第22話 お買い物
次の日、今まで森で生活していた俺にとって、朝の街の音はとても大きく感じられ、まだ寝ていたい時間だったが目を覚ましてしまった。
ティアは隣で寝息をたてており、ぬいぐるみは床に落ちていた。
ぐったりと普通のぬいぐるみみたいにしているコレットを拾い上げ、起きろーっと念じながら上下左右に振ってみる。
…しかしピクリとも動かない。
いったいどうなってんのかな?このぬいぐるみ…。
そんなことをしているうちにティアがもぞもぞと起き出した。
俺はおはようと言いながら、ティアのぐちゃぐちゃの髪を手櫛で整える。
ティアはいつも通りニコッとするが、俺の腕を取り力弱くはむはむと噛んでくるので、まだ寝ぼけているのだろう。
ティアをシャキッとさせて2人で食事を取りに行こうと部屋の扉に向かうと、いつの間にか起きて来たぬいぐるみのコレットが一緒について来る。
「おはよん♡」
3人で食堂へ下りていくと、すぐ後ろから挨拶された。
なので俺は挨拶を返しながら振り返る。
「おはイオぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!??!?」
振り向いた瞬間、目に飛び込んで来たバケモンの姿に俺は世界を越え、太平洋も越えてぶっ飛ぶくらいの衝撃を受けて、背後に飛び退きながら尻餅をついた。
恐怖の余りその体勢のままティアに抱きつきガクブルってしまう。
…ホント死ぬかと思った。
ちょっと慣れたと思っていたが甘かった!
「…お、おはよう」
殺されそうになりはしたが、相手はただ立っていただけだ。
挨拶をしない理由にはならないので、俺はどうにかこうにか挨拶を返した。
「あら、驚かせちゃったみたいねん♡
急に声を掛けてごめんなさいねん(*'ω'*)」
ウフフ♪とか言って笑っているが、そんな次元の話じゃねーよ!
お願いして熊除けの鈴でも付けてもらおうかな?
「食事、すぐ運ぶから待っててねん♪」
そう言って、肉ダルマはお尻をプリプリ振りながら奥へと消えた。
俺たちは朝食を済ませると外へ出た。
今日は買い物だ。
必要な物はいろいろあるが、まず最初は服だろう。
いつまでもティアにシャツ1枚の格好はさせられないし、俺も臭っい服を着替えたい。
まぁ、この臭いのおかげで弱い魔物が寄り付かなくなったことには多少感謝してはいるが…。
俺たちが大通りを手を繋いで歩いて行くと、女の子の服を多く並べた小綺麗な店をさっそく見つけた。
中に入ると、俺たちの格好を見た綺麗な店員さんに警戒されて地味に傷付く。
もう帰りたくなってきたが、繋いだティアの手をギュッと握って勇気を貰い、店内を見回してみる。
しかし、売られているのはドレスばかりで、何をどう買えばいいかわからなかった。
だって普通の日本人の男が、ドレスを選べるスキルなんてある訳ないじゃん!
ドレスとネグリジェの違いも分かりませんから!?
それでオドオドしていたらまた警戒されてしまった。
途方に暮れていても仕方がないので、とりあえずティアに任せてみることにする。
「ティア、好きなの選んで?」
ティアはコクリと頷くと、テテテと走って行き、すぐに選んだ物を持って戻ってくる。
それから、ニッコリ笑って選んできた物を両手で持ち上げ広げるようにして俺に見せてくれる。
そのスクール水着みたいな服を…。
こ、これはダメだ…
店のお姉さん達が俺を見ながらヒソヒソしているのを横目で見て顔が引き攣る。
「ほ、他にはあるか?」
ティアはまたコクリと頷くと、今度は膝まで隠れるほど長い靴下を持ってきた。
…
……
………この子は天才だ!
俺は心の中で大絶賛!
だが…だがダメだ!!
何故なら、世界がそれを許してくれないからだ。
俺たち2人ではもう無理だ…ここはプロの人にお任せしよう。
俺は周りを見て大体の値段を把握すると、銀貨5枚を取り出し、丈夫で汚れが目立たない物という条件で適当に見繕ってもらうようお願いした。
店員さんは、俺がお金を出したことで安心し、ティアに好みを聞きながら張り切ってコーディネートしてくれた。
しばらくして出てきたティアは、黒を基調としつつ、アクセントとして白や赤が混ざったドレスを纏っていた。
それに合わせたブーツのような靴も履いており、どこに出しても恥ずかしくないゴスロリだった。
下着をつけていなかったため、ドロワーズも買うことを勧められたので数着買った。
今までノーパンだったからね…。
ティアも気に入っているようで、スク水ニーソのときより嬉しそうにしている。
服を買って店を出ると、ティアはゴスロリの服に花や葉っぱや虫の抜け殻をくっ付けてオシャレを始めた。
それが終われば、今度は俺の服の番だ。
…俺の服なんて簡単なもんだ。
店に入って10分で終わった。
シャツとパンツと汚れの目立たない安いっぽい防具。
ティアの服の1/5の値段で済んだ…。
その後1、2軒の店に入っていくつか買い物を終えると、もう何を買えばいいのかわからなくなった。
だって何もない状態で数ヶ月を過ごし、その状態でも一生暮らせる術を身につけてしまった今、必要な物と言われて分からなくても仕方ないでしょ?
俺たちはベンチに座り、他に何が必要だったかな〜っとゆっくり考える。
ティアもニコニコしてウンウン唸っている。
でもこれは、ただ俺の真似をして考えてるフリをしているだけで、実際はぬいぐるみと遊んでいる。
ぬいぐるみはぬいぐるみで奇妙に動き回っている。
前に歩くと、少ししたらムーンウォークで帰ってくる。
そしてまた前に歩いたかと思えば、今度は歩くフォームは全く変わってないのにバックで戻って来たりしている。
足の裏の毛を使っているのだろう…。
そんなことをしながらぼ〜っとしていると、だんだん俺たちの周りに人集りができはじめた。
みんなはティアとウサギの遊びに興味を持ったみたいだ。
大勢に見られたウサギは調子に乗りだし、耳と手と足をうねうねさせて気持ち悪い動きをし始めた。
そして歓声が湧くと、更に調子に乗って今度は身体も巧みに使って謎ダンスを披露する。
俺はそれをボーッと見ているうちに閃いた。
そうだ、武器を買おう!
えっ、ウサギ?関係ないよ。
ますます調子に乗りだし、俺にウサ耳パンチをしてきたぬいぐるみに、ちょっとだけイラッとしたけど関係ないよ。
俺たちは惜しみない歓声に送られて武器屋に向かった。
俺が買うのは当然…弓矢だ!
これから冒険者として活動するわけだが、依頼によっては自分からモンスターと戦わなくてはならない。
その度にいちいち接近戦を仕掛けるのはリスクが高い。
これはゲームじゃないし、俺は死にたくない。
どんなイレギュラーが起こるかわからないから、慎重に行動すべきだろう。
…だから弓矢だ。
俺は特殊職としてサバイバーを取っているので、武器の類は一様に扱えるので問題ない。
矢も多めに買って鞄に入れる。
あれ!?弓矢とアイテムボックスって相性いいなぁ!
ロングソードも欲しかったけど、今回は見送ることにして店を出た。
武器も防具も三流品。
でも俺はEランク冒険者だから、これくらいが丁度いいのだ。あとお金もないし(ボソッ
こうして俺たちの買い物は取り敢えず終わった。




