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第16話 東の街道 5

俺たち3人は東の街道をのんびり歩く。

隣を見ると、俺の右手をティアが握って、ティアの右手をウサギが掴む。

俺は穏やかな気分で前に広がる草原に視線を戻す。


って、どう言うこと!?


二度見!

異世界初の二度見です!


なんでウサギが歩いてるの!?

それ、ぬいぐるみだよね!?


「お、おいティア。その人形はいつから歩けるようになったんだ?」


俺が尋ねると、ティアは小首を傾げて


「…ちょっとまえ」 と答えてくれた。


マジで〜!?

まだハイハイも出来ないと思ってたら、いきなり歩き出したよ!


異世界すごいな〜。

あ、でもそういえば、ティアもハイハイしてないし、もしかしたらこの世界の人たちは最初から歩けるのかな〜?

俺は自分の常識を少しだけ捨てて考えてみる。


…いや、それはないか?

最初からそんな脚力があったら、妊娠女性の多くはお腹を突き破られてるぞ?


俺は自分の馬鹿な考えを一蹴しようとしたのだが…。

いや、待てよ…しかし、ここは異世界なのだ。

俺は未だ自分の常識に囚われていることに気付き、頭を空っぽにして更に考えてみた。


…も、もしかして突き破られてんの!?

お腹を障子みたいに蹴破られて出産した人とかいちゃうのか!?

イヤイヤイヤ、そんなの“オギャー”って言いたいのは妊婦の方だよ!?

それだったら妊婦の腹筋が物凄いっていう可能性の方が…

……

………

俺は色々と想像してはみたが、結局なんかよく分からないから“ファンタジー”ということで片付けることにした。

このぬいぐるみも何で歩いてるのかは分からないけど、きっとファンタジーで、この世界の人形は歩くものなんだろう…。



これ以上深く考えないようにして俺は街道を進む。

慣れとは恐ろしいもので、しばらくしたら全然気にならなくなった。

微笑ましいとさえ思えるようになった。



時折りすれ違う人たちも、ウサギのぬいぐるみと仲良くしているティアに優しく笑い掛けていた。



俺たちがお昼ご飯を食べていると、護衛を伴った家族連れが近づいてきた。

ティアくらいの男の子と少し小さい女の子の兄妹は、ウサギのぬいぐるみに興味津々で、ティアと二言三言話すと3人で仲良く遊びだした。


ティアのコミュ力、スゲェ〜。


感心していると夫婦が話しかけてきた。


「すみません。少しの間、子供と遊んでもらえませんか?」


ティアも楽しそうだし全然構わない。


「助かります。私の我が儘で妻と子供を連れ出した手前、お願いされると断れなくて…」


どこの世界のお父さんも大変だなぁ〜

など考えながら会話を楽しむ。


奥さんがお菓子を取り出すと、子供たちがやって来た。

俺たちもご馳走になり賑やかなひと時を楽しんだ。




家族と別れ、俺たち3人は東の街道をのんびり歩く。

隣を見ると、俺の右手をティアが握って、ティアの右手をウサギが掴む。

俺は穏やかな気分で、前に広がる草原に視線を戻す。


って、どう言うこと!?


二度見!

異世界2度目の二度見です!


なんか、ぬいぐるみが歩いてないのに進んでる!?

こいつだけエスカレーターに乗ってるみたいに進んでる!?


どうなってんの!?

スキップやムーンウォークはまだ許せたけど、これはおかしい!!


「お、おいティア。その人形はいつから歩かなくても歩けるようになったんだ?」


自分で言ってて意味がわからない。

意味はわからないが、尋ねずにはいられなかった俺の疑問に、しかしティアは小首を傾げて答えてくれた。


「…ちょっとまえ」


マジで〜!?

いやいや、どういうことだよ!?

気になって眠れなくなるわ!

そもそも数時間でここまで謎進化するやつと一緒に寝たくないわ!?


ということで、じっくり話を聞いてみるが…

…わからなかった。


ティアのよくわからない説明を要約すると

「歩くのダリィーからこうなりました」

みたいな感じだった。反抗期か!?


ティアに聞くのを諦め、1人エスカレーターしてるぬいぐるみを持ち上げて調べてみる。

風もないし、炎が噴出してるわけでも、重力などが変化しているわけでもない。

今度はぬいぐるみをひっくり返して調べてみる。

と、そこで俺は正体を突き止めた!

なんと、その人形の足の裏の毛がウニョウニョ動いていたのだ。


キモチワルッ!!

こいつ足で歩くの辞めて、毛で歩いてやがる!


自分で言ってて意味がわからない。


どうなってんの、異世界の人形!?

喋りだしたりしないよね?




謎が解けてスッキリした気分と不気味さが少し、あとの大半はキモチ悪さを覚えつつ、俺はまた街道を進む。


俺とティアは歩き、ぬいぐるみが1人エスカレーターしながら進んでいると、2つ目の宿場町が見えて来た。

もうすぐしたら日も沈み始める時間だ。

町に入っても宿に泊まれないし、ゆっくり露店を見る時間もないだろう。

俺たちはいつものように野宿の準備をし、食事をする。


その後、辺りがまだ明るかったので、俺は昨日キラーアントの巣から持ち出した植物を鞄から出して整理することにした。

ルナール草は急いで取り分けたが、他の植物はぐちゃぐちゃに混ざっている状態だ。

種類ごとに分け、枯れてるものや汚れているものは捨てる。


そうして粗方整理が終わった頃、1台の馬車が俺の前に停車した。

馬車から降りてきたおじさんが、俺が広げている植物を眺め尋ねてきた。


「名前も値段も書いてないようですがこれは売り物ですか?」


「いえ、適当に森から持って来たんですが、どうしようかと悩んでいたところです」


「そうですか?

…では私に売ってくれませんか?」


おぉ、これは嬉しい申し出だ!

どうせ持っていても枯らすだけだし。


「言い値で売りますよ」


俺がそう言うと、おじさんはちょっと驚いた顔して考え出した。


俺はお金がいくらか貰えるだけで十分だった。

ボッタクられても構わないと思ったので、気軽にそう言っただけだが、おじさんは何故か物凄く悩んでいる。


おじさんは悩んで悩んで悩んだ挙句、金貨1枚を取り出した。

俺が戸惑っていると、何を血迷ったのか小金貨3枚をさらに追加した。


俺は訳も分からないまま、差し出された金貨と小金貨を受け取り、混乱する頭でなにか言ってるおじさんに適当な相槌を打つ。

するとおじさんは植物を馬車に積み込むとお礼を言って去ろうとした。


待って待って!?

何これ、ドッキリですか?

こんな大金受け取れるわけないじゃん!?


俺は金貨をおじさんに突き返し、有無を言わさず受け取らせた。


おじさんは、涙を溜めて喜んだ後、また何度もお礼を言って去って行った。


お金を返したら泣いて喜んでたんですけど…

罰ゲームか何かだったのか?

心臓に悪いから俺を巻き込まないで欲しい。

俺、異世界初心者だからね!?まったく…



そして俺の手元には小金貨3枚が残っていた。

なんかよくわからないけど大金を手に入れました…。



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