第24話 初クエスト
次の日、俺たちは朝から冒険者ギルドの前にやって来ていた。
記念すべき冒険者としての初勤務だ!
にも関わらず、普通の冒険者よりもずいぶん遅いご出勤で、初級冒険者のくせに社長もビックリするくらいの社長出勤だったが…。
だって朝はすごい混むって聞いたんだもん…。
“だもん”とか言っちゃうくらい気の弱い俺は、混み合うギルドと聞いて、ラグビー部の部室みたいなイメージをしてしまい気が引けてしまったのだ。
俺が入っていけるのは、せいぜい卓球部が限界だ。
(肝っ)玉が小さいだけに…なんつってw
プププ〜。
隣にいるティアを見ると珍しく無表情だったが、何となく場が和んだところで俺たちはギルドの中へと足を踏み入れた。
外から覗いて分かってはいたが、中には冒険者らしい人の数はそれ程多くなく、カウンターに並んでいるのも2、3人くらいだったので気が軽くなる。
クエストボードの前にも人は疎らで、俺は他の人を気にせず、貼り出されている依頼をゆっくり見ることができた。
俺はワクワクしながらEランクの依頼が出されているボードを見てみた。
討伐系では、ゴブリン、コボルト、一角ラビット、フィールドラットなどがある。
まぁ、チュートリアル的モンスターだ。
その他の依頼は、上位の冒険者の荷物持ちが多い感じだ。
きっと“先輩からいろいろ学びましょう”ってことなんだろう。
他に目を向けると、迷子ネコの捜索、側溝掃除、犬の散歩、雑草抜きなどなど、ちょっと変わってるけど危険もなくできる仕事が並んでいた。報酬はお小遣いから1日バイト程の賃金だった。
こうして見ると、朝に貼り出されているだろう割りのいい仕事も気になったが、今日はこの中から選んで見ることにした。
まぁ、最初はやっぱりゴブリンでしょ!
俺はカッコ良く依頼書をピッ!と剥がしてみたが、意外としっかり貼り付けられており、紙の真ん中からビリビリと破れてしまった…。
俺は申し訳ない気持ちで俯きながら、破り取った依頼書を受付のお姉さんに差し出し、依頼を受けようとした。
「おはようございます。
こちらは…え〜、ゴブリンの討伐依頼で宜しいですか?」
ギルド嬢のお姉さんは破れて見づらくなった依頼書を受け取って、笑顔で確認してくれる。
「あ、はい。…すみません」
「クエスト受諾、ありがとうございます…と言いたい所なんですが、少々お伝えしなければならない事が御座いまして…」
そう言うと、お姉さんは笑顔をやめて真面目な顔になる。
…えっ!破ったから怒ってんの!?
それともペナルティか何かか?
俺はビクビクしながらお姉さんを見つめる。
そしてお姉さんの口から出たのは、お叱りの言葉…ではなく、町周辺の魔物の情報だった。
…よかった〜
俺は安堵からくる脱力感を感じながらお姉さんの説明をしっかり聞く。
お姉さんが言うには、どうやらゴブリンなど比較的弱いモンスターが数日前から減少しているので無駄足になるかもしれないという事だった。
最初のクエストで無駄足は嫌だ。
なので、俺は別の依頼を受けることにしてギルドを出た。
ギルドを出た俺たちは今日も街中を歩いていた。
今日は昨日行けなかった貴族街の方に来ていた。
貴族街の屋敷は一件一件が大きな建物で、広い庭は丁寧に手入れされており、花々が咲き並んでいた。
気持ちいい風が時折吹いて、のんびり歩いている俺たちに花の香りを届けてくれる。
え、仕事?
ちゃんとやってるよ?
俺の横にはティア、ティアの横にコレット、コレットのリードの先に犬。
俺の記念すべき最初のクエストは犬の散歩だった。
俺たちは依頼者から犬を預かると、適当にぶらぶら歩き回るというちゃんとした仕事をこなしている。
最初は俺がリードを持っていたが、途中からティアが持ちたがり、今はコレットが持っている。
たぶんティアは腕が疲れたのか、飽きたのだろう。
俺も楽してお金が貰えるので皆んな幸せだ。
俺たちはぶらぶら歩き、疲れたらベンチに座り、お腹が減ったら買い食いをした。
俺たちを見て、大人は微笑ましそうにし、お婆ちゃんはお菓子をくれて、子供たちは寄って集って戯れてくる。
そして時間になったら依頼者に犬を返してクエスト終了。
ギルドに報告して報酬を受け取り、宿に帰った。
…まぁ、最初はこんなものだろう。
これで一通り町も見れたし一石二鳥だ。
明日から絶対頑張るし!
