第34話 レイナという少女〜その3〜
私はいつもなにかに悲しんでいたように思います…。
私が目を閉じると、これまでのことが走馬灯のように去来しました。
◇◆◇◆◇
私の両親は冒険者でした。
お父さんも、お母さんも召喚師です。
召喚師は、死霊を扱うジョブということで教会に異端扱いされています。
だから私たちは町を転々としながら、ひっそりと生活していました。
お父さんとお母さんはいつも2人だけで仕事をしています。
これは2人が小さい頃からみたいで、いろんな話を私に聞かせてくれました。
それで2人が仕事の時は、私はいつも留守番でした。
私はそれが不満でしたが、両親は危ないから駄目だと言って許してくれませんでした。
当時の私は召喚師の能力はあっても、契約をしていないので、ただの子供だったからです。
でも召喚師のことはちゃんと教えてもらっていたので、いつかは3人で仕事をすることを夢見ていました。
ところが、私の日常は突然壊されました。
その時私たちがいた町は宗教色が濃く、熱心な信者が多くいる場所でした。
ある日、顔も知らないような人が何人か集まって、私たちが住んでいた家の前にやってきました。
そして、その人達は大きな声を出して、よく分からないことを喚きだしました。
初めのうちは、お父さんとお母さんがその人達と話をしようとしていましたが、後から後からどんどん人が増えてきて、身に覚えのないことばかり言われます。
その中には知っている人も混じっており、口々に汚い言葉を浴びせてきました。
それは夜になっても収まらず、松明を掲げた大勢の人に家を囲まれ、私は両親に抱きしめられながら震えていました。
やがて町の人は私たちの家に火をつけました。
一度火がつけられるともうダメでした。
屋根にも倉庫にも火がつけられ、窓が割られそこら次々と松明が投げ込まれました。
私たちは本当に最低限のものだけを持って家から飛び出し、逃げました。
町からも飛び出した私たちは、今度は教会の影響が弱い、中央から離れた町を目指しました。
殆どなにも持たない旅は辛いものでした。
お腹も空くし、喉も乾きます。
中央から離れるにつれて魔物との遭遇が多くなり、昼夜を問わず警戒もしないといけなくなりました。
そして長い道を歩き通し、もう何日かすれば目的の町に着くと思われた頃、私たちは山賊に襲われました。
私たちは必死に逃げましたが、山賊は魔物とは違い連携した動きで私たちを追い詰めます。
お父さんはカイとロメオを召喚して抵抗します。
私とお母さんは少し離れたところで身を隠していました。
しばらくして戻ってきたお父さんはボロボロでした。
片腕がなくなり、お腹には矢が刺さって血をダラダラと流しています。
お父さんは私たちの側まで来ると倒れました。
そして私に契約するように言うと、ナイフを握らせます。
私は泣いて嫌がりましたが、お母さんが私の手を取り、お父さんの心臓を突き刺し契約させました。
…それが私の初めての契約になったのです。
その後、なんとか山賊から逃げた私とお母さんは、目的の町に辿り着くことができました。
それから私はお母さんと一緒に冒険者の仕事をすることになりました。
私が冒険者の仕事を覚えた頃、お母さんが倒れました。
そして私に契約するように言い残すと、お父さんを追うように亡くなりました…。
それからの生活はとても大変でした。
教会の影響が多少は弱いとはいえ、皆無ではありません。
私が召喚師だと分かると、誰も彼も離れていきます。
それどころか金品を巻き上げようと乱暴してくる者もいました。
曰く、召喚師には何をしても許されるそうです。
それに子供の私では全く信用がなく、家を借りることは疎か、宿で泊まらせて貰うことさえ出来ないこともありました。
また親がいないことが分かると、足元を見られたり、騙されそうになったり、酷い時には殴り飛ばされ売られそうになったりもしました。
私は一所に留まることはせず、これまでと同じように町を転々と移動しながらなんとか生きていきました。
そうやって何年も過ごし、アーリアの町に着いた時、私はボロボロでした。
1人で生きていく術は身につけていたのですが、寂しさに耐えられる心が無かったのです。
なにもかも放り出し、野垂れ死にしようとしていた私に手を差し伸べてくれたのがユーリでした。
私はユーリに連れられ、しばらく孤児院でお世話になり、少しずつ立ち直っていきました。
それからまた冒険者の仕事を始め、部屋を借りて、アーリアで生活を始めることを決めました。
孤児院以外では相変わらず1人でしたが、それでも私はここでの生活が気に入っていました。
仕事をし、孤児院のお手伝いをし、ユーリとお喋りをする。
そんな日常が私の心に空いた穴を埋めていってくれているように感じていたのです。
だから、少しだけ自分の居場所を見つけられたと思っていました…。
そんな時に彼とも出会いました。
今考えると、彼ならこんな私でも救ってくれるんじゃないか?受け入れてくれるんじゃないか?
そう思ってしまったのでしょう…。
だから気になってしまったのかもしれません…。
…
…
そして走馬灯の最後は、私のことを『知ってる』と言ってくれた彼でした。
そう言って側にいてくれたことが、私にとってどんなに嬉しかったことか…
◇◆◇◆◇
走馬灯が終わった…
まだ私は死んでいませんでした。
走馬灯は本当に一瞬だったようです。
「寂しいなぁ…」
自分の人生を振り返りそう呟いた。
「死にたくないなぁ…」
そう呟くと涙が零れた…




