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第33話 レイナという少女〜その2〜

私はレイナ。冒険者をやってます。

少し珍しい(ジョブ)をしてますが、いたって普通の女の子です。



突然ですが、世の中には分からないことってたくさんありますよね。

例えば、私が近づくと子供が泣きだすこととか…

よく職務質問されることとか…

お店に入ったら強盗に間違われることとか…。

そして、どうして私は今1人で闘っているのかとか…。




サイプロクスは攻撃の手を緩めることなく力任せに槌を振るってきます。

それをカイが大楯によって受け止めるが、削られていく魔力の量が多く、私は魔力供給を続けなければなりません。

小さな魔石に再召喚されたロメオは、隙をつき果敢に斬り込みますが、魔石に込められる魔力が少ないため決定打に欠けて攻めあぐねているようです。

そして少しタイミングを間違えれば、防御の薄いロメオは簡単に吹き飛ばされ、場合によっては魔石までも砕かれる…。

その度に、私は懐から魔石を取り出しロメオの召喚を繰り返します。


持っていた大きな魔石は最初に使った3つだけです。

あとは小さいものしかありません。

魔石は高いのです…

私は魔石が砕かれる(たび)に無意識に算盤(そろばん)を弾いていましたが、今はもうそんな余裕はありません。


このままではジリ貧です。

そう思った私は、自らも前に出ます。

敵の動きはブリサの魔法によって今も遅いままなので、重い一撃を確実に避けつつ攻撃を仕掛けていきます。


私たちはサイプロクスを取り囲むように展開し、カイが常に敵の正面で攻撃を受け止めるよう動き回りつつ私とロメオが敵の死角からダメージを与えていきます。

サイプロクスのダメージは時間が経てば治ってしまうが、痛みは感じているようで、傷を与えると苦痛で身体が(ひる)み大きな隙ができています。



数十の攻防を繰り返し、ロメオの放った斬撃がサイプロクスの脇腹を(えぐ)った。

サイプロクスは大声を上げて身を仰け反らせ怯んでいます。

ロメオはそこへ追い討ちを掛けるべく更に斬り込むが、苦し紛れに振るわれた大槌がロメオに当たり吹っ飛ばされて魔石も砕かれた。

けれど、私とカイはサイプロクスが腕を振り抜いた隙を見逃さず、サイプロクスの懐に飛び込みます。

カイは敵をブロックし、そこへ私が渾身の突きをサイプロクスの胸の中心に突き刺した!


(硬い…!)


相手を貫く勢いで行った攻撃でしたが、剣の半分も刺さらなかった。

私は急いで離れ、次の魔石を取り出します。

その魔石は親指の爪程のサイズの魔石で…


(これが最後かぁ…)



私がロメオを再召喚している間に、サイプロクスの傷はすっかり治っていました。


(次は目を狙う…!)


私は剣を強く握り、再度攻めるために陣形を整えます。


私たちがジリジリと包囲を狭めていくが、サイプロクスはいつものように無闇に突進して来ませんでした。

その代わり、今まで片手で持っていた大槌を両手で握ると…一気に弧を描くように振り回す。

まさにフルスイングです!

私はなんとか後方へ跳びのき避けましたが、ロメオの魔石は一瞬にして砕け散り、カイまでも吹っ飛ばされ、離れた木にぶち当たると、そのまま火が消えるように消滅しました。

魔力を全部消し飛ばされたのです。

幸い魔石は無事なようですが…。


しかしそんなこと気にしていられません。

私の前には守ってくれる者がいなくなりました。


(撤退しなきゃ…)


