第55話 ラーズナルでの仕事 1
今日は図書館に行く前に冒険者ギルドに寄ることにした。
ちょっと調べものが多くなりそうなので、いくらか収入を得なければならないし、その地域ならではの面白そうなクエストなどがあれば受けてもみたい。
そうして今や恒例となった、社長よりも遅い出勤で俺達はギルドの建物へ入って行った。
建物に入ると、カウンターの向こう側では魔法の道具らしき物がビュンビュンと行き交っており、流石は魔法都市のギルドだと思わされたものだが、よくよく見ると、カウンターよりこちら側、つまり冒険者が利用するスペースにはむしろ魔法の道具がとても少ない。泊まっている宿よりも少ないほどだ。
それは都市の外から来た人への配慮なのか、はたまた粗暴な冒険者に高価な道具を壊されるのを嫌った結果だったのか・・・
とにかくアーリアの冒険者ギルドと何も変わらない仕様は俺にとってはやり易かった。
クエスト受注のピークはとっくに終わっていたため、人がほとんどいないクエストボードに近づきどんな依頼があるか確認してみると。
俺のランクであるD以下の依頼はアーリアの時とあまり変わり映えがしなかった。
相変わらずのゴブリンやラットなどの低級の魔物の討伐依頼に、町のお手伝いのような仕事がほとんどだった。
順番に他のランクの依頼も見てみたが、討伐する魔物が違うだけでそれほど面白そうなのは見つからなかった。
アーリアで見られなかったものとしては、魔法・剣術の指南や開発途中の薬の効果の治験者募集といった、いかにも学術の都らしいものだった。
中には魔法の的になって欲しいなどという無茶苦茶な要求をする依頼もあった。
そして最後に、一応、念のためにパーティ募集板も見てみると、アーリアとは逆で募集が前衛に片寄っているのが面白かった。
前衛だったら俺もいけるかなと一瞬だけ思ってしまったが、募集の条件がかなり細かく、俺が求めている『和気藹々としたアットホームで全滅しても怒らないようなパーティー』は見つけられなかった・・・
そうして一通り見終わると、俺は町のお手伝い系クエストの依頼書を破らないように剥がして受付へと持っていった。
図書館にも行かないといけないので、こういう2,3時間くらいで稼げるクエストが丁度いいのだ。
受付でクエストを受注すると、約束の時間がもうすぐだからといって急かされた。
俺に落ち度はないけれど、時間は秒単位で守る日本人の性なのか、場所の地図を貰うと急いで向かった。
俺が時間通りに指定された集会所に着くと、依頼主のおじさんも丁度着いたところだった。
「おぉ!感心、感心。最近の若いモンは時間を守らんからなぁ。今日はよろしく頼むな!」
「はい。こちらこそお願いします」
おじさんは「ちっこいのもよろしくな!」とティアにも言ってワハハと笑った。
俺達は今から、この集会所で行われる町内会の会議のためのセッティングとういうお手伝いをすることになっている。
机や椅子を並べるだけの簡単な仕事で、すぐに終わってしまう仕事ではあるが、時間換算すると割りとおいしいクエストだった。
「じゃ、さっそく始めていくぞ!
裏の倉庫にある机と椅子を部屋に入れて、この紙に描いてる通りに並べてってくれ」
おじさんは簡単に説明すると、建物の裏に回り込むため、伸び放題の草の中へと突っ込んで行った。
「あ、あの!これ踏んずけてもいいんですか!?」
「ああ!全部雑草だから気にせず付いて来い!」
俺はティアに集会所の中で待っているように言うと、おじさんを追いかけて草の中へと突っ込んだ。
胸の高さまで伸びた雑草の森を進んで倉庫の前まで来てみると、おじさんが何やら「ぬおぉー!」と叫んで頭を掻いていた。
どうしたのかと思っていたら、どうやら倉庫の鍵を忘れたらしい。
「すまんっ!10分くらいで戻ってくるから待っててくれ」
そう言うと小走りで走って行った。
「・・・」
取り残された俺は両腕をさすった。
「・・・」
なんか、こう・・・手入れされてない庭を見ると、何故か体が痒くなったり、蜘蛛の糸が顔に張り付いた感覚に襲われるのは俺だけだろうか?
「全部雑草って言ってたし、別にいいよね?」
どうしても我慢できなくなった俺は、アイテムボックスから剣を引き抜いた・・・
建物の周りが一通り綺麗になったところでおじさんが戻ってきた。
「おお!なんだこれ!?お前がやったのか!?」
「はい・・・。作業の邪魔だと思ったので」
おじさんは1ヶ所に集められた雑草の山を見て驚いていた。
「そうか、そうか、よくやった!」
ガハハと笑い、火球を雑草の山に投げ込み一瞬で灰へと変えた。
「そんじゃ、とっととやっちまうか!」
邪魔な物がなくなったためスムーズに机や椅子を部屋の中に運び入れることができ、テキパキとセッティングをしていった。
因みにティアは椅子を綺麗に整える係りだ。
俺達が粗方の準備を終えた頃、最初に年配の男性がやって来た。
「おやおや、ずいぶん綺麗になっているね」
「あぁ!俺が呼んだ、こっちのあんちゃんがやったんだ」
年配の男は建物の周りを見て感想を述べると、糸目をさらに細くして苦笑した。
「ほぉ~、これは今日の議題のひとつだったんだが、助かったな」
「そうだろう、そうだろう!」とおじさんは自分のことのようにワハハと笑った。
おじさんが手伝いをギルドに依頼してから鍵を忘れて戻ってくるまでの顛末を話しているうちに町内会のメンバーの人たちが集まってきていた。
「お前は昔からそそっかしいな。もっとしっかりせんか!」
おじさんが子供のように叱られているが、堪えたふうもなくワハハと笑っている。
「まったく・・・。
それよりも君、もし良かったらウチの庭もやってくれないか?当然報酬も支払うよ」
「ほお、それりゃいいな!俺のところも頼めないか?」
「あら、何の話をしてますの?」
何人かが興味を持ってこちらに集まって来て話がどんどん大きくなっていく・・・
「待て、待て。そろそろ会議の時間だ。
折角だからみんなにも聞いてもらったらどうかな」
ということで、何故かその日の会議で、俺が訪問する順番と値段などの調整が新たな議題として上がり、明日から3件ずつ草刈りの仕事をすることが決まったのだった・・・。




