第24.5話 七夕
「疲れたぁ〜〜」
俺は叫びながら宿のベッドに倒れ込む。
今日も冒険者として一生懸命働いてクタクタだ。
まぁ、やってる事は犬の散歩なんだけど…。
でも、精神的に疲れるんだよ。
俺は深い溜息をつき、両手を広げて仰向けに寝転がる。
そこにぬいぐるみを抱きしめたティアもやって来て、ニコニコしながら俺の腕を勝手に枕にしてゴロンと寝転がる。
俺は空いている方の手で、我が物顔で俺の腕を独占するティアの鼻を摘んでフニフニすると、ティアはくすぐったそうにしてクスクス笑った。
それからティアの鼻から手を離し、乱れていた髪を整えてやりながら頭を撫でる。
ティアの髪は絹糸のような手触りで、腰まで届くほど長い金髪はそれ自身が輝いているようで、まるで夜空に架かる天の川みたいだ。
そんなことを考えながら、ふっと窓の外を見ると、今日も空には綺麗な星々が煌めいていた。
「綺麗だな〜」
夜空を見るたびに呟いてしまう。
俺はこちらの世界に来て初めて満天の星空というものを見た。
その感動は毎日見ていても褪せることがなかったのだ。
「じゃ、今日は織姫と彦星の話をしようか」
夜、寝る前に時々やっている読み聞かせ。
ティアもそれが好きなので、俺が話し始めると目をキラキラさせる。
その2つの綺麗な目は、ベガとアルタイルみたいだな、なんて思いながら俺は話を始めた。
夜空に輝く、壮大でロマンチックな物語を…
「むか〜し、むかし。
ある所に、牛追いの仕事をしている彦星という男と、機織りの仕事をしている織姫という女がいました。
2人はとても働き者だったので、それを気に入った神様が2人の結婚を認めてあげました。
めでたく夫婦となったんだけど、結婚した途端に2人は仕事をしなくなってしまいました…」
俺が話を進めていると、ティアはコテンと首を傾げて
「…どうして?」と聞いてきた。
「ん? あぁ、何で仕事しなくなったのかって?」
ティアはコクンと頷いた。
「え〜っと…」
「…」
「それはな…」
「…うん」
「あ、遊んでたんだよ…」
「…なにして?」
「えっと…」
「…」
「そ、そんなの決まってるだろ?」
ティアはまたコテンと首を傾げる。
「え〜っと、ちょっとティアには分からないかもしれないんだけど…。
彦星はな、毎日毎日牛の尻を追っかけ回し、織姫は織姫で1人で部屋でギッコンバッタンやってたんだよ…」
ティアはうんうんと頷きながら聞いている。
「そんな2人が一緒にいたら、やることなんて決まってるんだ」
ティアはジーッと俺を見つめている。
「そんな2人が一緒にいたら…
ゲームをするに決まってるじゃないか!
2人とは言えパーティーだ!!
パーティープレイ前提のイベントにも参加出来るんだ!
それに、BGMに変な歌詞をつけて歌いながら1人で狩りをすることもなくなるし、結婚システムがあるのに一生独身せずにすむんだよ!」
気づけば俺は、ティアの肩を掴み涙ぐみながら熱く語っていた。
ティアはちょっとビックリした顔をしていたが、静かに聞いていてくれた。
俺は恥ずかしい気持ちを隠すように、よしよしとティアの頭を撫でて気持ちを落ち着かせる。
「へへへ、ごめんな。
ちょっと悲しい事を思い出しちゃった。
…えっと、2人が仕事をしなくなった所からだよな」
それから続きを話し始めることにする。
「仕事をしなくなった2人に怒った神様は、2人を天の川を隔てて引き離し、1年に1度しか会わせないようにしてしまいましたとさ…」終わり。
話し終わってティアを見てみると、ちょっと微妙な顔をしている。
まぁ、普通に聞いたら只のバッドエンドだもんな〜。
「でもな、ティア。
このお話には、とっても大事な教訓が込められているんだぞ?」
真剣に聞いてくれているティアを見て俺は嬉しく思う。
ティアにはいい子に育って欲しいなと考えながら、俺は古より伝わる格言をティアに教える。
「ゲームは1日1時間!」
午後7時7分に投稿w




