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第25話 召喚師

俺はまたちょっとした大金を手にしてしまった。

まさか犬の散歩があんなに儲かるとは思いもしなかった。


結局最後は、領主からお叱りを受けたギルド長に、直々にやめるようお願いされた。

しかも依頼者からの依頼を断っているため、俺が本来受け取るはずだった依頼料の一部を損害賠償金として支払ってくれたのだ。


俺は犬の散歩の依頼をやめられるし、お金も貰えるしで大喜びだ。


それにいつのまにか、ランクが上がってDになっていた。

1日に受ける依頼の量が多かったため、RP(ランクポイント)がすぐに溜まったみたいだ。

ギルド嬢のお姉さんによれば、登録からランクアップまで過去最速をマークしたらしい。しかも2位との差が倍以上あるそうだ…。


なんか聞いたことあるセリフだな…。




Dランクに昇格した俺は、いつも通りの遅い時間に、同じようにクエストボードの前で依頼を見ていた。


しかしランクが上がった今、俺の首には昨日までなかったギルドの紋章が刻まれたプレートがぶら下がっている。

これはDランクから身に付けなくてはならい冒険者を証明する物で、ランク毎に区別されており、Dランクの俺は銅のプレートだった。

そして眺めている依頼も昨日まではと違うDランク様のものである。


その依頼内容はというと、討伐系のものがEランクより増え、逆に雑用系の依頼が減ったなぁという感じ。まぁ、そんなものかな。

討伐対象モンスターも、ウルフ、オーク、キラービーなどひと癖あるモンスターたちが中心になっていた。

他は、荷物持ちのクエストが相変わらずあるみたいだけど、Dランクのそれは、Bランク冒険者以上の荷物持ちが半数を占めるようになっていた。

さらに上の先輩からいろいろ学びましょうってことなんだろう。

そう考えると、俺は犬の散歩しかしていないから、こういう荷物持ちを経験した方がいいのかもしれない。

あとは…素材採集と城壁の見廻りか〜。


俺がどうしよか悩んでいると、ギルド内の雰囲気が突然変化した。

それは嫌悪や忌避、警戒を孕んだ空気だった。


俺はなんだろうと思って振り返ってみると、皆の視線が扉の前にいる1人の女性に集まっていた。

俺も釣られるようにその人物に目を向けると、その瞬間、心臓が止まり、身体中の血液が凍ったような感覚に襲われた。

その女性は、地の底から這い出した幽鬼のような気配を撒き散らし、朧月(おぼろづき)のような濁った眼で周囲を睨みつけ、その瞳は映る者の命を引き抜いていくかのように(あや)しく揺らめいていた。

けれど、死神か殺し屋かと思う印象とは裏腹に、意外にもその容姿は整っており、少し幼さの残る顔立ちと、淡い青色で短めの髪とが、氷のような無表情と(あい)まって、その人を一層ミステリアスにしていた。


俺が不思議な気持ちで見ていると、女性と目が合ってしまい、その冷たい眼で睨み返されてしまった。

なにものも寄せ付けない雰囲気を纏ったその女性は、視線が集まる中、受付へと歩きギルド嬢と話しをするとそのまますぐに出て行った。


女性が入って来てから静まり返っていたギルドは、次第に空気も緩みだし、暫くしてからまたいつものものへと戻っていった。


…何だったんだ?


俺は近くにいた気が良さそうなオッチャン冒険者に聞いてみると


「あれは、召喚師だ」と教えてくれた。


…また知らない(ジョブ)が出てきたなぁ〜。


「知らないのか?まぁ、そうそういるようなもんでもないしな。

でだ、召喚師ってのは、死者の魂を使役する奴のことを言うんだよ」


…イタコか呪術みたいなものなのか?

俺がふ〜んっていう顔をしていたので、男は更に説明してくれた。


「召喚師は使役する魂と契約しなけりゃならないんだが、その契約が(むご)いんだよ」


男は厳つい顔でさらにおどろおどろしい話を続ける。


「まず、相手を瀕死にしたり、動けないように拘束したりするんだ。それから契約の術式を施しながら、相手の心臓に剣をぶっ刺して殺すのよぉ。そんで死ぬとすぐに術式を発動し魂を縛り付けて使役するってわけだ」


なにそれ、怖い!?

俺の表情に満足した男は忠告してくれる。


「だからあの女には近づかない方がいい。何かのきっかけで後ろから刺されちまうかもしれないからな」


「っていうか、何でそんな危ない人を捕まえないんですか?」


「そりゃ、現場を押さえてないからだろ。縛られてる魂にでも聞ければいいんだがな」


なるほど、さすがファンタジーだ。

まぁ、確かに怖い話だったけど、受付のお姉さんは普通に話していたし、そう悪い人ではないのかもしれないな〜などと思いながら、俺は「ありがとう」と言って男に銅貨を握らせた。

