようがないんです」


「ん~、まぁ帰ったら団長に聞いてみっか。手を止めさせて悪かったな」


そう言って男達は戻って行ったので、俺も作業を再開させた。



その公園は、つい先日、俺の悩みをティアに聞いてもらった例の公園だった。

散歩道が一段低い所にあるサッカーができるくらいの広さの広場を囲むように作られ、隣接されている景観のいい花畑や小さな池がある植物園のような所へと続いている。

ちなみに俺達が体操座りしていたのは、この散歩道と広場の間にある緩やかな傾斜の所だ。

今回、俺が依頼されたのは、植物園の中以外の場所ということで、なかなかの大仕事だった。



しばらく無言で腕を動かし続け、そろそろ終わろうかと滲み出ている汗を拭って立ち止まる。


「ふぅ、今日はここまで!」


そして今日やった仕事を確認するために後ろを振り返ると・・・なんだか全然進んでないように見えて、ドッと疲れてしまった。

そんなことはないと分かってはいても、公園の広さと比較すると実際より少なく感じてしまうのだ。


「う~ん、ちょっと全体的に歩いて確認しておくかな」


ティアを迎えに行くのが遅くなってしまうが、公園内を一通り下見しておくことにした。

公園の内側は当然なのだが、外周もしなくてはならないので、散歩道から外れ、道がないような場所にも下りて確認していった。


家以外のトイレで用を足したら、必ずトイレットペーパーを三角に折る程几帳面な俺は、こういうことは徹底的にやらないと気が済まないたちなのだ。


そしてかなりの距離を歩いたおかげで、やるべき場所をきちんと把握するができた頃には、直に太陽がオレンジ色に変わるだろうかという時間になっていた。


「ホントにだいぶ遅くなっちゃった。はやく帰ろ」


俺は道には戻らず剣を構えると、ザックザックと藪の中へと突っ込みショートカットで一直線に進んで行った。

そして鬱陶しい藪を抜けると、そこは人気が全然なく、外からの音も木々に遮られた、とても静かな小さい憩いの場だった。

その憩いの場には、木をくり抜いて作られたような1つのベンチが設置されていたのだが、今そこにはクリーム色のふわふわした髪の女の子が体を丸めて座っていた。


物音に気づいて振り向いたその子は、この町に来たときに出会った老人と一緒にいた女の子だった。

意思が強そうで、ちょっと生意気そうな女の子。


その女の子が、目に涙を浮かべて泣いていた・・・


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