第23話 アーリアの街並み
午前中のうちに買い物を終えた俺たちは、午後を使って観光することにした。
アーリアは元々冒険者が集まって発展した町のようで、東西と南に門がある城壁に守られた町の中心に冒険者ギルドがあり、それを取り囲むように宿やお店が並び、さらにその外側へと民家が続いていた。
町には主要となる大通りが3つあり、1つ目は東西の門を結ぶ道で『中央通り』、2つ目は中央通りの北側に平行して走る道で『北通り』、3つ目が北通りの真ん中から南の門を結ぶ道で『南通り』だ。
上空から見ると、“干”の形をした大通りを円の城壁で囲ったようになっている。
大通りで区切られた町は、そのエリアごとに特色を持ってある程度住み分けされている。
例えば、南に広がる森から最も離れた北通りより北側のエリアには、領主の館や多くの貴族の建物があり、北通りと中央通りに挟まれたエリアには、食べ物や装飾品を売る店が並び、南通りの東側沿いは防具店、西側沿いは武器店が多くあると言った感じだ。
俺たちは買い食いなどしながらぶらぶら歩く。
町の中心に来た時、冒険者ギルドに寄って行こうかなと思ったが、なんだか派手な馬車が入り口に停まっていたので、やっぱりやめた。
そのまま西へと進み、俺たちが入ってきた門まで来ると、昨日と同じ若い守衛さんがいた。
俺は腕輪を外してもらうために冒険者カードを差し出すと、若い守衛さんはカードを受け取り、複雑な紋様が描かれた石盤に置いた。
ちょっとだけ石盤が光ると、カード取り外し返してくれた。
どうやらそれで終わったらしく、腕輪を外してくれた。
今のは何だったのかと尋ねると、「そんなことも知らないのか?」と言われたが教えてくれた。
説明によると、町に出入りする者を登録し管理するとともに、犯罪履歴や指名手配などがされていないかをカードから読み取っているらしい。
偽造されないのか尋ねると、魔力で個人を識別しているから問題ないそうだ。
面白いことも聞けて満足した俺は、若い守衛さんにお礼を言って門を離れた。
俺たちが貴族街以外の場所をひと回りし終わる頃には空が茜色に染まり始めていた。
いい頃合いなので宿に向かって歩き出す。
俺たちが街を練り歩いている間も、ティアとぬいぐるみはかなり目立っていた。
はじめ俺は、視線がどうにも気になってしまったので、ウサギに1人エスカレーターで歩くのだけはやめるようお願いした。
あれはかなり不自然だからね。
これで視線も減るだろうと思っていたが、全然変わらなかった。
俺は不思議に思いはしたが、これ以上視線を集めている理由も思い付かなかったので、考えることを諦めた。
宿に戻り夕食を食べながらそのことをゆるふわロングのお姉さんに聞いてみると
「そりゃ、そんな動くぬいぐるみなんて見たことないもの」と言われてしまった。
「…え、人形って動かないんですか?」
俺は自身で見い出したこの世界の摂理を口にした。
するとお姉さんは、馬鹿でも見るかのような顔をする。
「あのね〜、人形が動くわけないじゃない…」
ヘェ〜、初めて知りました…。
「え、じゃ、何でこれ動いてるんですか?」
俺は馬鹿丸出しで聞いてみる。
「そんなの知らないわ。
あ、でもマリベルなら知ってるかも」
マリベル?
誰、そのかわい子ちゃん!?
俺は明るい髪でちょっとタレ目な気が弱いけど優しい女の子をイメージしてみる。
…うん、すごくイイ。
俺は更に踏み込み、その子が幼馴染で、両親が留守の時に「仕方ないなぁ〜」と言いながら晩御飯を作ってくれたりする姿を妄想していると
「あらん♡わたしを呼んだかしらん?」
そこへ料理を持った肉ダルマが現れた!
お呼びじゃねーよ!!
「丁度いいわ。このぬいぐるみがどうして動いてるのかわかるかしら?」
あれ!?なんかおかしくない!?
あれ〜?うそ〜!?
「ちょ、ちょっと待って下さい!
こ、この肉ダルマがマリベルさんですか!?」
名前、可愛すぎんだろ!?
もう人形なんてどうでもいいわ!!
「肉ダルマだなんて失礼しちゃうわん♡」
このプンプンしている化け物がマリベル…だと!?
「フフフ、そうよ。本当はマリオスベールっていうんだけどね。」
おぉ、なんかカッコイイ名前だな…。
「まぁ、そんなことより、どう?知ってるかしら?」
全然そんなことじゃないですよ〜。
むしろ人形の方がそんなことだよ…。
俺のマリベル像が音を立てて崩れていく中、2人は話を進めていく。
「そうね〜♡お嬢ちゃんはドールマスターなんじゃないかしらん?
わたしはそう思ってたんだけど♪」
ドールマスター?
聞いたことないんですけど…
「詳しくはわからないけど、王都でゴーレムを動かしてる部隊を見たことがあるわん♡」
ゴーレムってまたファンタジーだなぁ〜
「おい、ティア。これってお前が動かしてたのか?」
俺は手っ取り早くティアに聞いてみた。
「…うん」
ティアは「何をいまさら?」って顔で頷いた。
…まぁ多少は驚いたが、マリベルに比べれば些細なことだ。
でもあれだな…
今まで俺はぬいぐるみが勝手に動いてると思ってたから、ぬいぐるみに話しかけたり、お願いしたりしてたんだけど、それってどうなの?
ヤバイッ…
いろいろ思い出すと恥ずかしくなってきた。
だってこの歳で人形遊びしてると思われてたってことでしょ!?
俺はおデコをテーブルにつけて頭を抱えた。
…
…忘れよう、うん。
全ては肉ダルマが見せた悪夢だった、それでいいじゃないか…
全てを無かったことにして俺はゆっくり顔を上げる。
するとティアがニコニコして俺を見ていた。
ぬいぐるみもテーブルに登って俺の肩をポンポン叩く。
…。
この野郎〜
部屋に戻ったらくすぐり地獄だ!!




