表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/84

第30話 彼との出逢い〜その3〜

第27話の別視点のお話です。

私はレイナ。冒険者をやってます。

少し珍しい(ジョブ)をしてますが、いたって普通の女の子です。



朝、私はいつものように孤児院に寄ってからギルドを訪れ、クエストボードで依頼を確認します。

残念ながら今日はいい依頼がありません。

あんまり粘っても視線が嫌なだけなので、私は受付で頼んで稽古場を借りました。

今日のように依頼がないときや、新しい武器を買ったときに使わせてもらってます。


しばらく身体を動かして、一通り訓練を終わらせます。

汗を拭きながら稽古場を出て、もう一度クエストボードを確認しました。

けれどやっぱりいい依頼はありません。

私は今日は帰ろうと思い、出入り口に向かいました。

すると開きっぱなしの扉の向こうには、なんと彼がいました!


彼は入り口の前で腕を組んで立っていました。


(なにをしてるんだろう?)


気になった私は歩く向きを変え、彼が見える位置にある椅子に座りました。

この時間は人も少ないため居心地も悪くありませんでした。

そうしてチラチラと彼のことを観察します。


彼はその後も全然動きませんでした。

そのうち女の子とぬいぐるみが彼によじ登り、女の子は肩車をされ、ぬいぐるみは顔に張り付いていました。

それでも彼は全然動きません。


私は本当に本当に気になったので、思わず声を掛けようと立ち上がりました。

でもその時、私は身体を動かして汗をかいていたことに気が付きました。

普段はそんなこと全然気にしませんが、何故か今だけはとても気になりました。


私はしょんぼりして坐り直します。

それでまたチラチラ彼を見ていると、ギルド内の雰囲気が変化しているのに気がつきました。

ギルド職員が慌てており、あちこちで指示が飛び交い、パタパタ走り回るようになっていました。


やがてクエストボードに依頼が貼り出され、そこには緊急依頼の文字がありました。


私がそれを見ていると、ギルド嬢のミサさんがやって来ました。

ミサさんは眼鏡をクイッと上げると私に協力のお願いをしました。


「レイナさん。サイプロクス討伐の緊張依頼を受けてもらえませんか?

Cランク以上の冒険者に急いで連絡を取っているところですが、少し時間がかかるかもしれません。

もし対応が遅れれば街に被害が出るでしょう。

どうか力を貸して下さい」


ミサさんはそう言って頭を下げました。


「サイプロクスですか…」


私はサイプロクスの討伐をしたことがありません。

それも当然で、サイプロクスの討伐は私のランクでは受けられないクエストだからです。


「はい。本来はBランクのクエストになりますが、現在高ランクの冒険者が出払っていることと、確認されたサイプロクスは単体で比較的小型という情報から、ランクを下げることが決定されました」


「そうですか…」


たしかに今は高ランクの冒険者が少ないのは知っています。

最近になって魔物の様子がおかしくなったので、その調査に当たっていると聞いています。

それとこれは噂ではありますが、領主からの特別依頼があり、そちらにも人員を割いているのだとか。

勇者がどうのと言うのを耳にしました。


「わかりました…」


他に冒険者がいないなら受けるしかありません。

私にもこの町を守りたい理由はあるのですから。


私は了承し、準備でき次第すぐに出発することを伝え、ギルドを出ようとしました。

しかしミサさんが私を呼び止めます。


「準備が整いましたら、ギルドに戻ってきてください。サポートの冒険者を探しておきますので」


「いらない…」


私はミサさんの申し出を拒否します。

そもそも探したところで無駄だと思います。

私は皆に避けられていますから。

これまでも1人でやってきたのです、今回も1人でなんとかしてみます。


しかしミサさんは頷きませんでした。


「いえ、今回は緊急依頼というのもありますが、本来はBランクの依頼です。

出来るだけ万全の状態で臨んで頂けるよう、私共(わたくしども)も最大限の努力をさせて頂きます。

ですから必ず戻って来て下さい」


そうまで言われると断れません。

無駄とは思いますが従うことにしました。

そうして私が準備のためにギルドを出ると、そこにはもう彼の姿はありませんでした。




私が準備を整えて戻ってくるとミサさんが駆け寄って来ました。

そして驚いたことに、ミサさんはサポートをしてくれる冒険者を見つけたと言いました。


そして、その冒険者の話を聞いてさらに驚きました。

それは、なんと彼だったのです!

