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第37話 勇者の情報〜イルヘミアの領主さま〜

「どういうことだ!なぜ見つからん!?」


私は部下からの報告を聞くと、執務机に拳を振り下ろした。

机から山積みにされていた書類の一部がパラパラと床に落ちるが、そんなことは気にも止めず部下からの報告に苛立ちを募らせる。


「申し訳ありません。

アーリアの冒険者ギルドでも確認致しましたが、その日、東の街道近辺で活動していた冒険者に該当する人物はおりませんでした」


そこは領主館の一室で、他とは違い過度な装飾が施されてはおらず、あるのは書類棚と大きな執務机だけだ。

一見すると地味で、或いは粗末にさえ見えるその部屋は、しかし実際は領主に相応しい洗練された趣のあるものだ。


「ただ、外見上一致する者が、我々がアーリアに到着する前日に冒険者登録を行っていったそうです」


私は振り下ろした拳を握り締める。


「ふざけるな!

報告では、その勇者は既に冒険者だったのだぞ!

それに成り立ての新米が、森一帯のモンスターをどうやって駆逐するというのだ!?」


「し、失礼致しました」


萎縮する部下を見て、私は少し落ち着きを取り戻す。

部下に当たっても状況は好転しない。


「他に報告がなければ、下がりなさい。

引き続き勇者の捜索を最優先事項とするように」


そう言うと、部下は頭を下げて出て行った。


私は焦燥する気持ちを抑えるために、窓の側まで歩き、外を眺めた。


穏やかな午後の陽の光が街を照らし、子供達の笑い声が聞こえる平和な光景だった。

しかし、この平和がいつ壊されてもおかしくない程この国の状況はよくなかった。


先日行われた領主会議でも、モンスターに襲われ壊滅した都市の報告が上がっていた。

そしてそれは、けっして他人事ではなかった。

私の治めるイルヘミアもモンスターの活発化の影響で非常に危険な状況に陥っていたからだ。


森から採れる資源は減り、町の外ではモンスターに襲われる頻度が激増し、物資の輸出入もままならない。

さらに悪いことに、町のすぐ近くでモンスターが大量に出現していた。

調査の結果、魔物の巣が確認され、それは急速に拡大しており、すでに人の生活圏の目と鼻の先にまで達していたという。


私は軍備を整える間の時間稼ぎとして冒険者ギルドに大金を出して依頼してはいたが、芳しい成果は得られていなかった。

それも無理はない、敵は1匹2匹ではなく群れなのだ。


私は出来る限りの兵力を掻き集め対策に乗り出した。

しかし、おそらく我々が全滅するまで戦ったとしても、モンスターの駆逐は不可能という予測がたっていた。

そして町の守り手がいなくなれば、この町は瞬く間に蹂躙されてしまうだろう。


そんな進退(きわ)まる私の耳に飛び込んできたのが勇者の情報だった。

その勇者はたった1人で…いや、正確には2人で森のモンスターを撃退したと言うではないか!


私はすぐに兵を動かし、事実確認に向かわせた。

上がってきた勇者の報告は紛れもない真実で、森の魔物は(ことごと)く殲滅されていたと言う。

私は神に感謝せずにはいられなかった。

そしてすぐにその者を連れてくるように指示を出した。



時を同じくして町にも嬉しい変化が起こっていた。

これまでは、物資の不足や、モンスターの脅威に(さら)され、誰も彼も疲れた顔をしていたのだが、ここ最近になって住民の顔に僅かながら笑顔が戻っていたのだ。

なんでも、子供たちを中心に、人々を勇気付ける遊びが流行(はや)り出しているそうだ。

その遊びは元気の出る希望の表情なる変な顔をして遊ぶものらしい。

よくわからんが、なんにしても良いことだ。


また変化はそれだけではなかった。

医療品も同様に不足しており、満足に治療を行えない状況だったが、聖父と称えられる医者を中心として、無料で治療を行っているという報告があった。

話を聞かせに行くと、それは勇者の指示でやっているのだという。


それだけに留まらず、今度はとんでもなく貴重なものを、とんでもなく良心的に、分け隔てなく売る商人が現れた。

これにも話を聞くと、救世主の指示と言うではないか!?


私は、全てが神の御心(みこころ)により遣わされた勇者の御業(みわざ)だと確信した。


町では勇者降臨の噂が既に広まっており大騒ぎだ。


私は領主として…いや、1人の人間として、人類を滅亡の危機から救ってくれる勇者を見つけ出さなければならない!



私が使命感を強くして外を見つめていると、

街を照らしていた光が雲によって遮られ暗くなる。

私は光を求め天を仰いだ。


「我々、人類の希望と成りうる人物は、いったい何処に行ってしまったのだろう?」


私はそう呟くと、国王宛の手紙に筆を執るのだった。



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