…一度やってみたかったんだよね〜。


すると男も野生的な感じでニヤリッと笑う。

俺は男臭い雰囲気を楽しみながらその場を離れた。



俺はその足で受付に向かい、ウルフの討伐クエストを受けようとした。

しかしギルド嬢のお姉さんが言うには、ウルフの数も減少しているらしい。

だから無駄足になる可能性があると言われた。

しかもEランクではなかったが、Dランクからはクエストに失敗したり、キャンセルするとペナルティが課せられるそうだ。

そして、それは当然記録され、信頼度として数値化され一般に公開されるらしい。


…結構シビアなんだね。

俺はもっと緩くて、ゴロツキのたまり場みたいなのをイメージをしていたが、間違っていたようだ。


「情報収集と準備をしっかりとしてクエストに臨んで下さい」と言われてしまった。


俺は依頼を受けるのをやめ、そのままギルドから出た。

「準備をしっかりしろ」と言われて自分の装備を見直した俺は、この前保留にした剣を買うことにしたからだ。



俺は以前肉ダルマがオススメしていた武器屋に向かった。

肉ダルマ曰く、頑固オヤジが経営する小さい店らしい。


その店は入り組んだ路地裏にひっそりとあり、しかも入口が階段を下りた一段低い目立たない場所にあるため、教えてもらわなければ絶対に見つけられなかっただろう。


俺は狭い階段を少し下り、小さな入り口の扉を開ける。

扉がキィィと鳴って開くと同時に、中からややカビ臭い臭いが漏れてくる。

俺はちょっとドキドキしながら中を覗いて店内を見回す。

聞いていた通り小さい店で、地面より少し低い地下にあるためか店内は薄暗く、高い位置にある小さな明かり取りから差し込む弱々しい光が、所狭しと飾られたいろいろな武器を鈍く煌めかせていた。


店には俺の他に先客が1人いたようで、刀身がかなり肉厚で、斬るというよりも叩き潰すことを目的にしたような巨大なノコギリのような両手剣を目の高さに(かか)げて品定めしているところだった。


俺が店に入ると、その青い髪をした無表情の女性は、とても冷たく鋭い眼を一瞬こちらに向けると、手に持ったその禍々しい両手剣をまるで赤子の首を絞めるような手つきで軽々と握ってカウンターへ持って行く。

凶器を持って歩くその姿はヒタ…ヒタ…ヒタ…という足音が聞こえて来そうなくらいホラーだった。

そしてカウンターでは、しばらく店員さんをビビらせてからお金を払い出て行った。

すれ違いざまには俺もひと睨みされて、まるで凍りついたかのように動けなかった。


…召喚師。


彼女が出て行き、氷が溶けるように緊張から解放された俺は、安堵と共にブルリッと震えてしまった。

ビビった〜。

あんなに睨まれたの初めてだよ。

べ、別に興奮して震えたわけじゃないんだからな!?




気を取り直し、俺は当初の目的の剣を探すことにした。


ロングソードにグラディウス、レイピアにフランベルジュ…店には知っている物から武器なのかと疑うような物までたくさんあった。

ゲームだけでしか知らなかった物がここにある!

どれもこれもカッコイイ!


俺は感動で震えそうになる腕を抑えながら、目に入った1本の剣をゆっくりと引き抜いた。

光る刀身、そしてこのリアルの重み、最高だ。

男ならこの気持ちを理解してくれるはず…


俺がうっとりと剣を見ていると、


「兄ちゃん、その剣はやめときな」


そう言って奥からやって来ていた、小柄で筋肉質の店員さんに声を掛けられた。


「えっ?」


俺が疑問の声を上げると、店員さんは声を一段抑えて教えてくれる。


「その剣は、ちと(いわ)く付きでな、持ち主の寿命を縮めると言われてるんだよ」


なにそれ、怖い!?

俺は慌てて手を剣から離す。


「そ、そうなんですね。じゃ、やめときます」


そう言って俺はまた違う、目に止まった剣を手にして眺める。

すると、またも店員さんがやって来て


「兄ちゃん、その剣もやめときな」


そう言って店員さんは首を振る。

そして顔に息がかかるくらいにズズィと近づいて話を続ける。


「その剣は、ちと曰く付きでな、人間の血を(すす)り成長し、やがては持ち主をも呑み込むと言われてるんだよ」


マジで!?

ってか、なんでそんなの店に置いてんの!?


「そ、そうなんですね。じゃ、やめときます」


俺は持っていた剣を丁寧に元に戻すと、恐る恐るまた別の1本を手に取った。

すると…


「に、兄ちゃん、その剣だけはやめときな」


俺が声のした方に振り向くと、店員さんは壁に背中をくっ付けて顔を青ざめさせながら俺に声を掛けていた。


「そ、その剣は、ちと曰く付きでな、名の知れた海賊が鍛え上げた、(たる)専用の剣と言われてるんだよ」


危機一髪かっ!?

もう、そんなんばっかりかよ!

ってか、何でそんなにビビってんの!?


しかも値札を見るとメッチャ高いし!

俺の目玉が飛び出たわ!?



なんだか面倒くさくなった俺は


「あの〜、普通の片手剣ください」と普通に言った。





そうして俺は普通の剣を購入し店を出ようと入り口の扉に手をかけた。

そこへ店員さんが俺の肩を掴み引き止めた。


「最後にこれだけは覚えて帰ってくれ」


「…な、なんですか?」


俺が恐る恐る振り返ると、店員さんは俺が購入した普通のはずの剣をチラリと見て言葉を続ける。


「うちの店の剣は実は全部曰く付きでなぁ。どうやっても斬れないものが1つだけあるんだよ。

そいつはなぁ…」


「…そ、それは?」


「…そいつは、お前さんとその剣の(えにし)ってやつさ」


なぞなぞか!?


店員さんがニヤリッとしているのを無視して、俺は今度こそ店を出ようと歩き出す。

しかし、店員さんはまたも俺の肩を掴み、再び俺を引き止めた。


「まいど、ありがとうございました」


もう帰らせてっ!!



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