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第38話 緊急依頼の翌日 1

俺はいつも通り朝の遅い時間まで気持ちよく眠っていた。

しかしその眠りを邪魔する者がいる。


「セイ、起きて」


そいつは優しく俺の肩を揺すり、俺を起こそうとする。


「セイってば〜」


そいつは俺がなかなか起きないと、ちょっと拗ねたような甘い声を出した。


「もぉ、起きないんだったらイタズラしちゃうぞ」


そう言うと、今度は俺の頬に温かい大きな手を添え、ゆっくりと撫でる。

それが(くすぐ)ったくて我慢できなかったので、俺はようやくそこで目を開けた。


甘い雰囲気に目をトロンとさせながら俺がその悪戯っ子に焦点をあてると…

青ヒゲに囲まれた分厚い唇が俺に急接近しているところだった!?


「キァァャャャャャャャャャ!!!」


俺は悲鳴をあげてギリギリのところでそのデカイ顔を両手で挟んでソレを阻止した。

目の前にある巨大な2匹の赤いナメクジと、手に感じるジョリジョリしたヒゲの感触と、妙に甘ったるい匂いとで俺の眠気は完璧に吹き飛んだ!


「ウォ〜イ!この化け物!何してんの!?」


「あら残念、起きちゃったわん♡」


宿屋の化け物は唇をベロリッと舐めると残念そうに肩を落とした。


「貴方にお客さんが来たから起こしに来てあげたのよん♡」


そう言って、身体をずらし開いた扉の方を見えるようにしてくれた。

しかし、そこにいたのは客などではなく、ティアを人質に取った無表情の殺人鬼だった!


「ヒィィィィィィィィィィ!!」


テメェ、なに刺客を連れてきてくれてんだ!?


そいつは俺と目が合うと、冷たく濁った目で


「お、およよ…」と言った。



あ…、その人はよく見ると殺人鬼のような顔をしたレイナさんだった。


ってか、「およよ」ってなんだ?

殺し屋の符丁か? それとも…


なんだかよくわからないけど、アーリアの化け物共が勢揃いした俺の朝の目覚めは最悪だった。




俺たちは朝食を取りながらレイナさんの要件を聞くことになり1階へと下りた。

朝食は既に出来ており、席に着くとすぐに出してくれた。

メニューはスープ、サンドイッチ、果物とシンプルだが、いつも通りとても美味い。

あの(おぞ)ましい化け物からこんなに美味い料理が作られるのが未だに信じられない。

レイナさんは済ませてきたらしく飲み物だけ頼んでいた。


食事が済んだところで、気は進まないが俺は要件を聞くことにした。


「あの〜、今日はどうしたんですか?」


俺がおずおずと尋ねると、レイナさんは遠くの鳥でも睨み殺せそうな眼をしてボソボソと答えた。


「お礼をしに来たの…」


「…お礼ですか?」


それってヤクザの人が使う意味じゃないですよね?


俺はいつでも逃げられるよう若干腰を浮かせながら言葉を繰り返すと、レイナさんはお手本のような綺麗なスプラッターの笑みをして見せた…。


「えぇ、昨日のね…」


ヒィィィ!

やっぱり怒ってたよ〜!

ど、どうしよう…

思い当たることがいくつもあって何に謝ればいいのかすら分からないぜ…


俺はそんな事を考えながらもテーブルに両手をつくと、深々と頭を下げた。


「申し訳ありません!!」



食堂の片隅で俺がいきなり頭を下げだしたので、ガヤガヤしていた周囲が俺たちの方を見てシーンとなっている。

俺がテーブルに額をくっ付けて謝罪した状態のまま数十秒が経ち、1分くらい経った頃だろうか…それまで虫の羽を毟る子供のような眼で俺を見下していたレイナさんだったが、やがていつもの鋭い眼に戻って俺の頭を上げさせ、とりあえずお礼はやらないと言ってくれた。

俺が少なからず安堵して顔を上げると、今度はティアにお礼をすると言い出した!


…なんでティアまで!?

いったい何をやらかしたんだ?


「えっと、ティアが何か迷惑かけましたか?」


俺が恐る恐る話を聞いてみると、どうやらサイプロクスとの戦いでティアがいい仕事をしていたみたいで、こっちは普通の意味のお礼のようだ。

今ティアの頭を撫でているレイナさんは表情こそ凶悪だが、その手つきは優しいものだった。


なるほど…要は、借りを作りたくないからここに来たってことらしい。


そいうことなら、もうここで帰ってくれるとお釣りが出るほどのお礼になるんだけど、それではレイナさんは納得しないだろう…


「う〜ん…じゃ、俺たち今日は仕事はせずにこれから出掛けるんですけど、一緒にティアと遊んでもらえませんか?」


ティアはレイナさんを怖がってないみたいだし、レイナさんもティアを可愛がってくれているようなので、これでwin−winだろうと思って誘ってみた。


…うん。ホントは俺だけloseなんだけどな!


まぁ、ティアは嫌がらないし、レイナさんも納得してくれれば丁度よかったと考えよう…。


「わかった…」


俺の誘いにレイナさんはその氷の無表情を一瞬崩し、頬をピクリと動かすというよく分からない反応を返してくれが、とにかく一緒に来てくれることになった。


「ティア、遊びに行くぞ〜!」


食べ終わった皿を舐めているティアに声をかけると、ティアは皿から顔を離して鷹揚に頷いた。


「…かまわん」


なんだその喋り方!?

ニコニコして言ってるけど、なんだその喋り方!?




俺たちは朝食を終わらせ準備を済ませると宿を出た。


表通りに出て、目に付いた美味しそうな果物を買い食いしながらパンや串肉などの昼食を買ってぶらぶら歩く。


しかしいつも以上に視線を感じる…。

いつもはティアに向けられる優しい視線なのだが、今日は俺やレイナさんへのものも少くない。

いや…大半がレイナさんに向けられているものだった。


原因は分かっている。

それは昨日のサイプロクスの討伐だ。

昨日のことはすぐに町に知れ渡り、俺は討伐の立役者として持て(はや)された。

現に、さっきも知らないオッサンに「よくやった!」などと言われ背中をバシバシ叩かれた。


一方レイナさんは…恐怖の体現者として泣き叫ばれた。

現に、さっきのオッサンもレイナさんに気付くと飛び上がって逃げていった。


…まぁ、あの惨状を見ればビビるよねぇ〜。


俺は気まず〜く思い、レイナさんを盗み見ると、当の本人はこの視線が満更でもないようで、凶悪な笑みを浮かべていた。


…。

まぁ、本人が気にしてないようだから話をわざわざ蒸し返して謝ったりする必要はないだろうと考え、俺は何も言わず目的地に向かった。



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