第50話 エピローグ 2 聖女降臨〜成りたて神父 〜
僕はしがない成りたて神父だ。
今は天使の情報を集めているところだ。
僕は今、ギルドでの神の試練を乗り越え、事件のあった現場へと辿り着いた。
しかし事件は1週間も前のことで辺りを見回しても特にこれといったものも見つからない。
僕はこれまでと同じように地道に聞き込むことにした。
しかししばらくしても有益な情報は得られず落ち込んでいると、前からぬいぐるみを持った少女とその母親らしい女性が歩いてくるのが目に入った。
僕はその女性がタイプ…その女性に何か予感めいたものを感じ、聞き込みをしてみることにした。
すると女性はその日、天使に救われたと言うではないか!なんと言うことだ、まさに神のお導き!!
僕は興奮しながらその日の出来事について教えてくれるようお願いした。
「天使?というか女神様についてならお話できます。
…それと、旦那は健在ですし、別れるつもりもありませんから」
女性は天使について教えてくれることに快く了承してくれた。
あと、どうやら僕は興奮する余り変なことも聞いてしまっていたようだが些細な事だろう。
「… …。
…はい、そうです。
それで娘を救って貰ったお礼に何でもしますって言ったんです。
そしたら女神様は“石鹸”と言ったので、私は安物ですけれど持っていた石鹸を差し上げたんです。
それで女神様はニッコリ笑うと私に小銀貨を握らせて去って行ってしまいました」
「石鹸に小銀貨ですか…?いったいどうして?」
そう言えば、あの口の臭い冒険者も石鹸がどうのと言っていたような…
「えぇ、私も最初は戸惑いました。どうして石鹸なんどろうって。
それは分からないんですけど、だけど小銀貨の意味には気づいたんです!
小銀貨に描かれているのは女神様だって!
つまり、あの女の子は人の身をして現れた女神様だったんだって!」
言われて僕も気が付いた。
この国の硬貨にはそれぞれ絵が描かれており、金貨なら初代国王と王妃様が、銀貨には2柱の神が、銅貨には国旗がというふうにである。
そして小銀貨には女神様の絵が描かれているのだ。
僕は全身が震えた。
今までは希望や憶測で天使だと言っていたが、天使みずからがそれを示してくれたからだ。
「素晴らしい!これほど貴重な話を聞かせて頂きありがとうございました」
僕はまた一歩天使に近づき、もうすぐ側にいるのではないかと感じながら女性にお礼を言った。
「いえ、私もたくさんの人にこの事を知ってほしかったので!
でも、もう話し掛けて来ないでくださいね」
女性も話せて嬉しいみたいだ。
僕と同じ気持ちなのだろう…天使については。
それ以外はバッサリ切り捨てられてしまった僕は実は結構ショックだった。
このような奇跡を目の当たりにしたので奇跡あるかなと思っていたからだ。
しかし僕は神の下僕。全ての不幸を試練と言い切る聖職者。
「ふっふっふ、それは神のみぞ知ることですよ…I’ll be back♡」
僕はヒリヒリする頬を押さえながら女性と別れた。
僕が送った愛の囁きはビンタと一緒に返されました。
しかし尊い犠牲を払い得た情報は十分なものだった。
なので僕は一旦教会に戻って整理することにした。
その帰り道、子供たちが遊んでいるのを見かけたので、天使の話を餌に傷付いた心を癒してもらおうと僕は声をかけた。
「知ってるよ!
でも天使じゃなくてホントは“くぐつのそうじゃ”って言うの!」
可愛らしい女の子が一生懸命教えてくれた。
アホなこと言っているけど、無邪気でとても微笑ましい。
「僕も知ってる!
“神の手”と一緒なんだぜ」
今度は鼻水を垂らした男の子が教えてくれた。
鼻から脳ミソでも垂れているのかと思う内容だったが、集まって来た子供たちも口々に“傀儡の奏者”や“神の手と騒いでいる。
事ここに至っては子供たちの言う事を軽んじるわけにもいかなくなった。
情報が偶然飛び込んで来たことに驚きながらも、僕は天使との関連性を考慮しながらしばし考える。
…そして男の子の鼻水が地に落ちるのを見て閃いた!!