私は魔石とティアちゃんを回収し撤退する算段をします。

しかしその考えている時間がいけなかった。

サイプロクスとそれなりに距離を取っていたことも油断の原因でした。

サイプロクスは両手で持った大槌で地面を叩き割り、掬い上げるようにして礫と砂埃を飛ばしてきました。

私は咄嗟に目と頭を庇いはしましたが、完全に意表を突かれました。

サイプロクスは私が一瞬目を離した隙に舞い上がる砂埃に紛れて急接近し、そして力任せに腕を振り抜きました。

私は今度は避けることができず、剣を盾のようにして直撃を避けることが精一杯でした。

しかしその衝撃は凄まじく、簡単に私を吹っ飛ばします。

自ら回転して(ころ)がることで勢いを殺しますが、それでも全身に激しい痛みが広がり、咳き込むと血の塊が出てきます。


霞む視界と朦朧とした意識で顔を上げると、サイプロクスが大槌を引き摺りながら(うずくま)る私にノロノロと、まるで小動物をいたぶる様な足取りで近付いて来ます。


痛む身体と鈍った思考では何もすることが出来ず、ぼんやりと迫り来る暴力を見ていることしかできませんでした。


そこへ、コツン…とサイプロクスの頭に小石が当たりました…。


(えっ…?)


それは大した攻撃ではありません。

サイプロクスにとっては蚊に刺されるようなものでしょう。


けれど…コツンっと、また小石が頭に当たる。

サイプロクスは立ち止まり辺りを見廻しますが、そこには魔物の死体とへし折られた木々の他は何もありません。


しかしまた、コツン…

山なりの軌道で飛んで来た石が頭に当たります。

サイプロクスは何も出来ない私を無視し、首を振って目もキョロキョロさせます。


コツン…

小石はいろんな方向から飛んで来ていました。

やがてサイプロクスは苛立ったのか、辺りを無茶苦茶に暴れ回り、草木や土、転がった魔物などを全部まとめて薙ぎ払いました。


サイプロクスが暴れて舞い散った葉っぱが収まり、モクモクと上がった土煙が薄れてくると、そこには白いウサギ…のぬいぐるみが立っていました!


サイプロクスに睨まれる中、ぬいぐるみは静かに腰を落としていき、そして腕をグニャグニャと水平に動かし奇妙なダンスを突然始めました。

奇妙なダンスは手をグニャグニャさせた動きから、何かを巻き取るようにし、それを上にあげる動きに変わる。


サイプロクスが変なダンスを始めたぬいぐるみに近付くと、ぬいぐるみはダンスを止めてトコトコと逃げ出します。

そしてサイプロクスが追うのを止めると、ぬいぐるみも止まり、再びダンスを始めます。


ぬいぐるみは今度は(つな)のようなものを引き寄せるような動きのダンスを始めました。

そしてなにかを抱え後ろに投げるような動作へと続き、それが繰り返される。


まったく意味のわからないダンスでしたが、荒々しさと逞しさを感じさせる力強いダンスだったと思います。



サイプロクスが追いかけ、ぬいぐるみが逃げてまたダンスが始まる。

何度かその追いかけっこを繰り返しましたが、ついにサイプロクスがぬいぐるみに興味を無くして、標的を再び私に移しました。


ぬいぐるみは一生懸命注意を引こうとしましたが、もう何をやっても無駄でした。


その間に、私は飛びそうになる意識を食い止め、なんとか立ち上がりますが、力が全然入りません。


勝算も撤退の道も無くなった絶望的な状況で、私に出来ることは(ただ)剣を離さないことだけでした。

持ち上げるだけの力もありませんでしたが、剣に手を触れているうちは、みっともなく泣かずにいられたというだけです。



サイプロクスが私の目の前まで歩み寄るとゆっくりと大槌を振り上げます。

私にはもう何をする気力もありませんでした。


(…死んだかな)


いつか見た怖い夢と同じように私は一人で死んでしまうんだなと…。

それが夢だとは分かっていても、私の最期は似たり寄ったりだろうと受け入れていて、そうなればもう諦めようと思っていたのに、今はそれがとても悲しかった。


だから私は涙が(こぼ)れないようにするために目を閉じました…



8月中は3日に1回ペースで投稿します。

9月以降は週1ペースに戻ります。

(2018年8月04日)

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