次の日も俺たちは少し遅めにギルドにやってきた。
理由はいろいろあるけど、敢えて言うなら俺がチキンだからだ。
大勢の中で依頼の取り合いなんてできません…。
そういった如何ともし難い事情の結果、クエストボードに貼られている依頼は昨日とだいたい同じだった。
今日は何を受けようかなぁと考えていると、ギルド嬢のお姉さんに呼ばれた。
…なんだろ?
ティア、なんか悪いことした?
呼び出しをされて、いいことがあるはずがない。
これ、ソースは俺だから間違いない。
学生時代のあれやこれやを噛み潰したような顔で受付へと向かうと
「セイさんに、指名依頼が3件きております」
はぁ〜?
俺、冒険者になって3日しか経ってないんですけど?
…
……
だが、まぁ、思い当たることが無いわけではなかった。
それは…俺が異世界に転移してきたことだ。
つまり、それは言い換えれば、俺は選ばれし者!(ドヤァ
その俺がチートの1つや2つ持っていないわけがないだろう。
今まで気付かなかったのは、人がいなかったから。
人々が俺を求めて止まない力こそが、俺のチート能力!
名付けるならば【カリスマ】!!(ドヤァ
俺は納得し、鷹揚に頷きながらギルド嬢に続きを促す。
「3件とも犬の散歩の指名依頼ですね。
ティアちゃんと、ぬいぐるみも連れてお願いします、とのことです」
…
……そっか。
そういうことですか〜
まぁ、少ししか期待してなかったから別に大丈夫だよ?
そして、俺は今日も犬の散歩をして宿に帰る。
犬の散歩をしながら冒険者って何だろうと考えて疲れた俺は、今日も肉ダルマに宿の延長をして部屋へと戻った。
明日から頑張ろう…。
その次の日。
俺たちへの指名依頼は6件に増えていた…。
予想通りすべて犬の散歩だ。
はっきり言って、俺は全然やる気がない。
依頼者の犬を取り敢えず預かって来たけど、全くやる気はでない。
なのでリードは持ちたくないし、ティアもずっとは持っていられないだろう。
しかし今回は犬が6頭もいる。
俺はどうにかサボれないものかと考える。
それで試しに、犬を縦2列横3列に並べ、真ん中の2頭の犬の上にリードを持ったコレットを立たせて、散歩をさせてみた。
すると犬たちは隊列を乱すことなく歩き出した!
おぉ、上手くいったよ!
今日も楽ができそうだ。
交代交代に真ん中の犬を入れ替え俺たちは街を闊歩する。
俺たちを見た町の人たちは、楽しそうにしたり、ビックリしたり、ゲラゲラ笑ったりと様々だ。
「おひねりは止めてくださ〜い。
サインもしませんから!」
ちょっとしたハプニングはあったけれど、時間までしっかり仕事をして、依頼者に犬を返してクエスト終了。
ギルドに報告して報酬を受け取り、宿に帰った。
そしてまた次の日。
俺たちへの指名依頼は15件へと膨れ上がっていた。
もちろん全て犬の散歩だ。
ギルド嬢のお姉さんによれば、同日の指名依頼で過去最多をマークしたらしい。
しかも2位との差が倍以上あるそうだ…。
どうでもいいわ!?
ファンタジーな仕事をさせてくれよ!!
ホントに俺はやる気がでない。
依頼者の犬15頭を取り敢えず預かって来たけど、全くやる気はでない。
これはさすがに何回かに分けなければならないだろうか?と思う。
でもやる気がないのだ。
何回もなんてやりたくない。
どうしてもサボりたい俺は考えた。
それで試しに、縦2列横3列の犬を2組作り、真ん中の2頭の犬の上にリードを持ったティアとコレットをそれぞれ立たせる。
残りの3頭は俺が持って散歩をさせてみた。
すると犬たちは隊列を乱すことなく歩き出した!
この世界の犬は賢いなぁ、おい!!
ティアの乗る犬の隊列を先頭に、コレット、俺と続き、昨日と同じように街を闊歩する。
「拝まないで下さ〜い。
ご利益はありませんので!」
ちょっとしたハプニングはあったけれど、今日も無事仕事をやり遂げた。
そしてそのまた次の日からも指名依頼はどんどん増えていき、犬の散歩のために町の警備員が交通整理を行うようになった!?
こうして俺たちのパレードはギルド長が依頼者に頭を下げるまで続いたのだった。