つまりこう言う事なんじゃないだろうか?
天使、神の手、傀儡の奏者は別々に考えるのではなく、全て同一のもので、“天使は神の手の傀儡の奏者”なんだと。
“神の手の傀儡”とは神の手により作られた傀儡、つまり我々人間のことだ。
その“奏者”とは“導き手”と解釈することができるのではないか!?
つまり“天使は人類の導き手”ということだ!!
「なんと…なんということだ。
天使とは…あの伝承の聖女のことだったのか!」
なるほど、もしそうならば“石鹸”の意味も自ずと導き出される。それは“浄化”だ!
気付けば僕は涙を流し蹲り神に祈りを捧げていた。
魔物が活性化し人類の生活圏がどんどん狭まり、いつ命を落とすかと身を震わせて生きている人類をお救いくださる聖女様が降臨なされたのだ!
そうか…神はこのために僕をアーリアに来させたんだ!
僕は立ち上がると、子供たちにお礼を言って走り出した。体裁など気にしてる場合ではない。
一刻も早く教皇様にお知らせしなくては!
僕は教会へ駆け込むと急いで中央に宛てた手紙をしたためた。
その後領主様にも僕が調べた事とその結論を報告しに行くと、領主様はイルヘミアと情報を共有し国王に知らせる旨を話してくれた。
僕が全てをやり遂げ領主様の館から出る頃にはすでに夕暮れ時となっていた。
家々から美味しそうな夕餉の匂いが溢れると、僕のお腹がグゥーと鳴った。
そう言えばお昼も食べていないことを思い出す。
何か食べて帰ろうかな〜と考えていると、まだ確認しなければならないことが残っていることに気が付いた。
腹も減ったし丁度いいと思い、年配の男性が言っていた例の串肉の屋台に行くことにした。
屋台に着くとそこは結構繁盛していた。
店を間違えたかな?と心配になったが、お客の様子を見てここで間違いないことがわかった…。
「なんだ、この噛めば噛むほど悲しくなる味は!?
でもこれなら昇進の願いも叶うはずだ!」
…。
「ママー。どうして意地悪するの?」
「意地悪じゃないのよ。
あなたの怪我が早く治るかもしれないの。
いい子だから頑張って食べようね」
…。
「ちょっと、私にこんなドブ臭い物を食べさせていったいどういうつもりなの!?」
「ち、違うんだ、ハニー!
僕はただ君と幸せな家庭を築きたいと思って…」
「意味わかんない!もう帰る!
あなたの顔なんて二度と見たくないわっ!」
「ま、待ってくれ!ハニー!!」
…。
僕は恐る恐る列に並び、串肉を1本購入した。
屋台の男性は元はイケメンそうな顔を涙でグシャグシャにした酷い有様で
「美味いんだよ…。俺の肉は美味いんだよ…」と言いながら串肉を手渡してくれた。
…見た目はそれほど悪くない。
僕はおもむろにその串肉を一口食べた。
そして、そのあまりの不味さに、僕は神の名を呟いた…。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
次回から第3章になりますが、物語をある程度書き溜めるまで連載はしばらくストップさせてもらいます。
その間、『ブレイド×ファンタジア 〜異世界に転移して 卵から生まれた幼女と旅をしてたら 知らないうちに勇者にされる話〜』はとりあえず【完結済】と設定したいと思います。ご理解とご了承のほど宜しくお願い致します。
最後になりますが、拙い文章にも拘らずここまでお付き合いして下さった方々、特にブックマークや評価・感想を送って下さった方には、執筆に対するモチベーションと言葉に出来ないほどの喜びを頂きましたので、本当に感謝しております。ありがとうございました!m(_ _)m
それでは、きっといつか突然始まるセイとティアの物語を楽しんで貰えると嬉しく思います!(・ω・)ノ




