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第49話 エピローグ 1 聖女降臨〜成りたて神父 〜

僕はしがない成りたて神父だ。

アーリアという町で働いている。

僕の出身はこの町ではなく、もっと中央の大きな町だ。

でも神父の職についた途端、このモンスター溢れる危険な辺境に行くことを命じられてしまった。

家族は神が与え賜うた試練だと言い励ましてくれたが、一緒に神父になった同僚と比べてしまうとやっぱりあまり嬉しくない。


僕の家族はとても熱心な信者だ。

まぁ、町の住人はほぼ全員信者なのだが、父が聖職者だったので尚更だ。

もはや狂信者と言ってもいいくらいだと思う程に…。


そんな家庭で育ち、当たり前のように聖職者になった訳だけど、僕はそこまで熱心な信者というわけではないと思っている。

仕事に就く前でも、せいぜい日に3度のお祈りと週末の礼拝、あとは信者には珍しくない坊主に近い髪型を生まれてこの方しているくらいだ。


それでも普通の人より神を身近に感じているのは確かだと思う。

さっきも長い儀式がようやく終わり、我慢していた用を足した時に神の名を(つぶや)くくらいは身近だと思っている。



そんな僕がいつものように働いていると、この1週間で教会を訪れる人と寄付金が大幅に増えていることに気が付いた。

不思議に思っていると、さっき領主様がかなりの寄付金を持って教会を訪れた時、ある噂について話してくれた。


その噂のひとつは、ここより西にあるイルヘミアという町に勇者が現れたこと。

そしてもうひとつは、このアーリアの町に天使が舞い降りたということだった。


詳しく話を聞くと、なんと領主様も勇者と天使に助けられた内の1人だと言った。

なんでも、領主様の奥様は病気を患っていたのだが、勇者のお陰で薬が手に入り助かったのだとか…。


それにこの町で起きた人攫いという忌まわしき事件。

それを天使が白日の元に晒してくれたそうだ。

それは領主様の主治医がちょうど馬車で領主邸に向かっている時に実際に目撃したので信用できる情報なのだそうだ。


勇者に天使…。もし本当ならば教会は動かなければならない。

僕はそう思い、この町に舞い降りたという天使の情報を集めることにした。



◇◆◇◆◇



事件があった日の天使の情報を集めるために聞き込みを開始した僕は、ある1人の年配の男性から話を聞くことができた。


「天使に会ったというのは本当ですか?」


「天使?…あ〜、天使のうぉ。ハハハ、そうか、そうか、お前さんは知らんのか。

そうじゃの〜、うむ、まさに天使だわい」


妙な言い方だが、とにかく天使を知っているようなので、僕はその日の出来事を教えてもらった。


「その日は飴玉をあげたんじゃよ。

そしたらその日に限って何故かクソ不味い肉を渡してきおってなぁ。

じゃが、天使(笑)に見つめられては食べる他あるまいと思おて、無理して食べきったんじゃ。

そしたら、その日儂らが知らん間に誘拐されとった孫が衛兵に連れられて帰ってきおったんじゃ。

そんで話を聞いたら、儂があげた飴玉で天使が助けてくれたと言うから、そりゃぁビックリしたわい。

じゃが、それで納得したんじゃ、あのゲロ不味い肉は試練だったのじゃとな〜」


男の話を聞いた僕は、なるほど確かに天使らしい振る舞いだと思った。

なぜなら我らの神は何もしない者に決してそのご慈悲を与えたりはしないからだ。

苦難、或いは試練を乗り越えた者だけが神の祝福を得られるのだ。


僕は一歩天使に近づけたことを確信し、男にお礼を言い、天使が次に向かった先を尋ねた。


「ハッハッハ。構わん、構わん。

天使(笑)はギルドの方に向かったわい」





次に僕が足を向けたのはもちろん冒険者ギルドだ。

僕がギルドに入ると、怖い顔をした冒険者がこちらをジロジロ見てくる。

神父がここにいるのが珍しいのは分かるが、あまりいい気はしない。

用を済ませて早く出ようと思い、ギルド職員のいる方に目を向けた。


しかし生憎(あいにく)今日はギルドが混んでおり、手の空いていそうな職員がいなかった。

僕としては受付にいるオレンジ髪のお姉さんとお話ししたかったのだが、そのカウンターにも行列ができており、とても話を聞ける雰囲気ではなかった。


オレンジ髪のお姉さんとお話し出来ないのは残念ではあるが、こうして見ているだけでも満足で、できるならずっと見ていたいという欲求はあったが、まずは天使の情報を集めることを優先させ、僕は仕方なく暇そうにしている冒険者に話しかけることにした。


幾人かの冒険者に尋ねていくと、その日天使を見たと言う冒険者に話を聞くことができた。


「では、あの日の天使のことを教えて下さい」


「ん〜、天使っていうか、いや…まぁ天使だわなぁ」


妙な言い方だが、とにかく天使を知っているようなので話を続けてもらった。


「あの日俺はちょいと下手こいちまってよ、依頼に失敗しちまったんだよ。

それでギルドに報告しなきゃいけねーんだが、RP(ランクポイント)が減っちまうのが面白くねーからゴネてやろうと思って受付に来たわけよ。

そしたらお前(オメー)天使(照)が胸熱(ムネアツ)なことしてるじゃねーか。

それで俺の()()よくばなんて考えが壊れて消えちまったってわけよぉ〜、石鹸だけになぁ!ダハハハハ

まぁ、そんでその日は素直にギルドにごめんなさいしたってわけだ!わかったか?」


正直あんまりよく分からなかった。

お前の話はどうでもいいから、もっと天使の話を聞かせろよ!と思ったけど、僕はとてもよくわかったと言ってお礼を言った。


ただ収穫がなかったわけでもなかった。

天使は確かにここに現れ、この口の臭い冒険者をより良い方へ導いていたのだ。


僕はまた一歩天使に近づいたことを確信した。

次はいよいよ事件のあった現場へ向かう。

(いや)が上にも期待が高まる。

これまで聞いた話からでも、神の遣わしてくださった天使がアーリアを祝福してくださっていることはよくわかる。

次はどんな奇跡の話が聞けるのかと思うと、僕はワクワクしてしまった。

それと共に、神の下僕である僕自身が神の御意志により遣わされた天使の軌跡を追っていると思うと、無量の喜びが駆け巡りその場に(ひざまず)き祈りを捧げたくなるほどだ。


僕は(はや)る気持ちを抑え、聖職者として(おごそ)かな態度で出入り口へと向かう。

その時にチラッと受付のオレンジ髪のお姉さんを見ると、とても綺麗な笑顔で微笑(ほほえ)んでいた。

その瞬間、ここでずっとお姉さんを眺めていたいという欲求を再び抱いてしまった!!


(あぁ、オレンジ髪のお姉さん…貴女(あなた)のその笑顔の前では神の威光すら霞んでしまう。

あぁ、でもお隣の知的なお姉さんも素敵です。

もしも貴女が神の絵を踏む時がきたのなら、どうかついでに僕も踏んでください。

あぁ、そのお隣の…)


しかしこの想いは届くことはなく、僕は人波に押し出されるようにしてギルドを出て行くこととなった。


(あぁ、これも神の試練なのか…)



第50話は2018年10月31日 00時00分に投稿します。

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