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第56話 ラーズナルでの仕事 2


ア~アアア~アアア~アアア~ア~ア~アアア~ア~♪


厳かな唄声(鼻唄)とともに、ゆっくりと両手で2本の剣を引き抜くと、それに魔力を流していく。


そして眼前の敵を狩人イェーガーのような眼で睨み付け殺意を放つ!


「・・・駆逐してやる!!」


敵に向かって走りだし、雄叫び(小声)を上げた。


「うおおおおお!一本残らず・・・駆逐してやる!!!!!」(小声)


そして実に平面的かつ丁寧な動きで敵のうなじに刃を入れる!


「うおおおおおおお!!!!!!」(小声)





「ありがとうございました~!」


あっという間に雑草を刈り終え、お駄賃を貰った俺はお礼を言って家から出ていく。

ティアは宿でお留守番させているため今は俺1人だ。

今頃は、部屋から出て、マイさん達がいるレストランで絵本を読んでいるだろう。

さて、次のお宅はどこだったかな~とスケジュール張を開いていると


「あら、言い忘れていたわ。ちょっと、ちょっとセイさん!」


そう言って奥さんが俺を追いかけて家から出てきた。


「よかった、間に合って!

あのね、次のクリーパーさんの家なんだけど、都合が悪くなったから中止にさせて下さいって言っていたのよ」


なるほど、なるほど。クリーパーさんはまた今度と・・・俺はスケジュール張に書き込んだ。

いまや、ギルドを通さずに自治会の皆さんの管理のもと行われている俺の仕事にはドタキャンなんてよくあることだ。

子供が熱を出したとか、お友だちが来るとか、卵が安いとかで奥さん達にも都合があるのだ。

まぁ、とにかく今日の分は次で最後だったから、今日はこれで終わりだ。


「それでね、セイさんの事をお友だちに話したら、来て欲しいっていう人がいるんだけど、ちょっと話を聞いてくれないかしら?すぐそこだから」


こういうのもよくあることだ。

というかこういうのが積み重なって大忙しなのだ。


どうやら俺の仕事は、ニッチなニーズにかっちりと嵌まったみたいで評判が良いらしい。

なんでも、俺と同じように魔法を使ってやろうとしても、普通の風魔法では巻き起こした風でゴミが舞い上がるわ、塀が傷つくわで実用的ではなく、また専用の魔道具は高価なうえに騒音が気になって使い辛いといった理由があったらしい。

そうなると結局は手作業になるのだが、面倒なので後回しになっているご家庭が多くなるのだ。


そんなことを聞いていると、もう会社ひとつ作れるんじゃないかと思ってしまう。

実際、頭の中では既に俺の会社のキャッチフレーズもできている。


ーー届け!俺の優しさ!!ーー


“魔法の真理”に至った俺ならではの良い出来だと自負している!


まぁ、そういう感じで、俺の優しさを待つ新しいお客のさんの所へ奥さんにいざなわれて行くと、そこは誰かのお宅といわけではなく、建物の中から子供の騒ぎ声や泣き声などが漏れてくる施設、つまり保育園だった。


開かれた門を通って建物の中に入ると受付のようなカウンターがあり、そこでエプロンを着けて立っている女性に奥さんが話しかけると、女性は奥から優しそうなご婦人を連れて戻ってきた。

そして奥さんは俺を紹介すると、「あとは宜しく~」と言って帰っていった。


「あなたが“草剣そうけんのエ草刈(クサカ)リバー”さんなんですね。(クスッw

はじめまして、私はここの園長のルイーゼと言います。今日はわざわざありがとうございます」


「え、あ、はい?えっと・・・セイです。宜しくお願いします」


ちょっと待って・・・今、なんか笑わなかった?笑ったよね!?

っていうか“草剣そうけんのエ草刈(クサカ)リバー”って何なんですか!?

誰だよこんな二つ名付けた奴は!?完全にダジャレじゃねぇか!?

クソッ!二つ名なんか付けられたせいで、会社のロゴをどうしようかという事で頭が一杯になりそうだ!

・・・やっぱ2本の剣を交差させるのは外せないよな。


「それじゃ早速で悪いんだけど、いつ頃来てくれるか聞いていいかしら?」


奥の部屋に案内されてソファーに座ると、俺とルイーゼさんは仕事の打ち合わせを始めた。


「え~っと、そうですね~」


俺はスケジュール張を見ながら考える。


「ここは敷地が広いですから、なるべく空いてる日になるので・・・

ちょっと早いんですけど、明後日とかはどうですか?」


「あら、早いのならそれに越したことないわ。その日にお願いできる?」


俺は料金やだいたいの時間などを説明してスケジュール張に予定を書き込む。


「でも、本当にその料金でいいの?敷地も広いし大変よ?」


「え、あ、はい。大丈夫です。

というか、自治会さんが料金は一律でって決めっちゃってるんで」


「そう?それは助かるわ。じゃ明後日お願いしますね」


「はい、こちらこそお願いします!」


スムーズに話が終わり、それじゃと腰を上げたところでちょっと気になったことを尋ねてみた。


「あの・・・ところでこの保育園ってーーーー」




「ただいまー」


お昼には少し早いくらいの時間に宿に戻った俺は、部屋へ行く前にレストランを覗いてみると、予想通り絵本を読んで待っているティアを見つけた。

しかし予想外だったのは、一番いい場所に置かれた大きめのテーブルに堂々と座って独占していたことだ・・・。

しかも驚くことに、テーブルの上にはお茶やお菓子が豊富に完備されているのだ。


こいつはどこの貴族だ!?


きっとマイさんやお客さん達が甘やかしているんだろう…

やや呆れながら中に入っていくと、俺に気づいたティアがパタンと絵本を閉じて椅子から飛び降りると、走って俺の脚に抱きついた。

俺はティアの頭を軽く撫でると、コアラみたいな状態でテーブルまで移動し、ティアを引き剥がして椅子に座った。


そこにマイさんが水の入ったコップを持ってきてくれたので、そのまま昼食を食べることにする。


「ありがとうございます。それと今日も『お勧めのランチ』お願いします」


「はーい!・・・って言ってもいつもと同じだけど、それでいい?」


「はい。俺はもう食べ物で冒険しないって誓ってるので!」


「それはそれでもったいないと思うけどなー。

美味しいのもいっぱいあるのに・・・」


何故か不満そうなマイさんは腕を組んで少し考えると、何かいい事思い付いた!みたいな顔をした。


「それじゃ、私が作ってあげようか?お値段も材料費だけでいいし、気になった物とか持って来てくれれば料理してあげられるよ?どう?どう?」


マイさんはやる気満々だ。

俺としても悪くないのでその提案に乗ることにした。


「じゃ明日からお願いします。っていうか、マイさん料理できるんですね~」


「一応このお店を継ぎたいから、料理も練習してるんだぁ!」


そう言って細い腕を曲げて力こぶを作って見せると、厨房の方へと戻って行った。


マイさんが奥へと行ってしまうと、俺はティアに伝える事を思い出す。


「そうそう、ティア。明後日、保育園に行くからな?」


ティアはコテンと首を傾げた。


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