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第28話 彼との出逢い〜その1〜

第11話〜13話の別視点のお話です。

私はレイナ。冒険者をやってます。

少し珍しい(ジョブ)をしてますが、いたって普通の女の子です。



私が初めて彼を見たのは、アーリアとイルヘミアを結ぶ街道にある宿場町でした。



その日は、私がイルヘミアへの護衛の仕事を終わらせ、宿場町で1泊した午前中のことでした。


アーリアの町に戻るため、出発前に少し食糧などを買おうと思い、出店や露店を見ていると、私が昨夜泊まった宿の女の子が、冒険者に何か頼んでいるのを目にしました。


気になったので、私は女の子に近付くことにしました。

これでも私はCランクの冒険者です。

困っているなら私にも声を掛けてくるだろうと思ったのです。

でも女の子は私の方を見ると急にビクビクしだし、話し掛けて来ようとはしませんでした。

後ろに恐い冒険者でもいるのかなと思い振り返りますが誰もいません。

私は女の子が話し掛けて来ないのは、きっと私が女性だからなのだろうと結論付けました。


そこで女の子が何を頼んでいるのかこっそり観察することにしました。

そして分かったことは、どうやら女の子はルナール草の採取を依頼しているようです。

しかも子供のお小遣い程度の依頼料で…。


そんな金銭で森に入る人は誰もいません。

私だって二の足を踏んでしまいます。

まして、今はモンスターが活発化していてとても危険なのです。



私は宿に戻り、宿を経営している女の子の父親に見たことを説明し、事情を聞こうと話し掛けました。


しかしその直後のことです、女の子が嬉しそうに飛び込んできて「冒険者を連れて来た」と言うではありませんか。


女の子が冒険者を連れて来てしまった以上、私があれこれ聞くのは筋違いです。

なので、話し掛けたは良いものの私は話すことが無くなってしまいました。


このまま黙っているのも変なので、私は苦し紛れに「もう1泊お願いします…」と言ってしまいました。

正直、無駄な出費です。



それはともかく、女の子が連れて来たという冒険者こそが彼でした。

彼はボロボロの服を着ており、とても冒険者には見えません。

そして彼と手を繋いでいる可愛らしい女の子も同じ様にボロボロの服でした。


私は宿泊の手続きを終えると、少し離れたところで様子を窺うことにしました。


はじめは女の子の父親が彼に頭を下げて謝っていましたが、彼と少し話すと、私が聞きたかったことを話し始めました。


所々聞き取りづらかったので、私は声がよく聞こえる場所にそ〜っと移動しようとしましたが、床の出っ張りに椅子の脚を引っ掛けてしまい大きな音をたててしまいました。


自分でもすごくビックリしましたが、それどころではありません。

音に反応して彼がこちらに振り向こうとしたので、慌てて背を向けました。

たぶん怪しまれてはいないでしょう。

ぎりぎりセーフです。

これがCランク冒険者の実力ですよ。ふふふ。


その後は順調に盗み聞きを行いました。

それによると、少女の母親が病気らしく、治療のためにルナール草が必要だけど手に入らない。

だったら自分でお願いして採ってきて貰おうと考えたようです。

気持ちはわかりますが、それだけではどうにもなりません。

というのも、ルナール草の採取は以前ならそれほど難しいものではなく、低ランク冒険者がやるようなクエストでしたが、魔物が活発化している今は、低ランクの冒険者がやりたがらず、かといって高ランクの冒険者に頼むには金額的に割りに合わなくなっている状態なのです。


私がそんなことを考えている間に、なんと彼は女の子の依頼を受けると言い出しました。

しかも女の子が出した依頼料でです。

私だけでなく、女の子の父親まで驚いていますが、彼は構わずサッサと宿から出て行ってしまいました。


私は急いで自分の借りた2階の部屋へと行くと、窓に駆け寄り外を見ました。

すると彼と小さな女の子は、本当に森に入っていくではありませんか!


私は窓の側に椅子を持って来ると、それに座って外を見ながら彼の帰りを待ちました。


彼が森に入ってしばらく経った頃、宿の中が騒がしくなりました。

女の子が「お母さん」と何度も呼んでいる様子から、容態が悪くなったのがわかりました。

そして扉の開く大きな音がしたかと思うと、女の子が飛び出して森の方へ走って行こうとしています。

しかし、すぐに父親に捕まえられて抑えつけられます。

女の子は泣き叫んで暴れていましたが、引き摺られるようにして宿に連れ戻されてしまいました。




彼は日が暮れだしても戻っては来ませんでした。

彼は戻って来ないだろうと私は思いました。

普通に考えればわかることです。

報酬のお金も少ないし、それ以外にも何のメリットもないのに誰かのために危険を冒そうとする人なんていないんです。

そんなこと、私が一番よく分かっている筈なのに…。

私はちょっとでも人に期待した自分が馬鹿らしくなりました。


明日、私が採りに行こう。

これでも私はCランクの冒険者です。

お金にもそれほど困ってるわけではありません。

私はそうと決めるとカーテンを閉めて窓から離れました。



その日の夜。

突然、森から魔物たちの物凄い鳴き声や、地鳴りのような音が響き渡り、それが数時間のあいだ続き、町の人々を恐怖させました。

商人や冒険者の中には、夜にもかかわらず町から逃げ出して行く者もいました。

私も何があっても飛び出せるように身支度を整えて警戒しました。




それからしばらくして森が次第に静かになり、ほっと胸を撫で下ろしていた頃、今度は階下から明るい女の子の声が聞こえて来ました。

まさかと思い、私が駆け下りると、ルナール草を大量に抱えた女の子とその父親がいました。


思わず呼び止めて話を聞いてみると、彼がこの大量のルナール草を置いていったと言いました。

それも女の子が持っていたお金だけを受けとって…


訳が分かりませんでした。

一体全体どういうことなのか全然分かりませんでしたが、私の口元は知らないうちに弧を描いていました。



驚いたり、悲しくなったり、馬鹿らしくなったり、嬉しくなったり…

私はこれほど心を揺さぶられたのは初めてです。


彼はいったいどんな人なんだろう…

私はボロボロの服を纏った不思議な人に想いを()せるのでした。



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