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第52話 老人と少女


俺たちは街道を歩きつつ、ちょくちょくと脇道に逸れているうちに道を見失ってしまったため、生い茂る草を切り分けながら道なき道を只ひたすら東に向かって進んでいた。


サクッ、サクッ、サクッと草や枝が落ちる軽い音がしたかと思うと、そこには道ができていた。

俺は手に持った剣に風の魔法を纏わせて鋭さを増し、いい感じの風を巻き起こすことで快適な行進を可能にしていた。

それは地球の草刈り機のように騒音をたてることもなく、小石などを弾いて怪我をさせる心配もない、環境にも人にも配慮された実に素晴らしい代物だ。


もし元の世界に何かひとつ持って帰れるとしたならば、間違いなく候補のひとつに入るものだろう。

そんなことを考えていたら、突如甘美なるひらめきが俺を襲った!

気がついてしまったのだ・・・俺がいま、世界の深淵を覗き込でいるということに!


「ティア・・・、俺はいま真理の一端に触れてしまった」


「・・・なんと!?」


ティアは目と口を大きく開けて驚愕している。

この子も小さいながら、その危険性を理解しているのだ。

お互いがゴクリッと喉を鳴らすのを感じながら、俺はおもむろに世界の秘密を打ち明けた。


「魔法の半分は優しさでできていたんだよ!」


その瞬間、遠くで数羽の鳥が飛び立ち、森が、世界がざわめいた・・・ような気がしていると、ティアが耳をピクピク動かし鳥が飛んだ方に意識を向けた。


「どうかしたか?」


ティアが何かに反応してるので尋ねてみると


「・・・人、いる」


「本当か!?よし行くぞ!」


そう言うと、剣の出力を引き上げズバババッと勢いよく草を根本から薙ぎ払い、俺たちは駆け出した。



しばらく進むと、草木がまばらで開けた場所に2人の人間とそれを取り囲んでいる5、6匹の魔物の姿が目に入る。

魔物に囲まれているのは、ティアより少し大きな女の子とその子を庇うように立って杖を構える初老の男性。

それを見て俺は敢えて大きな声を上げながら魔物の集団へと飛び込んだ。


突如大声を上げて飛び出してきた俺に驚いているうちの1匹をまず切り捨てる。

そして驚きから立ち直れず判断の遅れているもう1匹も返す剣で斬り裂いた。

そのまま走り抜けて、俺は2人と魔物の間に入り込み振り返らずに声をかける。


「大丈夫ですか?加勢します!」


「う、うむ・・・」


どこか躊躇うように初老の男性は返事を返してきたが、俺は気にせず目の前の魔物、コボルトに剣先を向けて威嚇する。


コボルト。この魔物はゴブリンと犬が混ざったような姿をしており、犬頭をした子供のような外見をしている。

頭と胴体は逆の方が絶対強いだろうに“どうしてそうなった!?”という突っ込み所と進化の謎を詰め込んだそのモンスターは、動きも遅いし、怖い顔の割に噛まれても普通に痛い程度で、はっきり言って超弱い。

『ブレイド×ファンタジア』では序盤中の序盤のモンスターで、この世界でもEランク冒険者の討伐対象だ。


仲間が一瞬で殺されたことでコボルト達は警戒しているようだが、逃げる様子はなさそうだ。

キャンキャンと唾を飛ばしながら吠えるコボルト達を牽制しつつ、俺は足元に転がっている手頃な石を拾い、土の属性を付与エンチャントして硬度を高める。


そしてなんとなく一番偉そうなコボルトに向けてぶん投げた。

吠えることに夢中になっていた偉そうなコボルトの頭に石が当たると、コボルトはキャイ~ンと弱々しく鳴いてバタリと倒れた。

残ったコボルトはさっきまでの威勢がなくなり、鳴くのをやめて後ずさる。

そして1匹が逃走を始めるとそれに続いて残りの者も逃げ出した。


それを見送って剣を納めると、俺は2人に話かける。


「あの・・・怪我とかしていませんか?」


俺が尋ねると、灰色の長い髪と髭を生やした如何いかにも“魔法使い”といった感じの、人の良さそうな初老の男が前に出た。


「ほっほっほ、こちらは大事ない。

ところでそちらは冒険者・・・なのかな?」


俺を見た後、草むらからトテトテとやって来て俺の手を握るぬいぐるみを抱えたティアを見た男が言葉に詰まる。


「あ、はい。一応冒険者やってます」


「そうか、そうか。

儂等は学園の教師と生徒じゃ。いや危ないところをーーー」


「横取り・・・」


男の影に隠れていた少女が口を尖らせながらポツリと呟く。


「これこれ、そのようなこと言うものではないわ」


「う~」


男がたしなめると、少女は恨みがましい目で俺を見てきた。


・・・あれ?もしかして何か余計なことした感じなの!?


そ~っとお爺ちゃん先生を見てみると、お爺ちゃんは困ったような微笑を浮かべる。


「ほっほっほ。まぁ、この子と魔法の修行をしとったのじゃよ」


どうやら完全に邪魔しちゃってたみたいだ・・・

老人と子供が襲われてるのを見て思わず飛び出してしまったが、状況からしてもうちょっと様子を見てもよかったのかもしれない・・・

なんたって異世界なんだし、俺の常識が当てはまらない良い例だ。


「なんか・・・すみませんでした」


「ほっほっほ、気にするでない。儂も疲れておったところじゃったしの」


お爺ちゃん先生は腰をポンポン叩いてそう言った。

白地あからさまに気遣ってくれるお爺ちゃん先生に、なんだかこっちが助けられたような気がして苦笑い。


「えっと、それじゃ、そういうことで俺たちはこれで失礼します」


俺は無理矢理話を終わらせ、そそくさとその場を離れた。

・・・が、それほど進まない内に足を止めると、再びふたりの所に戻って行って


「あの、ここから近い町ってどっちでしょうか?」


俺は聞きたいことを聞きいてお礼を言うと、逃げるようにその場を離れた。

お爺ちゃん先生は穏やかな雰囲気で見送ってくれたが、後ろの少女は最後まで不機嫌そうにこちらを見ていた・・・



◇◆◇◆◇



「ずいぶん変わった戦い方をする者じゃったな」


セイ達を見送った老人は、楽しそうに先ほど起こった戦闘を思い出していた。


「さて、じきに日も沈むじゃろうし、儂等も帰るとするかのぉ」


老人がセイ達と同じ方向に歩き出すと、少女は顔を俯かせてトボトボとそれに付いていく。


「そう落ち込むでないわ。

お前の両親や姉は優秀な魔導師なんじゃ、才能がないわけではないはずじゃ」


「・・・はぃ」


老人が慰めの言葉を掛けるが、少女の顔は変わらず暗いままだ。

老人は少女のために今までも手を尽くしてきたが成果が上がらず、今回は実際に魔物の中に放り込むという強引な方法を取ってみたのだが・・・結果はこれまでと同じものだった。


老人は自分の不甲斐なさに気を落とし、どうしたものか・・・と少女に悟られないように前を向いてそっと重い息を吐きだした。

そのため、少女の肩が小さく震え、杖を持つ両手は白くなる程強く握られていたことには気づかなかった・・・


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