私が驚いていると、普段冷静なミサさんが少し興奮したように彼について教えてくれます。

曰く、セイという名前らしい。

曰く、最近冒険者になったばかりだそうだ。

曰く、物凄い早さでDランクになったとのこと。

曰く、とても立派で信頼できる人などなど…


私は話を聞いて、やっぱり彼はすごい人なんだなと思いました。


それからサイプロクスの最新の情報も聞くと南門に向かいます。

嬉しい気持ちもありますが、私はとても緊張していました。


歩き慣れている南門までの道がとても短く感じます。

そして気持ちの準備が全然出来ていないまま門に到着してしまいました。


そこには、小さい女の子ティアちゃんと一緒に彼がいました。

あそこにいる人が私を待ってくれていると思うと、胸が締め付けられるような気持ちになりました。


私は目に少し溜まった涙を拭うと、気持ちを切り替えて歩き出します。

私たちは今から戦いに行くのです。

気を引き締めないと!




私はいつもしているように、全然平気な顔で彼に声をかけました。


「貴方が冒険者のセイさんですか…?」


彼は「はい」と言ってこちらを向きます。


近くで見た彼は髪も目も真っ黒というちょっと見慣れない不思議な感じのする人でしたが、その顔は優しそうでドキドキしてしまいました。


彼は以前見たときのようなボロボロの服ではなく、しっかりした冒険者の格好をしています。

女の子も綺麗なドレスを着てぬいぐるみを抱いていました。


私はまじまじと彼を観察してしまい、まだ自己紹介もしていないことに気付いて慌てます。


(バカ!バカ!失礼なことして嫌われたらどうするのよ!?)


私は急いで名前を言います。


「私はレイナ…」


けれどそれだけ…

そのあと何を言えばいいのか全然分かりません。

私の友達はユーリだけなので、同年代の男性とどう接すればいいか分からなかったのです。


悩んでも思い付かなかったので、孤児院の男の子達がしていたことを参考にしてやってみます。


「足を引っ張らないでね…」


私は悪戯っ子のように冗談っぽく言ってみました。

孤児院の子はこれで仲良く遊び始めていました。

だと言うのに、これは一体どういう事でしょう?

私と彼の間にはとても微妙な空気が生まれています。

私は何かを間違ったのでしょうか?

私が不安を抱きそうになっていると、彼は怒った風でもなく「頑張ります」と言ってくれました。


…期待した反応ではありませんでしたが、一応成功したと思っていいでしょう。


すると今度は彼が「荷物、お持ちしましょうか?」と手を差し伸べてくれました。


(紳士!とっても紳士だわ!?)


私は言われ慣れない言葉に、彼の仕事も忘れ喜んでしまいます。


しかし喜んだのも束の間、彼が私の方に向かって来た時、また汗のことが私の頭を()ぎりました。

私は汗臭い自分がどうしても恥ずかしくなってしまい、思わず「近寄らないで」と、お願いしました。


すると彼は何も言わずに、私のわがままを聞いてくれました。

本当に彼はいい人です!


でも、最後にこれだけは言っておかなければいけません。

私は祈るような気持ちで打ち明けました。


「あと…私は召喚師…だけど…」


(だけど…それでもいいんですか?)


私は最後まで言い切ることが出来ませんでした。

もし彼に拒否されたら…

そう思うと堪らなく怖くなったから…


私は息もできないくらいの恐怖と緊張の中で、彼の返事を待ちました。


私が泣きたくなる気持ちで待っていると、彼は静かに「…はい。知ってます」と言いました。


()()()()』と。


その言葉に私がどれだけ嬉しかったことか…。

私は声を漏らして微笑んでしまいました。

今は別の意味で泣きたくなっていますが、それ以上にニヤニヤした顔を見られる訳にはいかなかったので、私は恥ずかしさを隠しながら門へと歩いて行きました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